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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
18/32

18 ア・フレッジリング・超人③





 それから檜町は訓練を積み、任務をこなしていった。上司、先輩、後輩に恵まれて仕事も自信がついてきた檜町は最近では悪夢も見なくなった。日々が充足していた。


 そんな中、檜町は招雄と共に似非原に第三指導課に呼ばれた。室内に入ると似非原の机の前にあるソファーに男が背を向けて座っていた。


「お前達二人に紹介しようと思ってな。この方はフシモリのエイトプリンスで攻士を務める殿付とのづけさんだ。今日、別件で来てお前達の成果を見て興味を持たれたようだ」


 似非原が言うとソファーの男、殿付が立ち上り振り返った。殿付は暗い目をして厚い唇が特徴的だ。黒のスーツに青いシャツを着ていた。


「私はエイトプリンスの攻士、殿付ブシユだー、お前達二人はその若さにも関わらず良い能力を持っていて可能性を感じるー、似非原からフシモリの理念もしっかり共感していることが伝わったー」


 檜町は招雄と緊張した面持ちで顔を見合せた。そして、殿付に頭を下げた。


「ありがとうございます」


「その調子で頑張るんだー、お前達ならエイトプリンスの攻生も目指せるー」


「私からも二人のことは殿付さんに推薦している。ブカツドーは傭兵の側面が強い、能力の高い者は多い、だがエイトプリンスには能力の高さに加えてフシモリの理念への忠誠が必要だ。お前達ならそれに答えられるポテンシャルがある、頑張れよ」


「ありがとうございます!」


 檜町と招雄は声を揃えて叫んだ。檜町はこんなにも評価されることはなかったので嬉しさに目に涙が浮かんだ。


 檜町は部屋を退室しても興奮したままだった。


「檜町さん、やりましたね」


「招雄くんもね、今日飲みに行こうか?」


「すみません、予定があるんで明日お願いします!」


「良し明日行こう」


 檜町は招雄の肩を叩くと訓練へと向かった。訓練中、心なしか自らの能力が向上しているような気がした。 


 檜町はこの日の訓練を終えると、会社を後にした。嬉しい気持ちから久しぶりに母親に連絡を入れようと思い立ち、携帯端末で連絡をした。


『檜町です』


「サイゾウだけど」


『あんた、元気でやってるの?』


「ああ、元気だし職場も楽しくやってるよ。仕事もうまくいってるし、良い人ばかりなんだ」


『そうかい、たしかに今の職場になってから声が明るくなったね。前の職場の時は段々暗くなっていってね・・・・・・。ただ、今の仕事は民間警備会社だろ? 事務とはいえお前の身に何かあったら心配でねぇ』


「僕のことは大丈夫、それよりも母さんと父さんにようやく恩返しができるよ。会社の支援だけじゃ大変だからまた、お金振り込んでおくね」


 檜町は母親との久々の会話を楽しんだ。自らの力が役に立っている。信頼できる職場も楽しい。親にお金を渡せる余裕もある。あの時に死ななくて本当に良かったと感じていた。そして人生はこれから始まる、檜町はそう確信していた。


