15 ア・スチューデント・ウィットネスト・アン・狂師③
高尾木高校の話。13~15まで続きます
◆
服田は高校を出るとバイト先のコンビニ「エイトテン」に向かっていた。グレーの上着、チェックのズボンという制服をシャツを出すことで着崩している。
服田は貴地の言いがかりに腹を立てていた。犯罪を犯した貴地の父親こそが悪いのだ。昨日のことを思い返しながら、八王子駅で電車を降り、南口に出た。南口は北口には劣るが開発が進んで高層ビルが建ち並んでいる。
ロータリーを過ぎて、真っ直ぐに人通りの多い歩道を進む。歩道沿いにあるネオンの看板が夕暮れの中で光っている。
「!?」
突如、服田は後ろから何者かに手で口を塞がれた。引きづられて裏路地に連れ込まれた。振り向くと服田を押さているスキンヘッドの男が睨んだ。
「うぐぐ」
声を出そうにも口を塞がれているので出せない。さらに目の前に長髪の男が現れ、ハンドガンを突きつけてきた。
「騒ぐと殺すぞ。来い」
蒸気にまみれ、室外機の音が響いている中を進んでいく。
「お前の親父が悪いんだ」
服田を押さえているスキンヘッドの男が呟いた。長髪の男もハンドガンを服田の腹に強く突きつけながら笑っている。
「お前の親父は刑事なのに悪い奴でなぁ~。お前も運がないな」
長髪の男が顔を近づけて言った。服田は危機的状況だが頭の片隅に貴地に続きまた、父親のせいで襲われることへの不信を感じていた。だが、すぐに恐怖が思考を塗りつぶした。
路地の横にある昔ながらのラーメン屋からサラリーマンが出てきたが、服田たちを一瞥し、驚くも足早に路地を去っていく。路地の先はT字路になっており、細い道に黒い乗用車が止まっているのが見える。
「おい! なんだ?」
長髪の男が言うので服田が視線を向けると、黒い乗用車に白いスーツを着た短髪の男が手をついて、こちらを鋭い目で見ていた。短髪の男がこちらに向かってくる。
「邪魔だ! どけ! どけ!」
長髪の男が言うが構わず向かってくる。長髪の男は服田からハンドガンを放し、短髪の男に向けた。
「撃つぞ! こ・・・・・・」
言い終わる前に短髪の男が素早い左回し蹴りで長髪の男の手を蹴り、ハンドガンを弾き飛ばした。さらに蹴った足を地面に踏み込んだ。
「失礼」
そう言うと右の拳を長髪の男の顔面に叩きつけた。
「ぎえぇーー!」
鈍い音がして、長髪の男が後方に殴り飛ばされると流れるように手刀を作りスキンヘッドの男の首筋を打ちつけた。
「がぁっ!」
スキンヘッドの男が叫ぶと服田を放して、白目を剥いて崩れ落ちた。呆気にとられている服田に短髪の男が目を向ける。
「ハチオウジ市警の神駄ミチオだ。お前が怪しい奴に連れ込まれるのを見つけたんだ」
そう言うと神駄はスキンヘッドの男と長髪の男に素早く手錠をかけ、落ちているハンドガンを回収した。
「お前、名前は?」
神駄が無愛想に聞くと、
「服田ダイスケです」
「服田・・・・・・こいつらとの繋がりは?」
「わかりません。ただ、父さんがどうのと言ってました」
「お前の父さんは?」
「ハチオウジ市警の服田ミツオです」
「服田ミツオ・・・・・・あぁ、あの男か。とりあえず来てくれ。話を聞く」
「はい・・・・・・」
神駄が携帯端末で応援を呼んだ。服田は呆然と見ていた。
神駄の手配により服田は最寄りの交番で話を聞かれ、手続きをすると家に帰されると遅れてミツオも家に帰ってきた。
「すまなかったな。ダイスケ・・・・・・お前を巻き込んでしまった」
ミツオが服田に頭を下げた。
「私が捕まえた奴らの仲間だ。もう大丈夫だ」
「何にしても無事で良かった」
ソファーに座る服田の肩に母のアヤノが手を置いて言った。
