36 エネミー・エンカウンター⑤
狂師に迫る新たな敵。32~36まで続きます。今週は月と金の週二回更新となります。
◆
コールマンはイエローの剣を光るペンで弾く。訓練を受けたとはいえただの人間であるはずのイエローの鋭い攻撃にコールマンは驚いていた。
「この超人、なかなかやりますね」
イエローが弾かれた剣をさらにコールマンの腹に向けて突き出す。コールマンは左手で剣を殴りつけて軌道をそらした。
逆にコールマンはイエローに向けて光るペンを突き出す。
「あうっ」
イエローが後ろに下がるも胸の装甲に光るペンが浅く突かれて、よろめく。
さらに踏み込もうとすると横からグリーンの巨大ハンマーが迫った。
ガァン、鈍い音を立ててコールマンの右側面に激突。
「キャァァァァァァァァァァァァ」
コールマンはその衝撃で横ざまに倒れた。グリーンは追撃の手を緩めず巨大ハンマーを振りかぶり、倒れたこちらを狙う。
すかさずにコールマンが立ち上がると光るペンを掲げた。
ジジジジ、コールマンはグリーンの巨大ハンマーを光るペンで受けていた。
横からイエローが剣で突いてくる。
「くっ」
コールマンは巨大ハンマーを弾くと剣の突きを光るペンで受けた。
ギィン、光るペンと剣がぶつかる。同時にコールマンはベルトにある予備のペンを左手で引き抜いた。
「ボールペンソード」
左手のペンからも光の刀身が現れ、横から繰り出されたグリーンの巨大ハンマーを防いだ。
「お前は何者だ?」
グリーンの質問を無視してコールマンは両手の光るペンを器用に動かし攻撃を捌いていく。
「何、無視しているんですか?」
ドドドッ、イエローが連続して鋭い突きを繰り出す。
「ハァッ」叫びながらコールマンはペンで剣を防いでいった。このままでは防戦一方になる、青龍会の力を痛感していた。しかし、ここで負ける訳にはいかない、コールマンは気合を入れた。二つのペンの光量が増していく。
「イングリッシュ! プリーズ!」
コールマンが叫ぶ。
ドォン! ドォン! 左右の光るペンから大きな光が放出。二人を押し返していく。
「うぐぅ」
「ああ」
ザザザザザ、足元に砂煙をあげながらグリーンとイエローは後方へと押し出される。その隙を見逃さずコールマンは跳躍して空中回転、イエローに迫り、両腕を大きく広げて斬りつけた。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
その瞬間、
「!?」
コールマンの脇腹を何かが高速で通り抜けて痛みが走るとそのまま地面に落ちた。脇腹の特殊スーツに傷がついている。
「ちっ、外したねぇ」
コールマンは声の方向に顔を向けるとそこにはM字禿げの男が立っていた。男は同型の青い仮面を被り、強化装甲の上に青いロングコートを着ている。
「地学!」
ビュッ、青仮面の叫びに応じて、細長い棒が鋭い音をさせて引き寄せられるように手元に戻り、それを器用に掴んだ。棒の先端には刃があった。正体は薙刀だ。
「何だ、こいつらは?」青仮面が問いかける。
「ブルー……早井を殺そうとしていた超人です」
イエローが答えるのにグリーンも頷く。
「で、奥にいる早井は?」
「まだ、生きています」
「しょうがないねぇ……ホワイトも手こずっているようだし、早井は私が確保しよう」
コールマンはよろめきながらも立ち上がり、光るペンを構えた。ブルーと呼ばれた青仮面はコールマンに見向きもせずに横手の林に走っていく。
それを追う為、駆け出したがその前に再びイエローとグリーンが立ち塞がった。
「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
コールマンが叫んだ。
「ぬうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
グリーンがハンマーを振り下ろす。それをコールマンは光るペンをクロスさせて受け止めた。
「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
巨大ハンマーの圧力が増していく。さらにイエローが後ろに回り込みサーブル剣を突き出そうとしているのが見えた。グリーンの腹に蹴りを叩き込み、距離を離すと横へ向けて光るペンを構えた。
バジィン、光るペンがイエローの放った突きを受け止めた。
「やばいわね」
『落ち着けコールマン。今、米山にバックアップさせる。残念だが、今回は我々の負けだ。撤退しかない』
「そんな!」
歯噛みをして後藤からの指示を聞いた。
◆
「くそ!」
後藤からの通信で高取に一瞬の隙ができた。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ホワイトのハイキックが殺到するも高取は左腕でガード。間髪入れずにホワイトが身体を落とし拳を振り上げた。高取の顎めがけてアッパーが激突。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
後ろに吹き飛ばされた。地面に転がりすぐさま起き上がる。
ホワイトはその隙をついて、落ちていた刀を拾って正眼に構える。
高取とホワイトは互いに睨み合いながらジリジリと足場を動かす。その時、悶絶していた早井が起き上がるのが視界に入った。
