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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
26/29

26 ザ・ディセプション・オブ・ザ・セイナール教会②

セイナール教会との戦い。25~27まで続きます。





 蝉の声が窓の外から容赦なく降り注ぐ。強い日差しが、薄汚れた障子を透かして部屋の埃を照らす。夏の熱気がじわりと壁に貼りつき、ヒトエの肌にまとわりつくようだった。


 ヒトエは、卓の上をただ見つめ、手のひらで額の汗をぬぐった。そして、ようやく対面に座るサングラスとマスクをした小太りの男と向き合った。


 男は矢迷値と名乗り、セイナール教会がタダノリを殺した件について話をしたい、と言って訪ねてきた。二人の死から無気力に生きるヒトエだったが矢迷値の言葉に何かが刺さり話だけは聞くことにした。


「率直に言います。セイナール教会に復讐したくありませんか? もとはといえばあなたの旦那さんがセイナール教会に殺されたことで娘のシヤちゃんも亡くなったはずです。彼らをこのままにしておくわけにはいかないと思いませんか?」


 俯いていたヒトエが矢迷値を睨んだ。


「・・・・・・本当に、できるんですか?」


 ヒトエの声が震える。怒りと絶望が混じり、掠れた喉から絞り出される。額の汗が、机の上にぽたりと落ちた。


 矢迷値はじっと女を見つめ、言葉を選ぶようにゆっくりと答える。


「できます。旦那さんの不自然な死は超人の仕業です。私たちも同じ力を持ってます」


 ヒトエの瞳は鋭く光る。


「くだらないことを言わないで」


 矢迷値は目を逸らさず、机の周りに転がっていたフライパンを掴んだ。彼は立ち上がると左手でフライパンの持ち手を持つと気の力を右手に集中し光らせた。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 右拳をフライパンに叩きつけた。ボォン! と音を響かせ、フライパンに拳状の穴を開けた。


 ヒトエはそれを無感情に眺めている。セイナール教会の茶番を見せられた後だと何も感じなかった。ただ、微かに関心があるのはこの男が、本当に仇を討てるかどうかだけである。


 ヒトエはじっと矢迷値を見つめるが、彼は眼をそらさない。矢迷値のサングラス越しに見える暗い熱を持つ眼に賭けても良いと感じていた。


「そう・・・・・・で本当に仇を討てるのね」


「はい。ただし、五十万円で受けます。前金で二十五万円必要です」


「金・・・・・・金・・・・・・金ね・・・・・・今、払える前金は十万円。残り四十万円は必ずなんとかする・・・・・・」


 声は小さく、かすれて、ほとんど気怠い息のようにしか出せなかった。ヒトエは手に握ったままのハンカチをぐしゃりと握りつぶす。涙も、怒りも、もう枯れ果てていた。


「いいでしょう・・・・・・」


「・・・・・・本当に出来るのね」


 かすかな声で続ける。虚ろで、すでに疑いは失われていた。矢迷値はゆっくりと頷く。


「私はもう生きる気力もない、でも・・・・・・せめて奴らにタダノリとシヤの責任をとらせて」


 ヒトエは言い終わると肩を落とし、顔を伏せた。心に残るのは、ただ深い疲労と、重い夏の空気だけだった。熱気と蝉の声が、部屋の中でヒトエを包み込み、絶望と無力感が静かに溶け込む。





 セイナール教会のオフィスにある会議室。銅田どうだと妻であるミルコ、下北しもきた上素斗うえすとの四人が打ち合わせをしている。


 上素斗が銅田に報告を始めた。


「新野の件はもう問題ないかと思います。警察にも媚薬を効かせてありますので不審死を蒸し返されることはないでしょう」


 銅田が舌打ちをした。


「もう少し、新野からは金が引き出せたはずなのに勿体ない」


「教団長・・・・・・すみませんでした。丁重に帰そうと思ったのですが・・・・・・彼が殴りかかるので、つい力が発動してしまいました」


 謝る上素斗に銅田は怒鳴った。


「言い訳はいらん! 新しい金蔓をなんとかしろ!」


 上素斗は肩を落とした。紫のメッシュが入った髪をかき上げたミルコが紙の資料を持つと皆に見せた。


「あなた、終わったことは仕方ないじゃない。次よ、次。この羽村とかいう家族はどうかしら? ライフウェーブ製薬に勤めているしもっとお金がとれそうね」


 上素斗がミルコを見て、頷く。


「・・・・・・さすが奥さま。私も目をつけておりました。しかし、仕掛けを新しく作らねばなりません。下北が気を吸って、昏睡に落とし込み、再び下北が気を戻して意識を回復させるというやり方はパターンが同じで掲示板でも不審がられています。どうでしょう? 私の力で新野のように事故を起こし、下北が気を分け与えることで回復をコントロールする。これで高層信者プランに入会させるというのはどうです?」