「あいつらが父さんは悪い奴だって」
一瞬、アヤノの横にいるミツオがたじろぐ。
「悪い奴が悪いと言うのは正しいと言うことだ。それにしても神駄さんが偶然通り居合わせてくれたお陰で助かった。彼には感謝しかない」
■
服田は事件後、大事をとって三日間学校を休むことになった。休みが終わり登校すると早速、校長と教頭に呼び出しをくらいうんざりしていたが、少し話しを聞かれるだけで解放され、ほっとした。
クラスメートも服田に話しを聞くが良くある話なのですぐ飽きて別の話題に移った。
「知ってるか? この前、ジアドーアにダイブして面白い話を見つけてきたんだ」
友人の兼田ヤスヒデが話しかけてきた。
「また、ダイブしたのか? 脳が壊れるって」
「馬鹿、それも電脳空間に入らせない為の陰謀だって前に言っただろ。そんなことより愛研常識の会があるだろ? あの大災害で古代の遺跡が出土したとかでフシモリが出資している」
「それがどうした」
「あれは超古代文明の兵器を研究してるって噂を聞いたぜ」
「そんな訳ないだろ。超古代文明なんてある訳ないよ」
「言い切れるのかよ! 現実に起きてる超常犯罪は超能力を持つ超人が犯人だぜ。超古代文明があったっておかしくない」
服田は苦笑して首を振った。
「超常犯罪なんてハイテク兵器が闇に流通してるせいだよ。父さんが言ってたけど、超人か? そんなのがいるなら警察はどうしようもない。超常犯罪も立件できてるんだし」
隣の席に座り兼田が小声で言った。
「だから、隠蔽してるんだよ。知ってるか? 世界規模で動いてる闇の組織があるらしい」
「また妄想話か? なんだよ、今度は地球規模?」
「マジだって。噂じゃ、闇の組織は国や企業、科学研究まで裏で操作してるって」
「突然そんな壮大な」
服田は笑ったが兼田は真剣だった。
「単なる都市伝説じゃない。例えば聖石の技術革新、兵器開発のスピードまで全部、表向きは偶然だけど、裏で影響してるって話だ」
服田は背もたれに寄りかかり、苦笑した。
「そんな奴らがいても現実はコントロールできないよ、だって噂になるならコントロールできてないってことになる」
兼田が不服そうな顔で上を向いた。
「つまんねー奴だな。ところでさ、あれ買ったか? SP5のオヤジハンター3」
話題はゲームに移っていった。時間はあっというまにすぎて放課後になった。
『ミーント、ミント、ミーント求人! ミーント、ミント、ミーント高収入!』
夕方の西八王子駅西口を大音量を鳴り響かせながら派手なトラックが走っている。その横を興味無さげに服田がゲームセンターに向かって歩いていた。
「!?」
ふと、ビルとビルの屋上を縫うように飛び回る、黒い影が目に入った。人間の筋力や跳躍力では考えられない高さをまるで軽やかに舞うかのように跳び渡っていく。一つの影が、もう一つの影を必死に追いかけていた。
服田は胸の奥でざわめく好奇心を抑えられず、思わず影の進む方向へ足を運んだ。
視界に入る二つの影の動きは、もはや人間のそれとは呼べなかった。筋肉の連動や重力の概念を無視しているかのような動いている。
兼田の話に引っ張られているだけで見間違いだ。そう思う心とは裏腹に服田は足を速めていた。
「ハァハァハァ」息が荒くなる。どれだけ走ったのか、気づけば服田は高尾木公園の端まで追いかけてきていた。
夕暮れの光は薄く、街灯の黄色い灯がかろうじて足元を照らす。
二つの影は運動場横の並木通りに降り立つと、互いに向かい合った。風に揺れる木々の影が、まるで静かな戦場の旗のように揺れている。街灯の光が二人の影を縁取り、その輪郭を際立たせた。
