13 ア・スチューデント・ウィットネスト・アン・狂師①
高尾木高校の話。13~15まで続きます。
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BARヤギの扉には「CLOSE」の札が掲げられている。店内にはバーテン姿の後藤と高取がカウンター越しに向かい合っていた。少し離れたカウンターに米山とコールマンが座り、様子を伺っている。
「黒いフードの男、リトルグレイのことを知っていたんですか?」
「知っていたと言っても会ったこともなければ素顔もわからん。以前、同じような爆発事件がありその被害者から黒いフードの男を殺すように依頼を受けた。かつて仲間だった、大貫リュウジは調査を進め、事件とフシモリの関連に気づきそこを糸口に探っていた。調査でそいつはフシモリのリトルグレイと呼ばれているエージェントだということまではわかった」
「それ以上のことはわからないんですか」
「さらに大貫は正体について調査を進めていたが・・・・・・」
「どうなったんです?」
「自宅でビームを撃たれたのか、ズタズタになった大貫の死体が発見された。そして、壁に処刑しました、と血で書かれていた。それ以来、私たちも黒いフードの男・・・・・・リトルグレイを探している」
「・・・・・・その大貫さんは超人としてはどうだったんですか?」
「コールマンよりも強い力を持っていた。高取、お前が無謀に動けば確実にリトルグレイに殺される。だから、殺させない為にお前を鍛えていた。私たちは今もリトルグレイを探している。私たちにとっても倒すべき相手なのだ」
高取は俯きながら、後藤を見据える。
「私も探します。いや、探させてください。この手でリトルグレイを倒します」
後藤が首をふる。
「良いか。今のお前では倒すことはできない。探すことも慎重に進める。私の指示を待て」
「待てません! 私は・・・・・・」
「馬鹿者! 焦るな! 恐らくリトルグレイはフシモリの闇だ。接者とは訳が違う。慎重に進めなければ我々の正体も露見し全滅する。私にまかせろ! 必ずリトルグレイの正体を暴いて、我々が裁きを下す! その時はお前にも動いてもらう! 待ってくれ」
「待てばどうなるんです・・・・・・」
高取はウイスキーが入ったグラスを握りしめる。米山が前を向きながら、高取に話しかけた。
「お前の気持ちはわかるよ。だが、変な調べ方をすれば奴に辿り着けないどころか、俺たちは全滅だ。大貫は俺たちのことを吐かずに死んだ。だから、こうしていられる。こうしてフシモリを潰す手段を考えられる。俺たちを巻き込まずにお前にそれができるのか?」
「それはっ!!」
「できないのに勝手なことをするというなら、俺はお前を・・・・・・」
米山が指を鳴らして、高取を睨み付けた。高取も腕を動かす。
「米山も高取も落ちついて!」
一番端に座るコールマンが二人を窘めた。
「必ずフシモリは追い詰める。リトルグレイも倒す。それで良いわね? 後藤さん?」
コールマンが後藤を見つめた。
「そうだ。必ず倒す。・・・・・・お前たちをこの道に引きこんだのは私だ。責任は持つ。たがそれでも、信用できないというのならこの私を殺してから思い通りの道へと進むが良い」
「米山も高取もわかった?」
コールマンが問いかけるのに対して米山は下を向いた。高取は自らの無力さを思い、ウイスキーを呷った。グラスを置いたのを見計らい、後藤が高取に視線を向けた。
「高取、フシモリは超人をコントロールしているだけではない。死の年以降、世界各地で高エネルギー結晶の聖石が見つかり研究が進められているのは知っているだろ? 既存のエネルギー資源の枯渇に伴う次世代のエネルギー源だ。この酷い災害があったにも関わらず世界の復興スピードを見ろ、政府のエージェントの時に知ったが特定機密統制法で隠されてはいるが聖石はすでに実用化されている。フシモリや巨大企業はその利権を巡って争っている」
