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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
43/46

43 ザ・プレイヤーズ・イン・ザ・シャドウズ①

シーズン1前半の終わり。

影で暗躍する者たち。43~45まで続きます。





 ハチオウジ市立永星病院しりつながほしびょういんの診察室。レントゲンスライドを前に二人の男が向かい合っていた。


「なるほどな」


 そう呟く後藤の疲れた顔をスライドの光が照らしている。


「どうするつもりです?」


 後藤の対面に座る眼鏡を掛けた中年の男、今井ユウキュウが不安気に尋ねた。


「私は手の届く範囲を救うことを決めたが、やはり、こうなってくると根源に向き合うべきだと思うようになった」


「後藤さん、それで良いんですか? もっと自分を……」


「それよりも最近、事件や事故の被害者で超人に覚醒した者はいないか?」


「やはり、フシモリの息がかかったハチオウジ高度医療センターが動いているようでなかなか難しいです」


 後藤は溜め息をつき、横目でスライドを見つめた。





 夕刻、黒い雲が立ち込めて薄暗く、湿った空気を纏っていた。ハチオウジ駅前の雑居ビルには猥雑なネオンが次々と灯り始めた。雑踏を歩く人々は雨を警戒してか傘を持ち、早足に駅に向かっている。


 その雑踏の中をソフト帽にトレンチコートを着た後藤が歩いている。病院を出た後藤はバーの準備をするべく、ハチオウジ駅に戻っていた。


『皆さん、こんにちはフシモリの社長を務める鎖藤コウナガです』


 カラオケ棺に設置された巨大モニターにフシモリの広報映像が流れていた。画面には鎖藤の満面の笑みが映し出されている。後藤は立ち止まり画面に映る鎖藤を見つめた。


「鎖藤……」後藤が呟いた。


『我々フシモリは知っての通り、大災害で不幸な目に遭われた方々を救う為……』


 モニターを見つめる後藤の眼には怒りと哀しみが宿っていた。プルルル、着信音が響き、後藤は携帯端末を取り出した。


「後藤だ」


『米山です、リトルグレイによる爆発事件で依頼を受けた玉屋さんが亡くなりました。自殺です……妻と息子二人を亡くして限界だったようです』


 米山の報告を聞くと後藤は暫くの間、眼を瞑っていた。


「そうか……彼の恨みを晴らすことができず申し訳ないことをした」


『不条理なもんです……悔しいですよ、フシモリの末端を潰しても本体を潰さない限り何も変わらないってことですよね、くそ!』


「不条理か……」


 ふいに後藤は背を丸めると咳込んで口元に手をあてた。咳が収まり、手を見ると微かに血が混じっていた。


『大丈夫ですか?』


「大丈夫だ。連絡ご苦労様だったな」


 後藤は携帯端末を切ると再び、モニターに目を向けた。フシモリの広報映像は終わっており、ニュースが流れていた。


「フシモリへ復讐を誓う高取を加入させたのは必然だったか。もう、今までのやり方も限界か……やはり目を背ける訳にはいかないということか」


 後藤は携帯端末のデータベースを検索するとすぐに目的のアドレスを見つけた。


「すまんな……」


 後藤は呟いて通話ボタンを押した。その時、地面に一滴の雨が落ちた。





 激しい雨が降りしきる深夜の高尾山。その中腹に煌々とグリーンに光り輝く巨大な研究施設「愛研常識あいけんじょうしきの会」がある。施設は複数の研究棟とタンクの連なり、複雑に連結されたパイプで構成されていた。


 高尾山は日本大災害により、隆起と断裂を繰り返したことで危険地帯となり、古代の遺物も出土。これにより一般人の入山を禁止。同時にフシモリが出資して中心となり複数の機関や企業が協力して高尾山の保全と研究をする為の施設、愛研常識の会が設立された。


 愛研常識の会の通用門より一台のトラックが外に出た。トラックは所々に監視カメラと監視棟が見える山道を下っていく。激しい雨がフロントガラスに叩きつけられ、ワイパーが追い付かずに視界が悪い。


