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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
34/47

34 エネミー・エンカウンター③

狂師に迫る新たな敵。32~36まで続きます





「ただいまー」


 ドアの開く音と共に玄関から娘のミオの元気な声が聞こえた。早井はすぐさま玄関へと向かう。


「ただいま」


 ミオの手を繋いだ妻のカエも早井に声をかける。


「おかえり、二人とも」


 早井は和やかに二人を出迎える。


「ごめんなさい。今日はあなたがせっかくの休みなのに友だちとお茶しちゃって」


「気にしないでくれよ。いつもありがとう。それに今日は二人に久々に夕御飯を作ったんだ」


「パパ、ありがとー」


 ミオが早井に駆け寄って抱きついた。


「ミオの好きなハンバーグだぞー」


「やったー」


 早井は二人の荷物を持ち、リビングへと向かった。玄関からミオとカエの声が聞こえてくる。


 早井はふとリビングの鏡を見ると血色の良い自らの姿が見え、昨日のことを思い起こす。


 女子高生に対して、普段は見つかる恐怖から気を吸うだけで抑えていたが今回はその前に悪戯をする時間もあり、興奮と快楽は想像以上だった。これからも女子高生を斡旋して貰えると思うと楽しみで仕方がない。


 いつの間にか早井の顔に満面の笑みが浮かんでいた。





 巨大な執務室。奥にある大きな窓からはハチオウジの全景が一望できる。だが、今は夏の水蒸気により景色はくすんでいた。


 大きな窓の前では額の広い眼鏡の男が椅子に腰掛けていた。執務机の上に置かれたPC画面を見ている。画面には高尾山を中心にした関東の地図が映し出され、各地に複数の円が表示されている。その横に四角形のワイプが八個並んでいた。各々のワイプに顔が表示されているがその内の一つは暗い画面のままだった。


『はい、順調に推移していると捉えて良いのか?』


 リーゼント風パーマをした男が尋ねた。


『……概ね予定通りです』


 パチンコ玉のような頭をした男が汗を拭いながら応える。リーゼント風パーマの男は次に七三の目が細い男を指定した。


『私も手は打っているんだな。まずは早井の持つ高尾山周辺の土地、大した面積はないが、そこを中華連盟が狙っていることがわかったんだな。そこで早井を取り込んだんだな、議員でもあり、今後も役に立つんだな』


 七三の男の説明はさらに続き、一通り説明が終わるのを見計らいリーゼント風パーマの男は全員を見渡した。


『はい、注目! 戦いは次の段階に進んでる。敵はこのハチオウジを中心にした聖域を手に入れようと躍起になって動いている。我々の立場は優勢だが気を抜くな。何の為に我々、エイトプリンスがいるかわかっているな?』


 リーゼント風パーマの男の言葉にワイプの六人が頷いた。ディスプレイから議論を見守る男はじっとその様子を見つめている。次にリーゼント風パーマの男はワイプに映る殿付ブシユを指名した。


『それじゃあ、私の番なんだー、まず、超人の育成状況を見て欲しいんだー』


 画面に各種グラフが表示されていた。殿付がそれについて説明を始め、大方の説明と質疑応答が終わる頃に殿付が付け加えるように言った。


『ちょっと良いですかー?』


『なんだ?』


『念の為に報告なんだー、我々のエージェントがよく殺されてるのは伊藤インダストリーや敵対勢力がやったのが殆どだー、だが、最近はそれらの勢力としては利害に当てはまらないケースがあるんだー』


『はい、消耗品が殺されるのは折り込み済みのはずだ。それでも気になると?』


『はーい、どうやら私怨を晴らしてるような兆候があるんだー』


「良いですか?」


 ディスプレイを見ていた額の広い眼鏡の男が言った。男はフシモリの社長、鎖藤コウナガ。皆が息を飲んだ。


「我々の敵は強大です。エイトプリンスはそれに対処する為に作られました。そんなあなたたちには道にいる蟻の出来事に関わっている暇はありません。ですが、その蟻がいつ大きな障害になるかわかりません、また、使い方によっては利用できます。チェックだけはしておいてください。殿付さん、よく気づきましたね」


 鎖藤は笑顔でワイプの殿付を見た。


『ありがとうございます。わかったんだー』


 殿付が汗を拭った。鎖藤は満足気に頷く。


『次は私でぇいす』


 頬がこけた眼鏡の男が映り、画面の資料が変わった。


『ここ数年の反超人勢力でぇいす。各々の利用価値と可否を示していまぁうす』


 反超人勢力の名称、人数、リスク、背景、評価が一覧表示になっている。それを見て鎖藤は興味深げな表情を浮かべた。





 BARヤギの店内、高取は半袖シャツとアームカバーといった夏の出で立ちでじっと話を聞いていた。古いエアコンの為、冷気が弱く額に薄っすらと汗が浮かんでいる。


「ビルに入った女は玉差レイという高校生であの後、失踪届けが出ている。俺は若い男の乗る車に発信器を着けていたので男の正体も掴めた。締め上げたらホスト崩れの皆本ヨリオという男だった。こいつは出会い系で女子高生を釣って、ある場所に連れていけば十万貰えると凶分組構成員から指示を受けたという。そして、早井に会わせるように実行したと吐いたよ」