「留燃・・・・・・アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ、世界各地と日本でも九州で発見されてましたね。やはり、実用化してたんですね・・・・・・」
「各々の地を巡り、国家に匹敵する力を持つ巨大企業群が世界規模の争いを繰り広げている。お前が相手にしようとしているフシモリはそこまで力を持った存在だ。それを理解しろ」
高取は黙ってうつ向いた。
「フシモリにはエイトプリンスと呼ばれる実行機関がある。八人の幹部は攻士と呼ばれ、その下に攻生という構成員がいる。上級生、中級生、下級生と階級がわかれていて、恐らく接者は末端の下級生であろう、それでもあれだけの力がある。わかるな?」
高取はウイスキーをいっきに呷った。アルコールの刺激が喉を焦がした。
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「飲み過ぎましたね・・・・・・」
高取は頭を押さえながらベッドから起き上がると出勤の用意を始めた。
『・・・・・・稲城区では海外の犯罪組織ココガヘンとメリーズとの違法薬物ハピウケの大規模な取引があるという情報を受け、ハチオウジ市警が現場に踏み込みました。現場では激しい銃撃戦となり三十名を超える死傷者が・・・・・・』
ニュースを最後まで聞かずテレビを消して外に出た。
ブゥーーン、高取は原付に乗り、高尾木高校に向かった。信号が赤になり停車する。横を見ると「ここから八王子区」と書かれた看板があった。看板の下にフシモリ寄贈と書かれている。周囲を見渡すとあらゆる所にフシモリの名が溢れている。
ファンファンファン、前方からパトカーのサイレンが鳴り響いた。続いて銃声がする。前方の対向車線から黒いワゴン車が走ってきた。黒い目出し帽を被った男が窓から身を乗り出し、後ろに向けてアサルトライフルを撃ち続けている。激しい銃撃音と銃撃が弾かれる音が響き渡る。黒いワゴン車の背後には二台の鉄格子で覆われた装甲パトカーが銃撃を受けながらも追いかけていた。
『ハチオウジ市警です! 現在、銀行強盗犯を追跡してます! 周囲の皆様は安全な場所に避難してください!』
スピーカーから音を出す装甲パトカー目掛けて、さらにアサルトライフルの銃撃が襲う。とその時、弾丸が装甲パトカーの隙間を縫って窓ガラスを貫いた。
「ぎゃっ!」
弾丸は運転手の胸に当たり、血がガラス一面に広がった。装甲パトカーが横にスリップしていく。ギャルル! タイヤの擦れる音をさせ横向きになるとそこに後続の装甲パトカーと他の車が追突した。
「うわぁぁぁーー!!」
衝撃音と悲鳴が谺する。数台を巻き込む玉突きが起きた。その間に黒いワゴン車が高取の待つ交差点に近づいていた。歩道では大半が気にせずに歩いている。交差点を黒いワゴン車が通りすぎようとした時、ガシャーン! 衝撃音が響く。
「ブカツドー」と書かれた装甲車が横から黒いワゴン車を突撃し転倒させた。横転した車から目出し帽を被った男たち三人がよろめきながら這い出した。同時に装甲車からはヘルメットを被り武装した戦闘員二人が降り立ち、ハンドガンを構えると躊躇なく引き金を引いた。
「ギャァァァァーー」
何発もの乾いた銃声が響き、目出し帽の男たちの足や腕を撃った。歩道の人々は関わり合わないように足早に通りすぎるサラリーマン、携帯端末のカメラで自撮りをして笑っている等様々であった。追突した後続のパトカーから傷だらけの警官が駆けつけ、ブカツドーの戦闘員と話している。警察は犯罪多発に伴う人材不足解消の為、複数の民間軍事会社に業務提携をしていた。
ちょうど信号が青になったので高取は事件を脇に見ながら原付を走らせた。このような出来事はハチオウジでは日常茶飯事のことであった。高取はヘルメットの中で苦虫を噛み潰したような顔をするとスピードを上げた。




