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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
37/46

37 ヒット・ザ・毛野中組①

毛野中組との戦い。37~39まで続きます。


ページ下部にある【設定資料】ハチオウジギア のリンクに登場人物紹介あります。





 立川区の繁華街、宵闇の中をネオンの明かりが怪しく照らしている。


 薄汚れた雑居ビルに三野寺みのでらオザムが入っていった。フリーライターの三野寺は外の用事を終えて、雑居ビルの一室にある自宅に戻って来たのだが、その顔は無精髭が生え、疲れでやつれている。階段を上り、部屋へ向かった。


「なっ」


 鍵をドアに差し込むと既にドアの鍵が空いていた。三野寺は右手で懐に入れている拳銃を握り、慎重にドアを空けた。


 暗い室内に一人の男が立っていた。


「遅かったな。三野寺」


「誰だお前は?」


「お前が調べてる対象だ」


 男の姿が入口の明かりに照らされた。坊主頭で小太りの男が手にペットボトルを持っている。男は凶分組の三次団体、毛野中組けのなかぐみの一員、毛野中けのなかアメモズであった。部屋は荒らされ、PCも壊されている。


「!?」


「ふふふ」


 三野寺の顔から汗が吹き出す。三野寺は毛野中組が対物ライフルやレーザー銃、生物兵器、殺傷能力の高い武器を裏でハチオウジ市内に流通している噂を調べており、証拠となる画像も押さえていた。さらに毛野中組に武器を売っている男はフシモリの関係者であることも掴んでいる。


 そこまでして動いたのはかつて毛野中組にライター仲間を殺されており、執念の調査でもあった。


 アメモズはヘラヘラと笑いながら三野寺に近づいた。


「画像データはどこや!」


「な……何のことだ」


「あー、そういうこと言うんやな、その態度はなんや! ペットボトル!!」


 アメモズが手に持っていた水入りのペットボトルを放り投げた。するとペットボトルが意思を持ったように軌道を動かして、ひとりでに三野寺に向かった。


「えっ!?」


 三野寺が気づいたときにはペットボトルが顔面の右側に直撃していた。


「ギャァァァァァァァ」


 痛みで叫んだ。アメモズが叩くように手を横に振るとペットボトルが再びひとりでに三野寺の頬を叩く。


「がぁぁ!?」


「答えろボケェ!」


 アメモズが手を動かすとペットボトルも同時に動いて、三野寺を打ち据えていく。


 三野寺は痛みの中でこの不可思議な現象を起こすアメモズが噂で超人と呼ばれる存在であると気づいた。


「ぐぇ!?」


 ペットボトルの打撃が全身を打ち、口から血を噴き出した。アメモズが大きく手を動かすとペットボトルが空中を舞い、素早い動きで三野寺の右腕に向かう。


 ペットボトルが激突。ベキィ、という激しい音がして右腕が九の字に折れた。


「ギャアアアアアアアアアア」


 三野寺が絶叫した。アメモズは三野寺に近づいてくる。


「だまっとるんか! もうええわ! 吐かんでええ!」


 そう言うとアメモズは片手をあげた。同時にペットボトルが天井まで上昇した。


「死ね! ボケェ」


「ひっ」


 ペットボトルが見上げている三野寺の右目に直撃。眼球が潰れ、頭蓋の割れる音を聞きながら、意識が完全に途絶えた。





『アメリカ、NEAUと中華連盟、ロシア連合の経済、軍事対立は加速しています。この日本は欧米諸国のいわば前線基地として位置し、今回の新エネルギー開発競争でも……』


 ラジオが流れる居酒屋の店内。カウンターに座る三野寺シンイチが机を叩き、一人毒づいた。


「くそ!」


 兄である三野寺オザムの死体が先月自宅で発見された。全身を殴打され、右目に大きな穴が空いた状態という不自然な殺され方であった。


 死に疑問を持ち、兄のライター仲間に話を聞いていたが皆、口を閉ざしている。


「兄さん……」


 二歳年上のオザム。幼い頃、いじめられていた自分を引きずり出してくれた唯一の存在だった。正義感だけで突っ走る危うさも、愚直さも、全部含めて誇りだった。


 普通のサラリーマンとして過ごしている自分と違いオザムは不正を追求する記者の仕事を選んでいることにも憧れを抱いていた。


 死の数日前、オザムは毛野中組に纏わるネタを調べていると言っていた。このことを警察に言ったが信用されずに事件捜査は止まっている。


「ぐっ!」


 怒りは言葉として出きらず、喉の奥で詰まっていた。握り込んだ拳が白く変色し、爪が掌に食い込む。それでも痛みは意識に上がらない。ただ一つ、頭の中に焼き付いたオザムの無残な光景だけが繰り返される。