 米山が憎々しげに言った。高取はその横で怒りを堪えていた。


「凶分組が早井に高校生を斡旋したということ?」


 コールマンが横から米山を覗きこむように尋ねた。


「まず、そう見て間違いない。ビルの系列も凶分組が押さえている。俺がビルを見張っている間、複数人の出入りがあった。その中に凶分組の死体処理係の奴らが入っていった。恐らくは……」


「私たちは結果的にあの高校生を見殺しにしてしまったんですね……」


「高取、落ち着け……。凶分組はフシモリと繋がりがある。これでフシモリが早井の欲求を満足させるために凶分組に依頼をしたことがわかった。それにこれで早井を始末するべきだともわかった」


 カウンター内の後藤が高取を諌めて、続けた。


「私の情報提供者からフシモリが買い取ったデータのコピーを手に入れた。コールマンに解析してもらったが早井で間違いない。奴の行動は把握できそうか?」


「はい。早井のスケジュールは押さえてますよ。後はどこで奴を始末するかだけです。奴は万葉公園の周りをジョギングしている、ここがベストだと思います」


 米山が携帯端末の情報を見せた。


「良し、作戦を組み立てよう」



「私たちは全てを救えない」


 BARヤギからの帰り、コールマンが歩きながら高取に話しかけてきた。


「何がです」


「私たちは正義をなすものではないし、多くの人を救える存在でもない。ただ、できることは人の恨みを晴らすことだけ。あなたも誰かを救いたいのではなく、復讐をしたいんでしょう?」


「それは……そうです。私はカヨコの仇を討ちたい。その為にあなた方に協力しているだけです」


「なら、それ以上のことを考えないことね。早井の家族についても気になるみたいだけどそれは矛盾よ……」


「……」


 コールマンの指摘に対して言い返すことができなかった。高取は思った。矛盾、確かにそうだ。自分はただカヨコの復讐を遂げられれば良い、余計なことは考えるな、早井の家族のことを頭から振り払う。


 高取は黙って、コールマンと共に駅に向かった。





 スポーツウェア姿の早井が玄関で運動靴を履いていた。


「パパー、早く帰ってきてね」


 後ろからミオが覗きこんできた。


「当たり前だろ、ちょっと走ってくるだけなんだから」


「うん、気をつけてね」


「行ってきます」


 立ち上がるとミオに笑いかけた。


「行ってらっしゃい」


 早井は家を出た。ドアを開くとムッとした熱気が襲ってきた。庭先で軽く準備運動をすると早速走り始めた。


 夕闇に包まれた住宅街を走りながら、頭を整理した。高尾の土地は対して広くもなく、もともと中華系の企業に売る予定だったがその倍の値をフシモリが提示してきた。さらに超人としての待遇も悪くないがもっと良い思いをする方法がないものか? 頭の中で考えが巡る。


 しばらく走ると早井の左手側に万葉公園が見えてきた。公園は石垣に囲まれており、木々が生い茂っている。早井は石造りの階段をペースを乱さずに駆け上がった。階段の先、林に囲まれた公園にはベンチと遊具が置かれた砂場、奥にランニング用の広場が見えた。


「ん?」


 奥にあるベンチに黒い人影が座っている。この時間に人がいることが珍しい。


「ミスター早井」


 ベンチに座った人影に名前を呼ばれた。近所の支援者か何かと思い、笑顔を作る。だが、早井の顔は凍りつき、その場で立ち止まった。人影は黒い仮面を被り、その中央にある不気味な赤いシールドが早井に向けられた。


「なんだ! お前は! 警察を呼ぶぞ」


「呼んでみなさい。ですが逮捕されるのはあなたじゃないですか? 風谷ナオコ、玉差レイ、その他の多くの女子高校生から気を吸いとり殺したのはあなたですね?」


 ベンチから黒い人影が立ち上がった。早井の額から汗が滝のように流れ出る。なぜ自分の犯行がバレているのか? 威圧するように黒い仮面の赤いシールドが不気味に光っていた。


「気を吸いとって殺す? 何を訳のわからないことを言っているんだ! 私を追い落とす為に雇われたか?」


「訳のわからない? そうですか……ではあなたにはその証拠を見せてもらいましょう。人を馬鹿にしたものは……いつかしっぺ返しをくらう!」


 ジャキィン! ジャキィン! 黒い人影の両腕から二対の刃が突き出す。


「お前は!?」


 相手が超人であると悟った。相手が何者か知れないが戦うしかない。おもむろにスポーツウェアは脱ぎ捨ててブリーフ姿になった。


「これが俺のヒュドラーだぁぁぁぁぁ!!」


 カッ、股間が黄金に光り輝いた。そこから気が細長い光となり伸びながら具現化されていく。


 ジャラン、ググググググググ、股間の光が金属状の触手へと形状が固定された。鋭い先端を黒い人影に向ける。


 夕闇の中、早井は黒い人影と向き合った。



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