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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
33/47

33 エネミー・エンカウンター②

狂師に迫る新たな敵。32~36まで続きます





留否山るぴやま市長! 私の話を聞いているんですか? 与党である自公党が国民を守る為と強行に進めた武器使用制限緩和が今、犯罪を増やしたんです! 自公党はあなたの所属していた政党ですよ! そのくせ、犯罪を減らすと言う。あなたの市政は揺らいでます。そのことについて、どう考えてるのかと聞いているんです!」


 ハチオウジ市議会議事堂で早井マズイが尋ねた。早井は野党、民衆党系の市議会議員であり、市民に無関心な政策を批判する正義の人として活躍している。角ばった顔からは怒りで血管が浮き出ている。


「留否山市長」


 議長に呼ばれるとビー玉のように丸い目をした留否山は広い額を掻きながら、壇上の前に立った。


「宇宙の本質は揺らぎ、人の心も、物事も、揺らぐのがあたりまえでございます」


 留否山の発言に市議会中で野次が飛びかう。早井はそれを鬼の形相で睨みつけた。


「何言っているんだ! 犯罪を増やした責任をとって辞めろ」


 周囲からも賛同の声が上がる。


「犯罪が増えるというのはいってみれば、宇宙が出来て一三七億年、そして地球が出来て四十六億年が経っているわけです。その中で、私は、地球はまさに、生きとし生けるもの人間のみならず、全ての生命体、ある意味での生命が無いものに対しても、存在しているものだとそのように思っております。そこで何かが起きることは仕方がないとも言えるのでございます」


 それだけ言うと留否山は何も感じない素振りで席に戻った。


 再び早井が呼ばれる。留否山を睨みすえた。


「なんですか!? この答弁は! あなたそれでもハチオウジの市長ですか? こんな世迷い言は誰でも言える! 市長! 週刊誌ではフシモリやライフウェーブ製薬から献金をもらっているという記事がありますがどうなんですか?」


 早井が語気を強めて言った。


「記憶にございません。私はもっともクリーンな政治家で、晴天の霹靂でしかありません」


 議会はその後も留否山ののらりくらりとした答弁が続き、閉会した。


 早井は議事堂を出ると迎えの車を待った。目の前に黒い乗用車が止まる。車のドアが開き、黒服の男が降りてきた。


「早井議員ですね?」


「誰ですか?」


「フシモリです」


「フシモリ? フシモリがなぜ」


「我々はあなたが超人であることを知っています」


「!? 何のことだ」


 一瞬動揺したが早井は平静を保った。


「そう言えば八王子区で女子高生が連続して衰弱死していますが」


「……話しを聞こうか」


「是非。こちらへどうぞ」


 黒服の男に促されて、後部座席に座る。隣に七三の目が細い男がいた。黒服の男が運転席につくと車は発進した。


 七三の男は自らのチェック柄のスーツを整え、早井に微笑みかけた。


「はじめましてなんだな。よく来てくれたんだな」


「フシモリが私にどうしろと?」


「私は同じ超人としてあなたが心配なんだな。警察では一部のものがやっきになって超常犯罪解決に執念を燃やしてるんだな。あなたの犯行がバレたらあなたの議員人生は終わりなんだな。奥さんや子どもはどうなるんだな?」


「……」


 早井は超人に覚醒し、気の力を吸う能力を得ていた。はじめて覚醒した際に近くにいた女性を無意識に襲い、気の力を吸ったことで快楽に目覚めた。どうせなら若い女子高生から気を吸いたいと思うようになり、凶行を重ねていたのだ。それは自分が権力者を追及する活力であり仕方ない犠牲だと思っている。


 早井は七三の男に向かって絞り出すように声を出した。


「脅しているのか?」


「とんでもないんだな。我々はただ、お前をサポートしたいんだな。お前の能力は素晴らしい才能なんだな。お前の力を我々に貸して欲しいんだな」


「力を貸す?」


 安堵すると共に不安になった。


「我々のお願いを聞いて欲しいんだな。その代わりにお前の罪は警察に圧力をかけてなんとかするんだな。また、安全に行為ができるようにする。当然、支援金も用意するんだな」


「なっ……本当か!? そんなことができるのか?」


「フシモリは超人の力を世界の平和に役立てたいと考えてるんだな。その為には超人で権力を持つ人物の協力が必要なんだな。どうだ? 力を貸してくれるか? これだけでは信じないか、ならこれはどうなんだな。まず、自分の口座を見るんだな」


