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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
40/46

40 トラジェディ・オブ・ザ・チーギュウ街①

チーギュウ街での化け物退治。40~42まで続きます。


ページ下部にある【設定資料】ハチオウジギア のリンクに登場人物紹介あります。





 ハチオウジ市稲城区に矢野口から川崎に跨がるスラム街がある。市街とスラムの境界に牛丼チェーン店、「ヤキ屋」のチーズ牛丼が描かれた看板が設置されており、ここから名を取られ通称チーギュウ街と呼ばれている。


 チーギュウ街は日本大災害後に復興が遅れた地域であり、必然的に身寄りのない者たちの巣窟となった。職を追われた者、借金取りから逃げてきた者、捨て子や介護できなくなった老人、逃げ込んだ犯罪者等が住んでいる。


 真鯛まだいシゲルは野球帽を後ろ向きに被り、薄汚れたシャツを着て路面に座っていた。尻のポケットからスキットルを取り出すとちびりとウイスキーを飲んだ。


 なけなしの金で買った一杯分のウイスキーなので唇についた分も勿体ないと思い舌で拭う。


 目の前のバラック街では擦り切れた服を着た人々が虚ろな目をして歩いている。日陰では怪しい物売りがガラクタを売りつけていた。


「くそ……」


 真鯛は毒づく。真鯛はかつて町田区に本部を置くマフィア、メリーズの構成員であった。しかし、組織の金を使い込んでいたことが見つかり、このチーギュウ街へと逃亡したのだ。それから半年が過ぎようとしている。


 ふと、俯く真鯛の前に足が見えた。


「おい、割りの良い仕事があるんだがやるか?」


 真鯛は声をかけてきた人物を見上げる。汚い格好をした中年の男だ。


「誰だ?」


「いいじゃないか、金ないんだろ?」


「……いくらだ?」


「五万」


「!?……何をやるんだ?」


「俺についてきてくれ。そこで話す」


「わかった」


 真鯛は思考停止したように金の為に見ず知らずの男を信じた。


 男に言われるまま、真鯛は後をついていった。荒廃したビルと廃墟の下、汚れた服を着た人々が行き交う中を進んでいく。路地の暗がりでは身なりの良い者たちによる闇の取引が見える。


 男は薄汚れた雑居ビルの前に立つと手招きした。


「さぁ、この中だ」


 真鯛は男に促されるまま、ビルの中へと入った。昼間にも関わらずビルの中は暗く、微かな明かりを頼りに奥へと進んでいく。その時、微かに人の気配がした。


「!?」


 首筋にチクリと痛みを感じた。そのまま、真鯛の意識は遠退いていく。



「はっ!?」 


 真鯛が意識を取り戻すと白い天井が見えた。白い壁に囲まれた四畳半程の小さな個室のようだ。部屋の入り口らしきドアに進むとノブを握る。しかし、鍵が掛かっているのかドアは開かない。ドアの上を見上げるとドーム型の監視カメラがついていた。


「ここはどこだ? おい! 誰かいるのか?」


『目が覚めましたか? 真鯛さん』


 天井のスピーカーから男の声が響いた。


「五万が貰えるから来たんだ! いきなりこんな所に閉じ込めやがって! まさか、メリーズ!?」


『まぁ、まぁ落ちついてください。我々はメリーズではありませんから安心してください』


「何者だ?」


『今は答えられません。ですが、これから受ける実験に成功すれば五万どころじゃない大金を手に入れ、再び表の世界に出られます』


「実験!? どういうことだ?」


『実験を受ける意思はありますか?』


「……」


 真鯛は考えた。どうせメリーズに裏切り者として追われるだけの人生を辿るのなら、正体不明の人物の申し出を受ける方に賭けるべきだ。


「わかった……」


『ありがとうございます。そして、おめでとうございます』


 その声が聞こえると同時にドアが開き、白い防護服とガスマスクをした一団が入ってきた。


 真鯛を押さえると、首筋に注射器を打った。再び意識が途絶えた。





「わかってる。気をつけるから……じゃあね」


 冬耳ふゆみみリンはそう言うと彼氏、下村マシヤからの通話を切った。リンが参加するチーギュウ街近くで行われる高校の同窓会を心配しての電話だ。


 下村が心配してくれることについてはうるさいと思いながらも嬉しくて、笑みがこぼれた。


 リンは高校の同窓会が行われる居酒屋に行く途中だった。秋になり、気持ちの良い風を感じながら歩いているとすえたような臭いがする。


 臭いの方に顔を向けると横手のフェンス越しにチーギュウ街の荒廃した夜景が見えた。下村の心配が頭をよぎり、少し不安になる。ただ、今まで通ったことのある道だからとその不安を押し退ける。その時、ガシャン! と横の金網が揺れた。