 上素斗が説明をすると銅田は拍手した。


「それでいこう、上素斗のプランは間違いない。ミスを挽回しろ!」


「教団長、ありがとうございます」


 上素斗は微笑んだ。


 会議が終わると上素斗はオフィスを出て、礼拝堂を見上げた。上素斗は自身のプランで教会はここまで成長したと自負していた。上素斗と下北の力が奇跡を演出しているお陰で銅田は良い思いをしている。取り分をもう少し増やしてもらわないと割に合わない。上素斗は浮かない顔で礼拝堂へと向かった。


「教団長代理、おはようございます」


 清掃着を来た小太りの男が挨拶をしてきた。最近、入信した矢迷値という男で教会の無償清掃員の一人だ。


「ご苦労様、いつも精が出ますね」


 上素斗は満面の笑みで応じた。金蔓である信者の愚かさに笑いが込み上げていたのだ。先程までの浮かない気持ちは収まり、目の前の信者から金をどんどん毟りとってやるという暗い情熱が心を満たした。





 夕闇の中、黒いワゴン車が昭島区へと向かっている。エアコンの音がゴウゴウと鳴り、冷えた風が後部座席に吹き付ける。高取は汗を拭って黒い仮面を被った。隣には準備の整ったコールマンと米山が座っている。


「コールマン、高取、もう一度教会の監視カメラとセンサーの位置と潜入ルートを叩き込んでおけ」


 米山が念を押した。


「定例会議をしているのはオフィス棟の四階だ。三人で一気に踏み込んで銅田、銅田ミルコ、上素斗、下北の四人を始末する」


 高取は頷くと共に今回の仕事で気になる点を指摘した。


「ところで米山さん・・・・・・新野ヒトエですか、あの人は本当に四十万も支払えるんですか?」


「必ず払うと言った。あえて支払の期限は設けてないが彼女の覚悟は本気だ、何年かかっても払うだろう。俺はそれを信じるよ」


 米山が事もなげに言うと高取は肩を竦めた。


「・・・・・・そこまでして新野さんに支払わせるんですか」


 高取は呟くとコールマンが肘で小突いた。


「わかってないわね。これは狂師としてのルールよ。被害者は怨みを金に代えて、私たちが晴らす。金がなければ依頼をしなければ良い、それでも新野さんは依頼した。そういう覚悟よ」


「・・・・・・」


 高取は問いかけた。破滅が待っていても仇を討とうとするだろうか? それでも討ちたいからこそ、自らは狂師をしている。それは新野ヒトエも同じことだろう。


「暗い顔をするな。それに新野さんは娘と夫を亡くしている、生きる希望も失くしているだろう。復讐を遂げた後、何もなければ彼女は死ぬかもしれない。でも、俺たちに返済することが猶予になって、立ち直る切っ掛け、生きる希望が見つかるかもしれないだろ? どうなるかは本人しだいだけどな」


「そうですね」


「そういえばアニメのケンダマ・ニートの劇場版がようやく決まったみたいだな、俺好きだったんだよ、高取も見てたか?」


 米山が唐突に問いかけた。


「え? ああ、十年くらい前にやってた機動戦隊ケンダマのシリーズですよね。ケンダマ・ニートの続編ニートデシタネーはよく見てました、友人と感想を言いあってましたよ」


 米山が不機嫌になるのが伝わった。


「デシタネー? あれは駄作だな、ニートは面白かったけどさ、デシタネーはないな。使いまわしの作画と総集編ばっかで」


「確かに傑作ではないですし、途中で主人公のオオノが前作主人公のクラノスケに主役の座を奪われるのはいかがかと思いますよ。でも、デシタネーのオオノとツナヨシ議長は好きなキャラだったんで嫌いになれないんですよ」


「私はホリベエが好きだった。クラノスケとホリベエのカプは良かったわ」


 コールマンが前を見ながらぼそりと呟いた。


「まぁ、ホリベエはニートからの人気キャラだからな。で、劇場版の噂だけどな、ケンダマのファーストシリーズになぞらえてホリベエがラスボスになるかもって話だ」


「えっ、復讐のホリベエみたいなサブタイトルが付くんですかね。ファーストのフルヤと宿敵のイケダが決着を着けるみたいにクラノスケとホリベエがまた戦うんですか?」


「噂だよ、噂。放送終了後すぐに劇場版やるって話だけど一向に進まなかったのがここに来て何があったんだか。でも、ニートデシタネーで終わるのは納得行かないんだよ。やっぱり完結編は必要だよ」


「私はデシタネーで終わってても良かったんですけどね。後はラスボスとしては一作目のコウズケノス、二作目のツナヨシときたら、クラノスケの友人ホリベエなら納得ですけどね」


「高取と同じで私も異論はないわ」コールマンが高取を向いて頷いた。


「監督の話だと・・・・・・」


『もうそろそろ現場だ』


 米山が話を続けようとすると運転席の後藤から通信が入った。


 しばらくすると車が止まって後部ドアが開いた。まず、米山とコールマンが降り立ち、高取は後に続いた。ワゴン車は住宅街の路肩に止めてあった。米山が高取とコールマンに目配せをすると宵闇の中を静かに駆けていった。



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