 七三の男に言われるがまま、早井は携帯端末を取り出し口座を確認する。大金が振り込まれていた。さらに男の指示でレストランに向かう。そこで早井も知る警察の幹部が犯罪の隠蔽を確約した。レストランの食事が終わると再び、男から協力を求められた。


「……わかった」


「ありがとう」


 男が笑顔で応じる。早井は男の笑顔を見ながら考えを巡らせていた。不安ではあるがフシモリと関係できるチャンスかもしれない。


「一つお前に頼みがあるんだな、お前の持つ高尾山周辺の土地を我々に使わせて欲しいんだな」


「わかりました。一体何に使うんです」


「全ては超人の為にすることなんだな。お前はあくまで目を瞑ってくれれば良いんだな」





「衰弱死した女子高生の遺族、風谷さんから依頼を取り付けました」


 BARヤギ。高取はカウンターに座り、隣にいる米山の説明を聞いていた。コールマン、後藤もじっと聞いている。


「やはり、超人絡みでしたか。高校でも噂になっていました」


 高取は拳を握り締める。カウンターの後藤が皆を見渡す。


「被害者は皆、普通に生活していたが突然、死亡している。外傷はなく体力、免疫力が急激に低下したことが死因だ。最近、数件起きていた女子高生の死因も全て同じだ。恐らくはセイナールにいた下北のように相手の気を吸う能力者の可能性がある。だが、協力者の話だと容疑者は絞られていたが、突如、事故死扱いになった」


「圧力ですか?」


「そうだ……フシモリだ」


「奴ら、またなのね……」


 コールマンが眉間に皺を寄せて呟く。米山も顔をしかめている。高取は肩をピクピクと動かしながら尋ねた。


「容疑者が絞られていたと言いますが誰なんですか?」


「……防犯カメラに半裸の男が車に乗り立ち去る姿が捉えられた。車のナンバーから市議会議員の早井マズイと特定されたが、犯行に及んだかまではわからない。協力者の話だとフシモリが金を渡してその映像と情報を買い取ったようだ。その後、事件性はないとされた」


「フシモリはどうしてそんなことを……」


「早井は資産家の息子だ。人脈も広い。そこから利を得ようとしているのだろう」


 後藤が再び全員を見渡した。


「米山と高取は早井が犯人で間違いないであろうが奴の行動を見極めろ。米山、高取もだいぶ経験を積んできたから調査になるべく関わらせるようにしろ。コールマンは私と共に警察から情報を掴んでいく。わかったな」


「はい」高取は答えた。


「今回の件は議員に警察が絡んでいる。前にも言ったように、超人を利用する為に隠蔽したい奴らが多数だが、そうでないものもいる」


 後藤の話に米山が身を乗り出す。


「特殊戦術室だったか」


「そうだ。青龍会を名乗り、動きが活発になっている。対超人に特化した組織だ。公的な裁きを下すために我々の邪魔をするかもしれない、十分に気をつけろ」


 高取は舌打ちした。


「公的な裁きなんて下せるんですか? 今回は超人の議員かもしれないんですよ? 散々、隠蔽しておいて、一部がまともな行動をしてもただのエゴです。潰されるに決まっている」


