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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
42/46

42 トラジェディ・オブ・ザ・チーギュウ街③

チーギュウ街での化け物退治。40~42まで続きます。


ページ下部にある【設定資料】ハチオウジギア のリンクに登場人物紹介あります。





 マキモシキツト稲城物流センターとフェンス越しに隣接するチーギュウ街。高取はコールマンと共にフェンスを飛び越えて下り立った。


 目の前には廃墟となった商店街があり、奥へと暗く老朽化したシャッター街が続いていた。さらに跳躍して雑貨店の屋上に着地、コールマンも続いた。


「奴はこの先にいるわ。被害が出る前に……仕留めましょう」


「ええ」


 高取は商店街の屋上を次々に飛び移りながら進んでいった。屋上から見たチーギュウ街は光輝く稲城区の市街とは対照的に光が少ない。暗い廃墟の群れに威圧感を感じた。


「チーギュウ街には初めて?」


 後ろからコールマンが問いかける。


「いえ、数回くらいですかね。生徒にも行くなと言ってましたしね」


「普通はそうよね。私は狂師になってから仕事で来たわ。酷い街よ、人を人とも見ていない。だから、ライフウェーブやフシモリのような闇の勢力が好き放題に住人を弄んでいる」


 コールマンが屋上を並走しながら、顔を向けた。


「皆、無関心だからチーギュウ街が……いえ、不条理が罷り通るのよ」


「……仕方ありません。私もそうですからね」


 大きく跳躍すると商店街の一番端にある屋上に着地した。


「見つけたわ」


 横に着地したコールマンが指を差す。高取が目をやると寂れた住宅街へと続く枯れ草が生い茂った道をゆらゆらと人が歩いている。


 野球帽を反対に被り、棹のような右手腕をした男だ。


「あの男ですか」


「行くわよ」


 高取とコールマンが同時に跳躍した。


 跳躍しながら拳を握ると腕が熱くなった。ジャキィン! ジャキィン! 両腕のアームカバーから二対の刃を突き出す。


 ブゥゥゥゥゥン! 横を見るとコールマンの取り出したボールペンから光の刀身が現れて固定されている。


「ハァァァァァァァァァァァァァ」


「ハァァァァァァァァァァァァァ」


 空中から男の背後を目掛けて刃を重みを乗せて振り下ろす。


 一瞬、男は気配を察知したのか振り返ると棹のような右腕を振る。


 ガキィン! 棹が高取の刃を受け止めた。


 そこに横からコールマンが光るペンを男を斬りつける。しかし、今度は棹の先端から糸と針のようなものが飛び出し、糸が光るペンを弾いた。


「くっ」


 高取は刃を引き、地面へと着地。コールマンも着地。


 二人は男と向かい合った。風が吹き道路の脇にある草が揺れている。


 男がふいに恍惚に浸るように目をトロン、とさせた。


「ソォーソォー」


 男は棹を振り上げる。空気を切り裂く音を響かせ、糸と針がこちらを目掛けて飛んできた。


「早いっ!?」


 避けられない。高取の右腕に針が直撃した。引っ掛かる。


 次の瞬間、高取の身体は空中高く持ち上げられた。身体の一部を吸われるような感じがする。


 早井との戦いを思い出すがそれよりも圧は弱い。素早く左手で針を抜く。空中から放り投げられる形となり、道路脇の野原に落ちた。


「……針から養分を吸われてミイラになるということですか」


 地面に転がった高取は受け身をとり、顔を上げる。ちょうどコールマンが光るペンで男に突きを仕掛けているのが見えた。しかし、高取が離れたことで勢いがついた棹が突きを防ぐ。