一方の影は黒い仮面に身を包んだ男。もう一方は、チェックのシャツを羽織った大柄な男だ。闇の中でも異様な存在感を放っている。
服田は木陰に身を潜め、息をひそめながら固唾をのんで見守った。心臓が耳まで届きそうなほど打つ。
「ミスター屋井村!」
黒い仮面の男が低い合成音で呼びかけた。
◆
高取は逃げ回る屋井村サンジを追い詰めた。黒い仮面越しに屋井村を睨み付ける。
「逃げても無駄ですよ。元同僚を私怨で殺しまわった罪は精算してもらいます」
高取が刃を構えた。
「ふざけるな! くそ! 俺は殺されないぞ」
屋井村は眼鏡の位置を直し、右手を開いた。
「立体展開!」
屋井村が叫ぶと手の平に格子状の光が発生した。屋井村の手に光が凝縮し白いL字の銃が現れた。
「プロジェクションガン!」
屋井村が銃を向けると高取は迎撃為に刃を構えた。
「ぬぉぉーー」屋井村が両手で高取に狙いをつけて銃を撃つ。パンパンパン、乾いた銃声が響き渡った。
高取は瞬時に弾道を読むと襲いくる弾丸を次々と刃で振り払っていく。ガッガッガッ、刃が弾を正確に弾く音が響いた。
尚も屋井村は銃を撃ち続けるが刃で振り払われた。高取も弾くだけでなく、銃撃を防ぎながら確実に屋井村に走り寄って行く。高取は屋井村が間合いに入るや容赦なく刃を振り下ろした。
「はっ!!」
屋井村は間一髪、後方に跳んで躱しながら銃を撃つ。一旦、地面に足をつけるとさらに大きく後方に跳んだ。屋井村は空中で前傾姿勢をとると、次の瞬間、運動場のフェンスに地面から水平に足をつけた。フェンスが大きく揺れる音がして足を中心に金網がへこむ。そのまま、彼は高取に向けて銃を撃ち、重力に逆らうように走りだした。
高取もフェンスを屋井村と平行して走りだした。またも銃声と刃が弾く音が響き渡る。
「まだまだ! 立体展開! プロジェクションガン!」
走りながら再び、屋井村が叫ぶと今度は左手にも銃が出現した。
パンパンパン、パンパンパン
二丁から激しい銃撃を浴びせかける。高取の走る地面に次々と穴があいて、破片が飛び散る。だが、刃を振り回し銃撃を防いでいるので高取自身には当たらない。
ガッガッガッ、ガッガッガッ、走りながら銃と刃で攻防を繰り広げている。フェンスの端まで来ると屋井村が強く踏み込んだ。今度は高取に向かって跳躍した。
「なんで当たらない!」
屋井村は苛立つように二丁の銃で高取を撃ち続ける。それでも銃声と弾を弾く音がテンポ良く響く。高取は防ぎながらも刃の角度を徐々に調整していく。
「ふん!」
弾が刃に当たった瞬間、高取は力を込めると肘を曲げて頭上の屋井村を狙って弾き飛ばした。
ガッ・・・・・・シューーン!
「!?」屋井村の驚きの顔が見えた。すると刃に弾かれた弾丸が屋井村の右太ももを貫き、血が飛び散ると高取の黒い仮面にも血がかかった。
「ギャア!」
屋井村が悲鳴をあげ、放物線を描き高取を飛び越した。すかさず高取ら背後に向かうと空中を舞う屋井村の真下で立ち止まった。グンッ! と右の拳を固めて上へと腕を伸ばしながら刃を突き上げた。そこに屋井村が落ちていく。
ジャキィン!
「ぐっ!?」
高々と掲げた高取の刃が屋井村の腹を貫らぬき串刺しにした。
「ギャァァァーー」
痙攣した屋井村の両手から銃が落ちる。高取は屋井村を前方に投げるように刃を引き抜いた。
「うげっ!?」
屋井村は腹から血が吹き出しながら地面を転がった。
「が・・・・・・が・・・・・・」
屋井村が腹這いになりながら手を震わせて再び銃を出現させようとするが、
「うっ?」
高取のブーツがその手を踏みつける。
「ミスター屋井村・・・・・・死にな!」
高取は右手の刃を屋井村の頭に向かって一気に振り下ろした。
ジャキィン!!