「高取の言う通りだ。奴らに任せておくことはできない」


 高取は組み合わせた手を握り締める。リトルグレイに殺されたカヨコの死をガス爆発で隠蔽した警察は信用できない。だから、狂師がやるしかない。





 高取と米山は早井の自宅が見える位置に車を止めて監視をしていた。高取は高校が夏休みということもあり、自由に動ける時間が増えている。好都合だ。


 八王子区めじろ台は富裕層の多い住宅街だ。その一角に早井の豪邸はある。


「あんな家族がいるのに……」


 早井の妻が娘と共に幼稚園に行く姿を見えた。米山に何気なく尋ねる。


「仲良し一家でずいぶんと評判が良いですね。それなのになぜ、あの男は女子高生を狙って殺人を繰り返すんですか? 本当にあの男が犯人なんでしょうか?」


「人間なんて矛盾の塊だよ。自分の家族に優しくしても他人がどうなろうと関係ないのと同じでな。それにお前も教師でありながら、人を殺しているだろ? そんなもんだ」


「そうですね……」


「おい!」


 米山に促され早井の家に視線をやる。ガレージの扉が開き、高級車が外に出てきた。運転席に早井が見える。


「どこかに行くようですね」


「後をつけるぞ」


 米山が車を走らせた。早井の運転する高級車は町田方面へと向かっているようだ。米山は慣れた手付きで尾行している。


「米山さん、さすがですね」


「俺も表はマッサージ屋だが昔は色々とやってきたからな。お手のものだ。それよりお前大丈夫か?」


「何がです」


「最近、顔色が悪いぞ」


「寝不足でして」


「……」


 高取は首を動かし、サイドミラーに映る自分の顔を見た。隈のある青白い顔をしているがいつも見慣れていて違和感がない。


「目を瞑ると自分が殺した奴らが見えるんだな?」


 驚いて、米山を見返す。


「なぜわかるんです?」


「俺もそうだったからさ。俺が殺したのは悪人で俺は正しいことをしている。そう思い込んで奴らを振り払おうとしたが無理だった」


「今も死人の顔がでてきますか?」


「たまにだ。慣れたんだろうよ。そういう時は……弟のエニシを思い出すようにしている。エニシはフシモリにさんざん利用されて悪事を働き、使い捨てて殺されたんだ」


 高取は黙って聞いていた。


「俺は強盗に巻き込まれて両親を失っていてな。中学生だった俺とエニシは引き取り手もなく、流れ流れてチーギュウ街に住むことになったのさ。汚い仕事をしながら俺がエニシの面倒を見てきた。だからかな、親のように懐いてくれてな……」


 米山が懐かしげに笑みをこぼす。


「俺はエニシにはなんとか真っ当に生きられるようにしたかった。だから、何とか親戚の縁を見つけて、エニシを引き取って貰えるように金を出して頼みこんだんだ。ようやくエニシを親戚に引き取らせて高校に行かすことができた。俺は汚い仕事で稼いだ金を仕送りし続けながらエニシの幸せを願っていた。だが……チーギュウ街出身なのが知れ渡り、エニシは高校でいじめられるようになった」


 米山の横顔を見るとその目には憎しみがこもっていた。


「繊細だったエニシはいじめを苦にして自殺した。だが、エニシは死にきれず超人として覚醒した。俺は何も知らず命があったことを喜んだがそこからエニシは不登校になり裏の世界に入った。そして、バラバラの遺体が発見された。しかも、エニシは身に覚えのない罪を散々被せられてな」


 米山の目に涙が滲んでいる。


「それを知った時、俺は悲しみで超人に覚醒した。そこに後藤さんが現れ、エニシがフシモリに使い潰されたことを教えてもらったんだ」


「米山さん……」


 米山は首にかけたタオルで涙を拭った。


「だから、死人が出てきたらお前の怒りの原点を思い出すと良い。少しはマシになるからよ」


 そう言うと米山は黙って運転を続けた。



 早井の高級車は町田区の中心街まで来た。車を駐車場に止めると早井は繁華街に向かう。高取は米山と共に一定の距離を開け、サラリーマンを装いながら早井の後をつける。


 早井は「スーパーエンジェル」と看板が掲げられた雑居ビルの中に入っていく。さらにそのすぐ後に若い男が高校生ぐらいの少女を連れて、早井のいる雑居ビルの中へと入った。


 高取は米山に教えられた通りに早井と若い男、少女を隠し撮りする。二時間程経過すると早井だけが外に出てきた。


「高取は早井の後を追え、奴ならお前の腕でも尾行がバレないだろう。俺はビルを見張っておく」


「わかりました」


 高取は車で早井の後を追う。早井は車に乗ると自宅へと帰っていった。


 そこまで見届けると米山に携帯端末で連絡をした。


「私です。どうでした?」


『雑居ビルからは若い男しか出てこなかった。その後は夜の店のようでな、店の関係者と出勤の女の子が入っていくだけだった』


「一緒に入った女の子はまだ中に?」


『……あるいは殺されているかもな』


「!?」


『俺はもう少し、ビルを見張っている。お前は先に帰っていろ』


「わかりました……」


 電話を切ると運転席のシートに項垂れた。早井が犯人ならあの少女が餌食になっているかもしれない。そう思うと早井への憎悪が膨らんだ。ガンッ、高取はハンドルを殴りつけた。



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