「ユカイ……ツーカイ」


 男が振り回すようにして糸と針をコールマンへと向けた。


「甘いわ!!」


 コールマンが光るペンを振るって針を器用に防いでいる。ガッガッガッ、光るペンと不規則に動く針がぶつかり合う。


 高取は立ち上がって刃に気を集中させる。刃の表面を光が覆う。刃を構えると上体を低くしてそのまま男に向けて突進した。砂ぼこりが舞い散る。


「ハァァァァァァァァァァァァァ」


「あ~フワフワするぅぅぅぅぅぅぅ」


 男がこちらに顔を向ける。視界の隅、コールマンが隙を見逃さずに身を屈めた。針がコールマンの頭上を通り過ぎる。


「はっ!」


 コールマンが屈めたまま、さらに右足を踏み込む。その勢いを乗せた光るペンを突き入れる。男はかわす暇もなかった。


「!?」


 光るペンが男の胴体を貫通した。男は貫通した身体を無感動に見つめる。その目には何の感情もない。


「終わりです」


 高取は男の間近まで詰め寄った。右腕を振りかぶる。


「断ちな!」


 ザァン! 刃が一閃。二本の閃光が男の左側頭部を斬り裂いた。


「あふぁ!?」


 男は気の抜けた声を出した。刃が血、肉、骨、帽子、頭部に埋め込まれていた機械を飛び散らせながら頭部を肉片に変えていく。


 男の頭は下顎だけの状態になり、血を吹き出しながら仰向けに倒れた。もうもうと土埃が舞う。


「彼は……何者だったんですかね?」


 高取は光る刃を振り、血を払いながら言った。


「わからないわ。でも、こうやって大きな力に利用されてきた人たちが沢山いる……私たちも同じよ」


「そうですね……」


 刃から光が失われ、周囲は闇に包まれた。


 風が男の死体を揺らす。頭から流れる血が砂に吸われていく。高取はこの名も知らない男の死体を虚しく眺めた。





「どういうことだ!!」


 トラックの荷台にあるオペレータールームで古賀院がキーボードに拳を叩きつけた。


「あの黒い仮面をした奴らはなんなんだ!? 超人か?」


「わかりませんが、恐らく超人です」


「恐らくとはなんだ!」


 古賀院は部下に怒鳴った。真鯛は唯一まともに稼働できる実験体であり、出世の為にも実験がまだ必要な存在だ。それを何者かに殺されたことで怒りが頂点に達した。


 ボォーーン! その時、トラックの入口が爆発音と共に砕け散った。


「どうした!?」


 破片と煙がオペレータールームを満たす。


「ギャァァァァァァァァァァァァァ」


「ギャァァァァァァァァァァァァァ」


 煙の中から何かが潰れる音と部下たちの悲鳴が聞こえる。ずんずんと重い足音が響いた。


「!?」


 煙の中からずんぐりとした黒い人影が近づいてきた。人影の顔が凸字に光っている。緑の光がこちらを向いた。


「だ……誰だ!?」


 煙から現れたのは黒い仮面を被った男だった。手は血で濡れている。背後に顔が潰されたオペレーターが倒れているのが見えた。


「狂師だよ。人々を弄ぶ、お前たちを殺しにきたもんだよバーカ」


「狂師だと! ふざけるな」


 古賀院は懐から拳銃を取り出して躊躇なく引き金を引いた。しかし、仮面の男が軽々と拳を振るい弾丸を弾く。


「こぉんのぉ!」


 古賀院は恐怖から連射した。仮面の男は次々に拳で打ち払いながら、近づいてくる。引き金を引きながら、後退りするしかない。こんな訳も分からない奴にやられるもんか。


「効かんぞ」


 仮面の男が冷酷に言う。


「これならどうだ!」


 銃口の狙いを相手の頭に向けて引き金を引く。しかし、素早く動いた右手で弾が防がれた。仮面の男は弾を握り潰し、床に放る。


 さらに撃つ。手で握り潰された。再び引き金を引く。カチッ、乾いた音がした。弾切れだ。


 古賀院の顔から汗が滴り落ちた。後ろにジリジリとさがる。どうする? どうする? どうする? その時、背中が壁にぶつかった。冷たい金属の感触がスーツを通して伝わる。


「ああ、あああ……」


 仮面の男がゆっくりと古賀院の頭に向かって、手を伸ばした。古賀院の股間が温かくなる。失禁。手が大きく視界を塞いだ。


「がっ!?」


 頭を掴まれると強力な力で締め付けられた。頭が割れそうになる程の痛みが襲う。


「ちょっと悶絶するけど気にしないで死んでくれ」


 古賀院の頭を締め付けながら、腕を上げたのだろう。自らの足が床を離れて宙吊りになった。強い締め付けによりみしみしとした音が響く。徐々に圧力で骨が砕けていく。激痛が走った。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「悶絶!」


 手が光に包まれて視界が白くなっていく。さらに締め付ける力が強くなるとグチャ、と潰れるような音と共に意識が無くなった。





 雨の中、路地で下村は傘をさして佇んでいた。奥から傘をさした男がゆっくりと近づいてきた。矢迷値だ。下村は矢迷値と向き合った。


 下村は札の入った封筒を差し出す。手が震えていることに、自分でも気づいていなかった。


 矢迷値は無言でそれを受け取り、淡々と懐へしまう。それで終わりのはずだった。


 だが、矢迷値は一歩も動かず、懐から携帯端末を取り出す。


「見るか?」


 乾いた声。問いかけは簡潔で、無機質だった。だが、その中身はあまりにも重かった。


「何を?」


「ライフウェーブの記録だ。お前の彼女が死んだ夜の映像がある」


 心臓が一拍、ひどく痛んだ。息が浅くなる。何も知らず、何もできず、ただ崩れ落ちるしかなかった夜。真実がそこにあるのかもしれない。だが、


「やめておく。」


 沈黙が降りた。


 矢迷値がサングラスの奥で短く目を細めたが、それ以上は何も言わず、携帯端末をしまう。


「そうか」


 雨の音だけが、ふたりの間を満たす。背を向けようとしたとき、下村の足がわずかに止まった。


 胸の奥で、黒くて重い塊が蠢く。真実を知らないままで、本当に終わったと言えるのか。自分でも答えの出ない問いが、ずっと喉の奥に引っかかったままだった。


 下村は雨の中へと歩き出す。足音が遠ざかっても、胸の中だけは静まらなかった。



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