「雨か嫌だな」


 運転席に座る中年の男、青田レイタが呟いた。助手席に座る若い男、招雄まねおショウは黙って座っている。二人とも黒いキャップを被り防弾服を着ている。


 高尾山の封鎖地点までトラックが行くと鋼鉄のゲートが見えてきた。ゲートの守衛が見守る中、青田がセキュリティーカードをカードリーダーに読み込ませた。すると鋼鉄のゲートが大きな音を立てて左右に開き、トラックはゲートを通過した。


 一般道に出たことで安心したのか招雄はラジオをつけるとニュースをやっていた。


『……薄木都知事は本日、相次ぐテロから東京を守る為に強制力を伴う規制を検討すると発表しました……』


「薄木のパフォーマンスか。次の選挙対策だな」


 青田の愚痴を聞きながら招雄は窓の外やミラーを見ながら周囲を警戒していた。


「そういえば招雄といったか、どうしてブカツドーに入ったんだ?」


「せっかく超人に覚醒したんです。力を生かして金と地位を手に入れたいと思っただけですよ。ブカツドーで活躍できれば大企業のフシモリに入れる、そうなれば俺は安泰です」


「そんなもんか、だけど安泰かどうかはわからないぞ。激しい企業間闘争で死ぬ奴らを何人も見てきた。最近じゃ、正体不明の殺人者がフシモリのエージェントを殺してるって話もある。気をつけることだな若いの」


「余計なお世話です。俺は実力があるから大丈夫ですよ。それより青田さんもなんで危険な仕事を?」


「俺は危険だろうが何だろうが金が多く貰えりゃ良いんだ。それで酒と女と博打がやり放題よ」


 招雄は蔑んだ目で青田を見ると黙って外の景色に目を向けた。景色の中に民家が増えてくる。さらに雨は激しくなってきた。


 ふと背後の交差点からシルバーのハッチバック車が左折してくるのが防弾サイドミラーに映る。その後、市街地に入っても、他の車を挟みながらもずっと後ろについてきた。


「おい、招雄、後ろに来てる車」


「わかってます。青田さん手順通り、追い込んで下さい」


 焦る青田の横で招雄は冷静に言った。トラックは走りながら、再び人家の少ない地域へと向かう。依然としてシルバーの車が後ろからついてきていた。


 トラックの左右が再び雑木林へと変わった。その時、シルバーの車がスピードを上げてトラックとの車間を縮めた。さらに雨にも関わらず助手席から女が窓を開けて、身を乗り出してきた。花柄の服を着た四十代の女でその手にはサブマシンガンが握られている。


「お前! 世子浜よこはまに喧嘩売ってんじゃねぇぞ! この野郎!」


 女が叫びながらサブマシンガンをトラックに連射した。弾がトラックの荷台に当たり金属音が響き渡る。


「世子浜なめんじゃねぇ!」


 女はさらにサブマシンガンを連射すると防弾サイドミラーにひびが入った。


「おい! 逃げんのかよ! えぇっ! お前、世子浜に喧嘩売ってんじゃねえぞ! この野郎!!」


 女は同じようなことを叫び、連射したが一瞬、銃撃がやんだ。ひび割れたサイドミラーを見ると女はサブマシンガンのマガジンを交換している。招雄は微笑んだ。


「気の力じゃなく実銃か……青田さん、後は頼みました」


「わかりました」


 招雄は車内灯を点け、ドアを開けた。そして、両手を組み合わせて親指と人差し指を立てた状態にした。灯りの下に影ができている。招雄は外に顔を出した。ちょうど女がマガジンを交換し、サブマシンガンを構えている。


「インシディアスブリー!!」


 招雄が組み合わせた両手の影が突如立体的に浮かび上がるとひとりでに動き出してドアの外に向かった。招雄がシルバーの車を睨み付ける。


「アクト1! カンチョー!!」


 招雄の叫びで影が激流のようにシルバーの車へと高速で殺到した。同時に女のサブマシンガンの銃撃が再開し銃弾が招雄の頬を掠めた。


「おいおいおい! 待て待て待て待てよ!」


 女が焦った表情をした瞬間、影がシルバーの車のボンネットに直撃した。


ボォォォォォォォォン!!