「!?」


 リンは驚いて振り向いた。


「ねぇーちゃん、どこ行くんだよ! おじさんと良いことしない?」


 フェンス越しに髭面の男が下卑た笑いを浮かべていた。リンはその場を離れるように早足で通り過ぎていった。


 道の先に明るい飲み屋街が見えてくるとリンは安堵した。


「ギャァァァァァァァァァァァァァ」


「えっ!?」


 突如、背後から男の叫び声が聞こえたのでリンは驚いて振り返った。フェンスの向こう側で先ほどの髭面の男が空中に浮かんでいる。


「あ……あ……」


 浮かんでいる髭面の男をよく見ると街灯の灯りでキラリと細く光った。糸のようなもので吊られていたのだ。糸の先を見ていくと棹のような棒に繋がっている。そして、棹のような棒は暗がりに立つ男の右腕と繋がっていた。


「ソォー、ソォー」


 棹の腕を持つ男の声がする。男は野球帽を後ろ向きに被った若い男であり、虚ろな目だ。


「何!? あれ……」


 ちょうど釣りをするように髭面の男を棹の腕で釣り上げている。現実の光景とは思えない。理解ができず、リンはその場で凍りついた。


「ギィエエエエ……」


 その時だ。髭面の男がどんどんやつれていき、乾燥して萎んでいく。頭蓋骨がわかるようになるまでになった。


「ギッ!?」


 髭面の男はミイラのような状態になると糸が外れ、地面に落ちた。


「キャァァァァァァァァァァァァ」


 その光景を見た瞬間、リンは大声で叫んだ。硬直していた感情からようやく恐怖が爆発した。棹の腕を持つ男がこちらを見る。


 リンはそのまま飲み屋街の方に走った。飲み屋街の交番に初老の警官がいるのが見える。リンは息を切らしながら交番に駆け込んだ。


「む……向こうのフェンスで……棹の形をした手を持つ変な男に人を殺されてます!」


「フェンス……わかりました。見てきますからここで待ってなさい」


 初老の警官がゆったりと交番を出ていく。リンは間近で人が殺されたこともそうだが、棹の腕を持つ男が頭から離れず恐怖で身体が震えていた。あれが都市伝説の超人なのだろうか。何にしても普通の存在ではない。


 数分が経ち、初老の警官が険しい顔で戻ってきた。


「どうでした?」


「どうもこうもないよ! 何もなかったよ! 警察は暇じゃないんだ!」


「そんな!? でも、たしかに」


「いい加減にしなさい! それとも何か! 違法なハピウケでもやってるのか! 話を聞かせてもらおうか」


 初老の警官は強引に職務質問と薬物検査を行い、二時間後に交番から解放された。


 同窓会のメンバーには体調が悪くなったと謝り、リンは自宅に向かう。


『そんな、夢でも見たんじゃないか』


 リンは住宅街の中を下村と携帯端末で話しながら歩いている。


「マシヤまでそんなこと言うの!? 私は間違いなく見たの! あれが多分、噂の超人に違いないわ」


『わかったから……信じるから』


「 ……なら、迎えにきて」


『行くよ。今どの辺?』


 近くにあるコンビニ「ハイソン」に迎えに来るように頼んだ。リンはこれで安心して帰れると思い、歩きながら携帯端末でトイッターに自分が見たことを投稿した。


 ヒュッ! 空気を切り裂く音。口内に痛みが走った。


「痛い!」


 口内の頬に針のようなものが刺さっている感じがする。


「!?」


 グイッ、頬が引っ張られて身体が持ち上げられていく。


「キャァァァァァァァァァァァァ」


 二メートル近く地面から身体が浮いている。同時に身体から力が抜けていく。意識が朦朧としてくる中で電柱の影に人が見えた。


「あっ!?」


 電柱の影に先ほどの棹の腕を持つ男が棹を上げている。


「ソォー、ソォー」


 男の叫びに合わせて、リンの身体から力が失われていく。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 リンは最後の力を振り絞り絶叫した。


 意識が切れる寸前、笑っている男の顔が見える。そして、暗闇が訪れた。



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