19 エクスポーズ・ザ・ディスガイズ①
コールマン視点の話。19~21まで続きます。
◆
闇に包まれた多摩川の河川敷。光が飛び交い打撃音、金属音が響き渡る。
「はっ!」
葦をなぎ倒しながらグレーのパーカーを着たコールマンは光るペンを振り下ろした。
「ぐっ!」
金属音が鳴る。花柄のアームカバーと黒いパーカーを着た高取が左右の刃を交差して、光るペンを受け止める。夏が近い為、気温も上がり高取の顔はじっとりと汗ばんでいた。
「はぁぁぁ!」
高取が交差した左右の刃を開くことで光るペンを弾き返す。コールマンは高取が両腕を開いたことで胸にできた隙を見逃さずにドロップキックを叩き込む。
「うわぁぁーー」
胸にドロップキックを受け、後ろに倒れそうになるのを高取が堪えている。コールマンはさらに右足を高取の顎に蹴り上げて宙返り、
「ぐあっ」
コールマンは髪を振り乱してサマーソルトキックを決めた。高取が背中から後ろに倒れる。そこに光るペンを逆手に持ちかえて、振り下ろす。
ガギィン! 光るペンが左の刃で受け止められ、金属音が響く。高取が右の刃でコールマンの胸を突こうとする。
「させないわ」
コールマンは右手で光るペンを振り下ろしながら、左手で高取の右腕を掴み、刃を止めた。お互いに夫々の攻撃を封じられ膠着状態となった。
「強くなったわね」
コールマンはそい言うと高取の右腕を放し、光るペンを引いた。高取も刃を引く。
「ハァ、ハァ、ありがとうございます」
高取は起き上がり、コールマンに頭を下げた。
「後藤さんが少し訓練を減らしたからといって、今度は私に訓練をお願いするとは・・・・・・熱心ね」
「コールマンさんは私が入るまでずっと前線で戦っていました。私もあなたの力に追いつきたいんですハァ、ハァ」
「まぁ、鍛える必要があるのは確かよ。あなたが相手にするのはリトルグレイだからね」
「大貫さんは今のあなたに比べて強かったんですか?」
「気の使い方や基礎体力という意味では彼の方が上だわ。でも、感情面では相手に躊躇しない私の方が有利よ。リトルグレイを追う前から彼は狂師の自分の行動に悩んでいたわ。彼は優しすぎたの・・・・・・」
「感情・・・・・・」
「あなたも気をつけることね。躊躇したら自分が殺されるわ」
「・・・・・・」
闇の中、二人に沈黙が流れた。
自宅に帰ったコールマンはシャワーを浴び汗を流すと、Tシャツとスウェットのズボンに着替えた。前髪をおろした顔は実年齢よりも若く見える。麦茶を用意し、裸足のままソファーに座り、テレビをつけた。コールマンは幼い頃から日本に住んでいる為、日本の生活様式も違和感なく受け止めていていた。
テレビでは大学生がクイズに答えるという番組がやっていた。麦茶を飲みながら何の感情もわかないままテレビを見続ける。クイズ番組が終わり、ニュースになった。東京都知事の薄木バラコとハチオウジ市長の留否山ポツオが会議をしている場面が映しだされた。
『本日、都庁では犯罪増加に対して、都を上げた取り組みを行う為、都知事と市長による会議が行われました』
テレビに会議の模様が流れると赤い服の年配の女性、バラコがアップになる。
『えー、東京、都知事、の、薄木、バラコ、で、ござい、ます。留否山市長様におかれましては、各種対策を行っているかとは存じますが・・・・・・』
ハチオウジ市の犯罪対策について語られているが超人や違法サイボーグ改造等については言及されない。コールマンは舌打ちした。その時、プルルルル、着信音が鳴る。コールマンは携帯端末を手にとった。
「はい」
『田善です。ジェシーちゃん、久しぶりだね。元気かな?』
「田善さん!? お久しぶりですね」
コールマンは親しげに弾む声で答えた。
『良かった、良かった。ニシハチ製菓の社長さんからも良くやってくれてると聞いてるよ。しかし、小さい頃の印象が強いから立派に仕事仕事をしてると思うと・・・・・・』
田善が感極まったのか声がかすれる。
「ありがとうございます。でも、突然どうしたんですか?」
『今度、うちの会社で新ブランド披露パーティーを行うんだ。久しぶりに顔を見たいし来てくれないかなと思ってね』
「そうなんですか。日程が合えば是非伺います」
『ありがとう。なかなか最近は会えないから楽しみにしている。詳しい案内を送るから宜しく頼むよ』
コールマンは近況を述べ、電話を切った。