 母親との通話を終え夕飯を買った。今日は祝いで高級寿司を買っている。夜道を歩いていると高架下へと差し掛かった。高架下にはベンチだけの寂しい公園がある。


「?」


 街灯の灯りが照らす中に人影が立っている。檜町は気にせずに通り過ぎようとした。


「ミスター檜町」


 人影が檜町に向かって話しかけた。檜町は振り向くと公園から人影が歩み寄った。


「誰です?」


 檜町は警戒しながら尋ねる、すると人影が肩をピクピクと動かした。


「フフフ・・・・・・私は狂師です」


「きょうし?」


「ええ・・・・・・あなたは宮木ノビオという男を知ってますか?」


「な・・・・・・なんのことだ!」


 檜町は悪夢を思い出し、鳥肌が立った。


「しらを切りますか。宮木やあなたの同僚の死に納得できない人がいましてね。宮木の部下であるミスター檜町が怪しいと言ってました。調べさせてもらいましたよ」


 檜町は驚くように人影を見つめた。人影は黒い仮面を被った男だった。仮面の中央にはV字の赤いシールドが嵌められており、不気味に輝いている。男は肩を僅かにあげた。


「まさか、フシモリ関係のブカツドーにいるとは・・・・・・人を馬鹿にしたものは・・・・・・いつかしっぺ返しをくらう!!」


 ジャキィン! ジャキィン! 男が肩を落とすと金属音と共に両腕のアームカバーから二対の刃が突き出した。


 檜町は一瞬で相手が超人であると悟り、寿司の入った袋を投げつけた。男が右腕を振ると袋は刃で斬り裂かれた。檜町はすかさず手刀を構えた。


「料亭行きたい!」


「ANW乗りてぇー!」


 横、縦と手刀を動かし真空の斬撃が男に殺到した。男はその軌道を読むかのように右前方へと飛び込んだ。


「躱した!?」


 真空の斬撃が男の横を砂煙をあげて通り抜けた。男が一瞬で体勢を立て直すと檜町のもとに駆け寄った。


「はぁぁぁーー!!」


 男が胸を貫くように右の刃を突き出した。それを察した檜町は左腕を後方に振る。


「ヒラリーマン!」


 ビュオン! 左腕から真空を放つとその勢いを使い半回転して突きを躱す。さらに檜町は半回転した反動を使って男の側面に攻撃を加えるべく手刀を構えた。


「食らえ!! ANW乗りてぇー!!」


 近距離で縦の真空が放たれた。


「くっ!」


 男はとっさに左の刃を構えた。ギィン! 男は刃で真空を防ぐと共に刃を軸に右足で回し蹴りを放った。


「ぐあぁぁぁ」


 男の蹴りが檜町に叩き込まれ、公園へと蹴り飛ばされた。檜町は倒れないように両足を踏ん張る。さらに男に向き直り、手刀を連打した。


「料亭行きたい!」


「ANW乗りてぇー!」


 真空の斬撃が次々と男に殺到した。それを男は垂直にジャンプして躱す。背後の金網が切断され、音を立てて崩れる。


「料亭行きたい!」


「ANW乗りてぇー!」


 檜町はさらに手刀を振り続け着地点にも真空が放つ。危機を感じたのか男は着地せずに空中で足に気を込めた。その勢いを使って、檜町に向かって空中で前方回転で迫った。


「料亭行きたい!」


「ANW乗りてぇー!」


 真空が殺到するが空中の男は回転を利用し、身体を丸めた。タイミング良く回転しており両腕の刃だけに真空が当たるようにしていた。ガキィン! 金属音を響かせて刃が真空を弾く音が何度も響いた。


「なんだっ!?」


 さらに空中で回転しながら檜町のもとに飛び込んでいく。


「死にな!!」


 男が回転の力を利用して両腕の刃を同時に振りかぶる。檜町がバックステップで逃れようとする。しかし、刃の一閃は速かった。


「うぎゃぁぁぁー!!」


 ジャキィーーン! 男の両腕から刃が振り下ろされると檜町の胸に裂傷が四本刻まれた。血が吹き出す。 


「うぐぁぁぁぁ」


 痛みは激しく、檜町は切り裂かれた胸を左手で掴んだ。手の間から血が流れる。男が刃を構えて立ち上がった。黒い仮面が冷酷に檜町を見据える恐怖で身体が震えた。


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 大声で叫び、檜町は右手を地面に振り降ろした。真空の斬撃が地面を直撃し、大量の砂塵が巻き起こる。


「くっ!?」


 男が警戒して後ろに下がる。その隙に檜町は公園の奥へと駆け出した。


「うわぁぁぁーー」


 檜町は駆け出しながら後ろを見ずに何度も何度も真空の斬撃を放った。次々と砂塵が舞う。



 地面に血が点々と落ちている。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


 どこをどう逃げたのかわからない。檜町は血に染まった胸を押さえながら、ふらふらと歩いている。暗い夜道、アパートに隣接する駐車場が見えた。駐車場に入るとアパートの壁に背中を預けて、座りこんだ。血が手を伝えって地面に落ちていく。激しい痛みに呼吸が激しくなると頭の中に「死」という単語が浮かんできた。自分の居場所を手に入れたのに、これからほんの人生が始まるのに、その思いで死という単語を振り払った。このまま、あの男から逃げ切れていれば良いがそうでなければ生き残れない、会社に連絡をして救いを求めようと檜町は震える手でズボンを探ると携帯端末を取り出した。


「ハァ、ハァ、ハァ、なんだ?」


 ジャリリリリ・・・・・・金属が擦れる音が響いた。檜町は壁に寄りかかったまま音が響く前方へと目を凝らす。暗い住宅街の中からオレンジ色の光が見えた。光はこちらに近づいてくる。


「!?」


 オレンジ色の光は火花であった。暗い闇から火花が近づいてくる。さらに火花の斜め上に赤いV字が浮かび上がった。


「ひぃっ!?」


 檜町は引きつった声をあげた。暗い闇から黒い仮面の男が右の刃をブロック塀に擦り火花を散らしながら近づいていた。


「ミスター檜町!」


 男は檜町がこちらに気付いたことを確かめるように叫んだ。


「リトルグレイを知っていますか?」


「ハァ、ハァ、ハァ、し・・・・・・リトルグレイ? 何を・・・・・・」


「そうですか・・・・・・死にな」


 前傾姿勢をとり、刃を塀に擦りながら一気に駆けた。ジャリリリリリリ! 音が響き渡る。


「ひぃぃーー」


 檜町は恐怖で凍りついて動けない。男が塀の端まで駆け抜けた。その瞬間、男は勢いよくジャンプして宙を舞った。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


 檜町は胸を押さえながらその光景を凝視した。するとスローモーションで空中の男が右の刃を大きく振りかぶるのが見えた。放物線を描きどんどん男が近づいていく。刃が街灯の微かな光を反射して輝く。檜町は右手で手刀を作ろうとするが思うように動かない。近づいてくる仮面の赤いシールドに血塗れの檜町が映しだされていた。赤が近づいてくると檜町の頭の中ではせっかく居場所を手に入れてこれから楽しい人生を送るんだ、絶対に死ぬ訳にはいかない、という強い思いが溢れだした。檜町は震える手で斬撃を放とうと構えを作った瞬間、鋭い二対の刃が視界いっぱいに広がった。


「死んでたま・・・・・・」言葉を言い終わる前に振り下ろされた刃が檜町の首に食い込んで一気に斬り裂かれた。視界が空中へと回転して一瞬、首の無い自らの胴体が見えると檜町は痛みを感じる間もなく意識が途絶えた。



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