 ボンネットが爆発し、その衝撃で車が一回転し天井から地面に叩きつけられた。


ボォォォォォォォォン!!


 さらに炎がガソリンに引火し車が爆発、炎上した。トラックはすぐにその場に止まると招雄は車外に降りた。雨の中を走って炎上している車に近づいた。


 炎上した車の運転席、赤いダウンのベストを着ている男が炎に包まれて微動だにしていない。助手席を見ると先ほどの女が身体を焼かれながらも車から這い出てきた。


「ぐぎぎ……」


「これで生きてる……あんたも超人か」


 招雄は女に近づくとその頭を足で押さえつけた。


「フシモリに敵対しようってことは伊藤インダストリーか? それともただの駒は何も知らないか?」


「ぐ、なめんな……」


「超人でありながら、大した能力もない奴がこんな仕事を引き受けるな。死ね」


 招雄は頭から足を放すと素早く顔面に蹴りを入れた。


「ギャァァァァァァァ」


 女は炎上する車に叩きつけられて全身が炎に包まれた。招雄は再び両手を組み合わせると影が動き出した。


「アクト1! カンチョー!!」


 影が女に向かって一直線に進むとその身体を貫いた。


「!?」


 女は身体を激しく動かしていたがしばらくすると動きがピタリと止まった。


「雑魚め」


 招雄が吐き捨てるように言うと両手を解き、影も消えた。懐から携帯端末を取り出して番号を押した。


「こちら護衛任務三〇三に就いている招雄です。追跡者がいたので排除しました。処理をお願い致します」


 激しい雨が降りしきる中、招雄は炎上する車の前で燃える女を見ていた。


 暫くするとサイレンと共に装甲パトカーと白いセダンの二台が猛スピードで駆けつけた。パトカーからは合羽を着た制服警官が二人、白いセダンからはくたびれたスーツの太った男が出てきた。傘をさして男が招雄に近づいてくる。


「はじめまして交通課の五里です。後の処理は我々に任せてください」


「宜しくお願いします」


 五里が招雄に簡単に事情を聞く後ろで合羽を着た制服警官が炎上している車を確認している。


「横転事故の線で処理だな」


「それが良い……うん!? おいサブマシンガンが落ちてるぞ、五里さん!」


 制服警官が後ろから五里を呼んだ。


「どうした? もう大丈夫です。お仕事に戻ってください」


 五里はそう言って制服警官に近づくと落ちているサブマシンガンを見た。


「型式はMPAP5か……組対にまかせるか」


 五里と制服警官が話をしているのを横目に見ながら招雄はトラックに戻った。



 招雄はフシモリ系列の民間軍事会社「ブカツドー」の訓練生であった。任務を務める内に評価も上がっている。今回はフシモリの指示で愛研常識の会のトラック運送を護衛する依頼を受けていた。もちろん末端の招雄には積み荷の中身は教えられていない。


 招雄は超人としての技能を磨き、エイトプリンスと呼ばれるフシモリの暗部組織に入り、出世することを目指していた。その為にはブカツドーで実績を残さなければならない。招雄はブカツドーの中でも積極的に任務に参加し実績を積んできたつもりだ。


「ありがとう」


「任務ですから」


 頭を下げる青田に向かって、招雄は満足気に頷いた。


 トラックが再び走りだした。やがて、フシモリの本社に着き、積み荷を引き渡した。


 招雄が作業を見守っていると教官の似非原えせはらタコウエから携帯端末に連絡が入った。


「話は聞いた。任務をよく達成した」


「いえ、教官の指導のお陰です」


「警察からも連絡があって現場も隠蔽できた。早速だが殿付とのづけさんから連絡があった。良い話だろう、お前の能力は私も評価している」


「ありがとうございます」


 招雄はギラついた目で答えた。



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