「ミスター早井」
「ひぃぃぃぃ」
早井が素早く立ち上がる。背を向けて林に駆け込んだ。早井に逃げられる。そこに影が舞い降りた。
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
早井の絶叫。彼の前に青い仮面が立ち塞がり、薙刀を早井の右足に突き刺していた。
「こいつは確保した。お前らは超人二体を頼むよ」
「ブルーか、ちっ、了解した」
ブルーと呼ばれた男が早井を羽交締めにして林の中に引きずり込んでいった。
「待ちなさい!」早井を追おうとするがホワイトが立ち塞がる。
「お前の相手は俺だ」
「どきなさい!」
高取が刃を構えた、その時、
『コールマン、高取、お前たち二人の間に閃光弾と手榴弾を投げる。その隙に撤退してくれ。Bルートで行くんだ』
米山から通信が入った。高取は拳を握り締めてホワイトと対峙する。
「裁かれるべき者を逃がした……あなたは許しませんよ」
「裁くのはお前たち、超人じゃない。俺たち……青龍会だ」
ドオォォォォォォン、あたりに爆発音が響く。同時に暗闇を光が切り裂いた。
「なんだ!?」
ホワイトの狼狽する声が聞こえる。高取は爆発と光の中を駆けていった。光の中でコールマンと合流すると林の中へと飛び込んだ。
■
めじろ台の路肩に黒いワゴンが止まっている。その後部座席で高取は項垂れていた。隣にコールマン、米山、後藤と共に座っている。
「皆、申し訳ない。今回の依頼を完遂することはできない」
「早井はどうなるんです?」
後藤に尋ねた。コールマン、米山も後藤を見つめる。
「恐らくは青龍会が証拠を作りだし強制的に罪に処せられるだろう。そういう意味では普通の警察よりマシだ。だが、裏にフシモリがいる。どうなるかはわからん……」
「くっ、彼らは人間なんですか、それが超人と渡り合うなんて……」
「高取の言う通り、反射速度や攻撃の威力は人間とは思えないわ」
後藤が頷く。
「特殊装甲服と対超人格闘術タイクーにより対応しているのだろう。我々の存在もこれで噂レベルから大きく認識されるだろう……」
高取はホワイトに殴られた胸を押さえた。
「関係ないわ。どうなろうと私は狂師として戦い続ける。青龍会が邪魔をするならそいつらとも戦うだけよ」
決然と言うコールマンに首肯した。そうだ。邪魔をするなら次こそ倒せば良い。
◆
ハチオウジ市警本部内、留置場。深夜で辺りは静まり返っている。
鉄格子の中の部屋にワイシャツ姿の早井がベッドで横になっている。特殊戦術室に捕えられた早井は取調べを受けるが黙秘を貫いていた。
弁護士によるとフシモリが手を回して助けてくれるとの話だ。今回の事態も公には急遽の公務ということになっている。
それにしても、青い仮面に刺された足が痛む。特殊戦術室の暴走という話だが、虫が収まらない、フシモリには超人の女子高生を手配してもらわないと割に合わない。
「早井さん」
静寂を破るように声が聞こえた。早井は鉄格子の方を振り向く。そこに非常灯に照らされた黒いフードの男がいつの間にか立っていた。
「なんだ!? お前は?」
「あなたを助けに来ました」
「私を? フシモリの方か?」
黒いフードの影から僅かに覗く、口許に笑みが作られた。早井は安堵の溜め息をつく。
「助かった……私はどうすれば良い?」
「こちらに来てください。お渡ししたいものがあります」
早井は起き上がると鉄格子に近づいた。
「しかし、なんだあの黒い仮面の奴らは! 私のやっていることを知っているようだし……。情報が漏れてるんじゃないか? 特殊戦術室か? 奴らも警察なのに勝手に私を捕まえて!」
「申し訳ございません。特殊戦術室は警察でも異質の存在です。独断専行で動いておりました。ですが、黒い仮面の方は情報が不明です。改めて調査します」
「で、渡したいものとはなんだ?」
黒いフードの男は黒い手袋に包まれた右手を鉄格子の隙間に突き入れた。人差し指を立てるとちょうど、早井の胸に指が当たった。
「なんだ?」
ピィィーー! 人差し指から極細のレーザーが放たれた。レーザーは早井の心臓を正確に貫いた。
「!? な……んで」
「ご苦労様でした。あなたの役割は終わりです」
早井は鉄格子の前で仰向けに倒れた。痛みが全身を駆け巡り、目の前が黒に染まる瞬間、男の哄笑が聞こえた。
◆
夕日が照らす中、暑さに辟易とした人々が行き交うハチオウジ駅。
高取は路肩に止めた原付に跨った。授業を終えた高取は買い出しの為に、ハチオウジ駅に訪れていた。
「うっ……」
ホワイトにやられた傷がまだ疼く。その時、ニュースを読み上げる音声が耳に入り、ハッとして見上げた。カラオケ棺に設置された巨大モニターにニュースが映っている。
『……警察によりますと、早井さんは午前十時ごろ、八王子区茜橋の交差点を車で走行中、大型トラックと衝突しました。早井さんは病院に運ばれましたが、頭などを強く打っていて、およそ二時間後に死亡が確認されました。早井さんは市議会議員として現在三期目で、教育や福祉、犯罪抑止の分野で尽力してきました。警察は、事故の詳しい原因を調べています……』
「どういうことです……」
高取は原付のグリップを強く握り締めた。




