24 ハブ・ア・チャット・アット・鳥平民③
22~24まで続きます。
■
高尾木高校に昼を告げるチャイムが鳴り響く。服田は大きな欠伸をして席を立った。寝不足で怠い身体をほぐしなから兼田の隣にある空席に腰を下ろし、弁当と水筒を取り出した。
服田は兼田と弁当を食べながら他愛のない会話を続けると一瞬、会話が途切れる。
「この前あった屋井村の事件と噂についてどう思う?」
そこで服田はオカルトに詳しい兼田に尋ねた。
「屋井村は超人だ。噂では手から勝手に銃が出たって話がある。これは俺の勘だけど屋井村の犯罪がバレて、超人の存在が明るみに出ると困る勢力が隠蔽する為に消したんだ」
「隠蔽か・・・・・・」
服田は呟いた。黒い仮面の男が屋井村を殺す現場を見てから、超人について調べていた。深い理由はなく、好奇心からの行動だ。屋井村の死は数日後の新聞に通り魔殺人と小さく載っていただけだった。鋭利な刃物で胸と頭を貫かれたことが死因だという。その屋井村に大学の同僚を射殺した容疑があると書いてあった。当然、超人や戦いについての記載は無い。
「いいか、超人が事件を隠蔽する為に、超常事件として発表せざるを得ない。それも表向きは未知の最新兵器や違法サイボーグ改造による事件てことにしてる。最新技術だったら世間は納得するしね。お前のお父さんもそう言ってるだろ?」
服田は頷いた。
「思うにそこまでして隠したいのは超人の存在を認めると社会が混乱に陥るからだな」
「混乱?」
「超人は恐怖と差別を生む。隣の人が超人なんじゃないか? その力を自分に使われたら? 自分が超人に覚醒したら? 力を持つ超人が人間を支配するんじゃないか? 当然、疑心暗鬼になる。人間は排他的だからさ」
「そうか・・・・・・」
兼田の説明に服田は納得した。
「この学校にも超人がいるかもな。そう言えば聞いたか? フシモリ本社の近くで黒いフードの人影がビルを飛び回っていたと一年の奴らが噂してたぞ」
兼田が言うや服田は身を乗り出した。
「黒いフード? 黒い仮面とかじゃなくて?」
「ああ、長いローブみたいな服でフードで覆われていて口もとが笑っているのが見えたって。でも、なんで黒い仮面だなんて言ったんだ?」
「いや、なんとなく・・・・・・」
服田は下を向くと兼田は別の話題を振ってきた。兼田の話を聞きながら、服田は思考を巡らせた。黒いフードということは黒い仮面とは別なのだろうが超人の暗躍を他人事に思えなかった。
放課後。服田は西八王子駅の近くにあ市立図書館に向かった。最近の超常犯罪について共用PCで調べると自宅警備員に所属していた多木が起こした事件を見つけた。
「拉致監禁及び、監禁した少女を格子状の物体で圧殺した疑い」、「多木容疑者はトンネル内で・・・・・・」、「鋭利な刃物で首を切断」、 断片的な記事が目に飛び込んできた。
服田は考えていた。鋭利な刃物で殺人容疑の男が殺された事件。屋井村も殺人容疑があった。何か関係がありそうだ。
「そろそろ閉館の時間になります」
職員が語りかける言葉で服田は我に返った。そのまま、図書館を出ると自宅へと戻った。
夕飯を食べ、ゲームをしていると父のミツオが帰ってきた。ミツオが着替えている。
「父さん、超常事件は本当にサイボーグ改造している奴が犯人なの? 」
「なんだ、藪から棒に。そうだ。現にそういう奴を捕まえているしな。急にどうしたんだ?」
ミツオがYシャツを脱ぎながら尋ねた。
「いや・・・・・・友達が超人の仕業だっていうから気になって」
「ハハハハ、超人なんて存在するものか。いたら会ってみたいよ」
ミツオが笑いながら答えた。服田はミツオの目が笑っていないように見えた。
「ダイスケ、お父さんは仕事が終わって疲れているのよ。後にしなさい」
アヤノがミツオを労るように言った。
「わかったよ」
服田は父親の反応から何か知っているかもしれないという疑念を抱いた。
◆
夜の十二時。後藤はBARヤギの店内清掃が終わると外へ出た。カーキのトレンチコートとソフト帽を被っている。
後藤は繁華街の通りを進む。深夜にもかかわらず酔っぱらいのサラリーマン、呼び込みの黒服、若い男女で人が溢れていた。
ガラガラッ、後藤は赤い提灯が掲げられた居酒屋「知値知田」の引戸を開けた。
「いらっしゃい」
大将が威勢の良い声をかけた。店はカウンター、テーブル席、奥に座敷があり、深夜のせいか客も疎らだ。
サングラスを掛け、髭を生やした小太りの男がカウンターに座っている。後藤は小太りの男の隣に腰を下ろした。
「失礼する」
「よぉ」
髭の男、忠山シュウが酒焼けした声で応じた。
「大将、ビールをくれ」
「あいよ」
後藤は注文を済ませるとポケットから封筒を取り出し、忠山に渡した。彼は封筒の中の札束を確認すると笑みを浮かべる。