田善フユジは大手精肉店「吉冬」の社長をしている。田善は二十年前、店舗を武装強盗に襲撃され大怪我を負った。しかし、近隣の病院が対応できず、両親の診療所に担ぎ込まれて急死に一生を得た。
そこからコールマン家と懇意になり、診療所へ金銭支援も行っていた。コールマンにとって、両親を助けてくれる「親切なおじさん」だった。
両親が殺されてからは後藤に引き取られ、交流が途絶えた。偶然、ニシハチ製菓の専務が田善と知り合いでコールマンの話題になり、専務を通じて二年前に再会。
それ以来、コールマンは亡き両親との繋がりを感じ親しく田善と接するようになっていた。
■
黒のレースワンピースを着たコールマンは新中央線に乗った。吉冬の新ブランド披露パーティーに参加するため新宿に向かっていた。
コールマンは座りながら外の景色を眺めた。高層ビル郡の同じ景色が続き、いつの間にか二十三区に入っていた。
『次は新宿、新宿』
新宿に着くと駅から外に出た。高層ビルが建ち並ぶ光景はハチオウジ市と同じだが、より無機質な外観で管理が行き届いた街は病的なまでに整備されている。人々についても無表情なサラリーマンや学生の群れは同じだが身なりは洗練されていた。さらに警官や警備ドローンが頻繁に巡回し、民間軍事会社の武装警備員が各ビルを警備している。
コールマンは息苦しさを感じながら会場である京神プラザホテルの中に入った。
「三階 エミチャンホール 吉冬新ブランド披露パーティー」と書かれた看板を見て、三階へと進む。受付を済ませ、会場に入ると百名を超える参加者で溢れていた。その顔ぶれは政治家、マスコミ、有名人、財界人と多彩だ。
コールマンはその光景に圧倒されていた。
「ジェシーちゃん」
コールマンの愛称を呼ぶ声がして振り向くと田善が近づいてくる。田善は白髪頭の小太りで細い目をしていた。
「どうも、お久しぶりです。お招き頂きありがとうございました」
「会うたびに言ってるけど立派になったね。小さい頃ははしゃぎ回ってたお嬢ちゃんがこんな落ちついた大人になるなんて、私は嬉しいよ」
田善はそう言うと隣にいる小太りの男に肩を置く。
「息子のニワカだ。ゆくゆくは私の会社を継いでもらおうとおもってね。ニワカ、私の恩人の娘さん、ジャネット・コールマンさんだ」
「田善ニワカです」
ニワカが頭を下げる。コールマンも頭を下げた。
「コールマンです。宜しくお願いします。私の方こそお父さんには両親が大変お世話になりました」
「ジェシーちゃん、挨拶があるからまた、ゆっくりと。料理はうちの新ブランドの美味しい牛肉だから堪能してちょうだい」
田善親子は別の招待客へ挨拶に向かった。
コールマンは自分の席に腰を下ろした。席は四人掛けの丸テーブルで他の三人は食肉業界の招待客であった。
五分程経ち、照明が落ちると前方のステージにスポットライトが当たる。そこに田善が頭を下げながら登場した。
「ご来賓の皆様、この度はお忙しい中、お越し頂きありがとうございます。我が社も今年で創業三十年を迎えました。安心、安全、誠実をモットーに頑張って参りました。ひとえに皆様のおかげでございます。その中でこの度、当社のオリジナルブランド牛を披露させていただくことができ、誠に皆様には感謝しかありません」
そう言うと田善は深々と礼をした。
「この度、発表させていただくのは東京産牛、希望の肉ブランドでございます」
その時、入口の方から騒がしい声が聞こえ、コールマンは振り返った。
「人殺し! 牛挽肉にダンボールを混ぜて不当に利益を得てたくせに! 何が誠実よ! 告発したキュウキを殺したのはわかっているのよ!」
地味な服装の中年女性が警備員に取り押さえながら叫んでいた。会場がざわつく。
田善は細い目をさらに細めるとマイクに向かって言った。
「すみませんが警備員の方、ご婦人を丁重に会場の外に案内してください」
「何言ってんだ! 私もキュウキと同じように殺してみなさい!」
中年の女性は騒ぎながら、警備員に会場から連れ出された。
「皆様、大変申し訳ございませんでした。最近、我が社の信用を落とそうと企業テロが頻発しておりまして。皆様のおかげでそれだけ我が社も大きくなったということでございます。えー、それでは仕切り直しまして・・・・・・」
田善は何事もなかったかかのように話しを進めた。そんな田善を複雑な表情でコールマンは見つめた。