「げぇ!」
刃が屋井村の頭頂部から入り、顎を突き破って地面に当たると血と火花が飛び散った。高取は無表情に見下ろす。
◆
「ひ・・・・・・」
黒い仮面の男と屋井村と呼ばれた男の戦いを木の影で見ていた服田は全身が震えていた。
「わぁぁぁぁーー」
ついに恐怖から服田は大声をあげ、並木通りから逃げるように走り出した。走りまわった服田はいつの間にか離れた住宅街の電柱に寄りかかっていた。震える手で頭を押さえた。
服田は目の前で起きた出来事が信じられなかった。刃が生えた仮面の男に手から銃を出す男、化物である。仮面の男はどこかで会った記憶があるがはっきりしない。服田の混乱した頭の中を疑問が駆け巡る。頭が混乱したまま、全てを振り払うように家へと帰っていった。
「ただいま」
「おかえり。ダイスケ、顔色が悪いけど何かあった?」
家に帰った服田にアヤノが心配そうに尋ねた。
「・・・・・・なんでもない。父さん帰ってるの?」
「ええ」
服田は制服のまま、二階のミツオの部屋に向かいドアをノックした。
「父さん」
「どうした?」
ドアの向こうから声が返ってきた。服田は今日のことを話そうとした。
「あのさ・・・・・・今日の学校帰りに・・・・・・」
「学校帰りに何かあったのか?」
「いや・・・・・・なんでもない」
そう言うと服田は階段をかけ下りていった。
◆
屋井村を倒した高取は後藤たちと打ち合わせを済ませた。戦闘を目撃した高尾木高校の生徒は無害と判断したが、後藤は高取に可能であれば正体を見極めるようにと言った。
高取は後藤たちと別れ、豊田駅で電車を降りた。田島からの着信に気付き、電話を折り返した。
「高取です・・・・・・」
『田島だ、悪いね。下関さんとの飲みだけど、来月の五日仕事終わりとかどうかな?』
「・・・・・・大丈夫です」
『店は俺がとっておくからさ。久しぶりに飲めるの楽しみにしてるよ』
「ええ・・・・・・わかりました」
高取は通話を終えた。情報を得るにはもう一度、以前と同じように振る舞わねばならい。押し寄せる虚しさを振り払うように鳥平民へと足を向けた。
「いらっしゃいませー」
バイトの若い女性店員が元気に声をかけた。
「カウンターでお願いします」
そう言うとカウンター席に通された。この日は人が多く、高取は白いスーツを着た短髪の男の隣に座らされた。
「生ビールとピリ辛きゅうり、ももと皮を塩でください」
注文をして少しするとジョッキに入った生ビールが置かれた。高取はジョッキを持つと、ゴクッと一口飲む。喉に炭酸の刺激が駆け抜ける。高取は屋井村を殺したことを頭から締めだして、目の前のビールをひたすら飲み干した。
「ピリ辛きゅうりになります」
中年の女性店員が高取の前にピリ辛きゅうりの小鉢を置いた。
「すみません。芋焼酎のソーダ割りをください」
高取が注文すると、
「俺もおかわりをくれ」
横に座る白いスーツの男も注文を頼んだ。店員は頷き、微笑みかけた。
「あらっ、神駄さんも同じ芋焼酎のソーダ割り好きだったわねぇ、気が合うんじゃない、あははははは」
笑い声をあげながら店員が去ると高取は神駄と呼ばれた男を横目で見た。気付いたのか神駄も高取のことを見る。
「あんた、変わったものを飲むな」
無愛想に神駄が言った。
「あなたもね」
高取も無愛想にそれだけ言うと前を向き、もくもくとピリ辛きゅうりを食べた。