 シンイチはグラスのウイスキーを呷った。


「マスター、おかわりをくれ」


 声は平静を装っていたが、指先はまだ震えていた。


「かしこまりました」


「隣、失礼するよ」


 その声に反応するより先に、シンイチの視線は横へ向いた。


 ソフト帽の男。小太りの体格。サングラスと白いマスクで顔のほとんどが隠れている。不自然なまでに情報が削られた存在だった。


「マスター、俺にもウイスキーをくれ、それとこの人の分も俺につけてくれ」


「失礼ですが、どなたですか?」


 シンイチは自分にウイスキーを奢ろうとしている男を見たが見覚えがない。


「俺は矢迷値やまよねだ。お前の兄であるオザムについて話がある」


「!?」


 反射的に椅子の脚が床を擦る。シンイチの身体が半ば立ち上がりかけるほどの勢いで反応した。毛野中組か。あるいはそれに繋がる何かか。


 だが矢迷値はその反応を見ても動じない。むしろ落ち着きすらあった。


「安心しろ。毛野中組じゃない。三野寺は毛野中組が殺した。だが、警察は本気で調べる気がない。そうだな?」


「なぜそれを?」


 声が一段低くなる。喉の奥で怒りが圧縮されていく感覚があった。


「オザムはペットボトルにより特殊な殺され方をしている。そうだな?」


「あなたは……」


 遺体の詳細は公開されていないはずであり、矢迷値はオザムについて情報を持っていることがそれだけでわかった。


「オザムは超人と呼ばれる存在に殺された。俺たちなら超人に対抗できる」


「超人?」


「兄の仇が討ちたくないか? その気なら話をしよう」


 目の前にウイスキーグラスが置かれた。 こうなればこの男を通じて兄の死を暴く、覚悟を決めたシンイチはウイスキーを一気に呷った。


「当たり前だ! 仇を討ちたいに決まっているだろ!」


 怒鳴り声に近い宣言と同時に、空になったグラスを乱暴にカウンターへ置く。氷が砕ける音が遅れて響いた。


 シンイチはただ、奪われたものへの純粋な敵意だけが剥き出しになっていた。


 矢迷値は静かに頷いた。





 八王子区下恩方町、援光寺。雨が降りしきる中、傘をさした高取がカヨコの墓前に佇んでいた。


「カヨコ、すみません……」


 高取は月に一回の墓参りを欠かさず続けていた。仇のリトルグレイに辿りつけない自分の無力さを痛感しながら、カヨコの墓前に近況を報告した。しかし、その思考は先日の青龍会との出来事へと移る。


 後藤や米山によると警察の情報源から早井の死はフシモリの手による可能性が高いという。逮捕後、青龍会の手に渡らないように口封じをされたのだ。あの一件で狂師の存在を知られたが、表立って捜査する動きはなく、後藤の情報網では青龍会が独自に動いているようだ。その青龍会は室長である内藤以外の捜査員は一部上層部を除き、秘匿され掴むことができないという。


「無意味でしたね……」


 高取はフシモリだけでなく、青龍会に対してもやり場のない怒りを感じ、傘を握る手に自然に力がこもった。


 結局、青龍会は彼らが言うような裁きを下せなかった。それだけでなく、早井はフシモリによる口封じという割り切れない結末を辿る。脳裏にあのホワイトと呼ばれた男の姿が鮮明に蘇った。怒りで目の前が真っ赤になる。


「あんた」


 声の方に振り返ると傘をさした神駄が横にいた。私服なのか白シャツに黒い革のジャンパーを着ている。


「神駄さん!? どうしてここに?」


「世間は狭いな」


「あなたも墓参りですか?」


「……ああ」


 神駄は墓石をちらりと見て、高取の後ろを通って奥に進んだ。


「また、鳥平民で会おう」


 神駄が振り向かずに言った。


「ええ」


 墓石を見つめながら答えた。神駄にはカヨコのことを話したことはなく、お互い踏み込まないことが楽な関係であった。その為、これ以上やり取りをせずに墓前を離れた。


 カッパを着込み、原付を走らせる。雨がヘルメットを叩く。携帯端末に着信が入り、イヤホンを押すと声が聞こえてきた。


『後藤だ。仕事が入った。今夜これるか?』


「わかりました」


 通話を終了し、スロットルを回す。スピードを上げた原付が雨を蹴散らして道路を駆け抜けていった。





 BARヤギ。高取はカウンターに座っていた。


「依頼人の情報は以上だよ」


 カウンター内にいる米山が言った。隣の後藤が続く。


「米山の報告にあったように今回のターゲットは毛野中組だ。実行犯は毛野中アメモズという男だ。こいつは組長の毛野中セマヘロの弟だ。奴には毛野中ソデミという妹もいる。毛野中組はこの三兄弟が仕切っている」


「なぜ、この事件を探るようにいったんですか? 毛野中組はヤクザです。過去にも同様の事件があったはずですが……」


「そうだ、普通ならヤクザの世界は自業自得で関わらない。だが、今回この情報がもたらされたのは五次安からだ。三野寺が毛野中組を探っているという話を聞き、その調査を手伝った。ハチオウジ内で戦争でも始めるつもりなのか、最新のレーザー銃や生物兵器も流していたようだ。その矢先に殺された」


「生物兵器……」


「証拠を隠滅する為に三野寺を殺し、凶分組のルートから捜査に何らかの形で圧力をかけたというのが真相であろう」


 後藤がビールを一口飲んだ。


「俺はシンイチの兄への仇討ちをできればそれで良いんだ」


 カウンター内の米山が虚空を睨んだ。


「わかっているわ」とコールマンが頷く。


 米山の弟がかつてフシモリに利用され殺されたことを思い出し納得した。


 後藤がビールを飲んで口を開く


「毛野中組は弱小組織だが間違いなく、害悪だ。我々の手で潰してしまおう。幸い奴らには敵対勢力が多い……闇に消されるだろう。それと奴らは闇の勢力と繋がっている、フシモリの情報も掴めるかもしれない。組長は生け捕りにしてくれ、私が情報を吐かせる」


 高取は後藤の眼が残酷に光るのを見た。



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