「後藤さん、いつもありがとう」
「・・・・・・吉冬の件で警察に動きは?」
「社長の件は事故死で処理されている。条部の殺しも真剣に捜査する気はない。吉冬程度の企業には本気を出していないだろうね」
忠山が声を潜めて言った。
大将が瓶ビールとコップを後藤の前に置く、忠山がビールを注いでくれるのへ、後藤も注ぎ返した。
「乾杯」
忠山が言うと後藤はビールを飲んだ。
「そうか・・・・・・我々についてはどうだ?」
「いつも通り、後藤さんが殺しているのは殆どが小悪党で捜査は実質止まってる。フシモリ関連も消耗品扱いをしているのか全然、捜査されていない。ただ・・・・・・」
忠山が苦々しい顔をしてビールを飲んだ。忠山はハチオウジ市警の刑事で協力者の一人である。
「ただ、どうした?」
後藤は尋ねた。
「超常犯罪対策として設置されている警察庁の特務公安部の働きが目覚ましい。各地域に出先の機関があるんだが、ハチオウジだと例の特殊戦術室が活発に動いている」
「特殊戦術室か・・・・・・」
「先日も事件を解決してる。特殊な戦闘術と装備を採用しているらしい」
忠山がビールを一口飲んだ。
「しかし、忠山、超人の犯罪をどうやって立証している?」
「超人の能力で起こした事象を別の証拠やカバーストーリーで起訴に持ち込こんでいる。裏で特別検察官とも組んでるらしい。同僚も奴らを不気味がっているよ」
「だが、上層部やフシモリが黙ってないのでは?」
後藤は黒縁眼鏡で忠山を見据える。
「谷元が押さえ込んでるようだ。一体、何が目的でやってるのか・・・・・・正義の味方でもあるまいし」
忠山が自嘲気味に言った。
「自分達が正義の味方では無いと刑事が言うのか?」
「そんなもんでしょ。悪い刑事ですみませんね。俺は金があれば良いんだ。とりあえずは特殊戦術室には気を付けてくれやな。あなたたちと同じくらい狂ってる。そうそう、奴ら超常事件を青龍刀の如く断ち切る意味で青龍会と自称してるぐらいだからな」
「青龍会・・・・・・」
後藤は呟くと忠山が後藤を肘で小突いた。
「安心しな金を貰ってる限りは後藤さんに情報を流し続けるからよ。あんたらがいなくなったら俺の商売やっていけないからな。警察の安月給じゃ命は賭けられないしよ」
忠山がグッとビールを呷った。
「忠山、青龍会だが特殊装備はどうしている? フシモリから目をつけられるような活動をしているのなら別で調達しているのか?」
と後藤が問い、忠山が答えた。
「特務公安部の装備資料課が担っている。以前科警研にいた始谷フミコという女が中心になって動いている。しがらみのない対応をしたいという谷元の強い意思だな」
『・・・・・・ハチオウジ市の市庁舎前では自由と富の平等を掲げる全国的な市民団体、マコモファームが不当搾取と過剰な労働環境に声をあげデモを開催。ハチオウジ市警と衝突し負傷者二十二名、死者一名がでる事態となりました』
カウンターの中にあるテレビからニュースが聞こえてきた。
「マコモファームかい、奴ら自由の為に大量の破壊兵器を集めてるらしい・・・・・・日本はどうなってるのかね」
と忠山が言うのへ、後藤は忠山にビールをついだ。
「苦労が絶えないな・・・・・・」
■
翌日、後藤は立川区柴崎まで来ていた。同じくカーキのトレンチコート姿をしている。後藤は「外竹製作所」という看板の掲げられた町工場の中に入った。
「社長はいるか?」
機械の轟音が鳴り響き、技術者が汗を流している中、良く通る声で言った。
「おう! 後藤さん」
奥から作業着に帽子を被った老人、外竹ギロウが現れた。
外竹製作所は外竹ギロウが社長を務める中小企業である。外竹は元々フシモリの技術者であったが意見が合わず退職。自らが起業し精密機器の部品製造を行っている。
「例の装備をまた頼みたい」
「消耗が早いな。わかった」
後藤は外竹に封筒に入れた現金を渡した。外竹のサイボーグ化された右目が青い光を発した。
「・・・・・・装備の損耗が激しいな。後藤さん、言いたくはないが大貫のようなことにならないようにな」
「わかっている」
後藤は表情を見せずに外竹に言った。外竹も後藤の協力者で特殊スーツの製造と武器の仕入れを行っていた。
「始谷フミコという女を知っているか?」
「懐かしいな。同じ工業大学の同窓生だ。そいつは伊藤インダストリーの技術者だったが私と同じ経緯でフリーになったはずだ。そいつがどうかしたか?」
「ある筋から名前が出て気になっただけだ」
後藤は無表情のまま言った。
◆
日野区多摩平の雑木林を黒いパーカーの高取は走っていた。辺りは漆黒の闇に包まれている。
一本の木に目をつけると両腕を曲げて脇をしめた。
「しっぺ返し」
ジャキィン! ジャキィン!
アームカバーから刃が突き出て、両腕を振りかぶった。
「ハァァァァァ!」
刃で斬撃を繰り出し続けた。汗が飛び散る。同じ部位に斬撃を繰り返すことで木に裂け目ができる。
次の瞬間、ベキィベキィッ! 激しい音と共に木が二つに分かれた。木が倒れかかるところにさらに斬撃を加える。
「ハァァァァァ!」
力を込めた、高取の刃が素早く、何度も何度も斬りつける。
地面に着く前の木がさらに無数にと斬り裂かれた木片が時差でドッドッドッ! と音を立てて地面に落ちた。高取は息を整えて振り返る。高取は自身にだいぶ力がついていることを実感した。しかし、リトルグレイにまだまだ足りないことは間違いない。悔しさで唇を噛み締めた。
高取は訓練を終えると白いワイシャツ、花柄のアームカバーに着替えて豊田駅の鳥平民へと向かった。
「いらっしゃいませ」
店員が元気良く声をかけて、高取をカウター席に案内した。カウンターには暑さも増しているにも関わらず白いスーツを着た男が先に座っていた。以前も来ていた神駄という男だ。
「生ビールとピリ辛きゅうり、ももと皮を塩でください」
高取は神駄から一席空けた席に腰を下ろし、いつもの注文をした。
生ビールが届くと高取はゴクゴクゴクッ、と音を立てて一気に飲み干した。暑い中の修練後に飲むビールは何ものにも代え難い。
「ふぅ・・・・・・」
喉に心地よい炭酸の刺激が染み渡る。店員がピリ辛きゅうりを持ってきたのですかさず次の注文を頼んだ。
「すみません。芋焼酎のソーダ割りをください」
「はい、わかりました」
注文が済むと高取はもの思いに耽った。田島と下関の情報から生徒の目撃談が得られれば何かわかるかもしれない。五次安も筧をもう一度洗ってくれる。
「ご注文の芋焼酎のソーダ割りです」
コトッ、とグラスが目の前に置かれ、思考から覚めると高取はグラスを持ち一口飲んだ。
「あんた、また芋のソーダ割りを飲んでいるな」
神駄が話しかけてきた。
「あなたも同じのを飲んでいるじゃないですか」
高取もそれに答えた。
「ああ、ハイボールが好きだったが酔いが回るのが早くなってな。代わりを探して、芋のソーダ割りに出会った」
高取が神駄を驚きの目で見た。
「・・・・・・私もまったく同じです」
「・・・・・・奇遇だな」
神駄がそう言うと高取に向かってグラスを掲げた。高取も神駄に向かってグラスを掲げる。
「にしても、あんた、いつも思い悩んでいるような面しているな」
神駄が無愛想に問いかける。高取は苦笑した。
「色々とありましてね・・・・・・まぁ他人に言ってもしょうがないことです」
「その通りだな・・・・・・」
高取と神駄はグラスを呷った。
「ももと皮の塩になります」
店員がそれぞれ二本ずつ皿に盛られた焼き鳥を高取の前に置いた。高取はももの串を食べ、グラスを呷った。神駄も自分の注文したポテトフライを一本箸でつまみ口に入れた。
「あなたはこの辺りに住んでいるんですか?」
高取は横目で見ながら尋ねた。
「ああ、俺は日野区立病院の辺りだ。あんたもか?」
「ええ、私は南口の方です」
「年齢も近そうだな」
「私は二十五です」
「ふっ、俺もだ」
「まさか・・・・・・ここで誰かと話すことになるなんて考えてもみませんでした・・・・・・」
「俺もだ」
「まぁ・・・・・・たまには良いですね」
「ああ、そうだな」
その後も料理を摘まみながら高取と神駄はポツリ、ポツリと話し続けた。間に芋のソーダ割りをお互いに何杯も注文した。お互いに映画も好きであることがわかり、映画の話へと移っている。
「メロメ監督のゾンビは全部見ましたか?」
「見た。俺は二作目が好きだな。他作品のモールに立て籠るシュチュエーションは全部真似だな」
「ええ、傑作ですからね。私も基本的にはそうですが三作目も愛着があります。息苦しい話で評価は割れていますがね・・・・・・」
神駄も頷く。
「しかし、我々の話す映画は古い映画ばかりですね」
「そうだな・・・・・・ここ最近は見ていないからな」
高取も同意して目を伏せた。
「ええ・・・・・・たしかに」
神駄が腕時計を見るとため息をついた。
「結構、良い時間になっているな。俺は帰る」
「そうですね・・・・・・つい飲みすぎました」
高取も時計を確認した。
「そういえば・・・・・・あんたは名前は何て言うんだだ?」
神駄が帰り支度をしながら尋ねた
「私は高取です。あなたはたしか・・・・・・神駄と、店員さんに呼ばれていましたね」
「ああ、神駄だ。高取か・・・・・・お互い常連のようだし、また会うかもな」
「ええ、そうですね」
神駄は高取に手を軽くあげると会計に向かっていった。高取はグラスを飲み干し満足気な表情を浮かべた。




