4-3話 ウエイター デモンの過去話3
案の定、翌日直接王から振られた予定をこなす事になった。
しかし、通常の城での公務は政治に関わる書類に目を通したり補佐をしたり地味なものばかりだ。
抜け出す事も頭をよぎるが、そうなると罰がくだり自分の首を締めることは予測できる。
復習として気乗りはしない学問も武道や剣術もこなす。
最悪、魔具で彼女と通信はできる。
真面目に取り組み最短で彼女を妃にする。それを一筋の希望がある。
デモンの珍しく真面目な姿勢に魔王と王女も驚いた。
「やっとやる気になったな!」と喜ばれ悪い気はしない。仲間に信頼される喜びがくすぐったく感じた。
早くも二つ目の月が過ぎた頃それは急に起きた。
魔具が見当たらないのである。
どこかで落とした!?
すぐに探そうとしその日一日を振り返ってみて側近にも一緒に探してもらったが一向に探せない。
新しく作るか。
しかしそれを作るにはまず一匹の魔物から得た対の角が必要だ。
前回は幼少期に制裁した魔物が勘弁してほしいと交換条件で貰った角を使ったがまず手に入れる事は難しい。
店に行く時間も魔王の監視が厳しい為怪しまれる可能性がある。
それにあと一つ必要なものが互いの声だ。
これには自分の使う魔具に相手が『真実の愛や信頼』を込めて発した相手を呼ぶ声が必要だ。よって一人では完成させる事ができない。
しかし魔王直々の教育が始まり、最初は信用がなかった自分に魔王は監視対象の魔法をかけた。
これで昼夜問わず自分がどこにいるか魔王はお見通しなのだ。
なにも言われぬまま魔王の魔法をかけられた後に知らされやられた!と自分の信用のなさと間抜けさを呪った。魔王の前では自分の魔力なんてかわいいものだ。
(クソッ!!)
何もできぬままデモンは時を過ごす事となった。
一方
(今日も何もない)
寝る前、いつも約束している時間、リリムは自室で
デモンからの連絡を待っていた。
連絡が途絶えた日は何度もこちらから連絡をしてみたが一向に魔具繋がる気配がない。
何か彼にあったのだろうか。
事故。
だとすると王家直々に伝令があるはずだ。
しかしそれとなくメイドに聞いても王家からの伝令はないと言う。
故障、紛失。
様々な事を考えたが拉致があかない。
まさか私に飽きた・・・。
いや、彼に限ってそんな事はないと思いたいが相手は王族だ。
自身だって望めば妃候補にはなれるのだが自分は姫ではなくあくまで伯爵令嬢。
あることないこと不安が頭をよぎる。
「デモン・・・」
そう呟くと魔具に動きがあった。
角に埋められた紅色の石が光り彼とは違う聞きなれない声が聞こえたからだ。
『なんだ。今これから聞こえたのか?』
彼とは違う声に困惑し一通り相手が何をいうか待つ。
『これは魔具なのか。こりゃいい!高値で売れる』
とヒヒっと卑しい笑いが聞こえる。
(冗談じゃあない)
リリムが声を挙げて魔具に問いかける。
「待って!それは私の恋人の物なの」
と言うとそれが聞こえたのか『なんだ、これは?通信ができるのか?』と驚いている。
どうやら電話口の男はこの魔具が何なのかまだ分かっていないらしい。
『もっと買い手がつくな』ガハハッとまたも卑しい笑い声を挙げられますます我慢できなくなった彼女は声を挙げる。
「これは王子の物なの!聞いているの?返して!」
そう言い放つと予想外な返答が返ってきた。
『お嬢さんは王子の何なんだ?』と問われリリムはサッと青くなる。
『どうしてそんな事って思うだろう。俺が城の使いだからだ。この頃王子は朝から忙しそうでね。
偶然俺がこれを拾ったんだ。日ごろから酷い目見てるんだ。これくらいいいだろう』
そう言われリリムは「お金なら私が出すわ。だから返して」と対面して相手の姿は見えないものの詰め寄る。
しかし男は『王子は連絡して来ないよ』と返され「だから返してと言っているの」
同じやり取りに苛つくリリムをよそに男は続ける。
『言っておくが君は王妃にはなれない』
「どうゆう事?」
リリムは気になって聞かずにはいられない。
『王は他のご令嬢を気に入っていてね。城の中では有名な噂だ』
( ! )
男の言葉に動揺を隠せない。
「それは王子が王に話をしていないからよ!」
ここに来て自分が二人でいたいからと彼に我儘を言った事を後悔した。
『それが王子もまんざらではないらしい』
そう言われ更にリリムは混乱する。
「嘘!彼は次期に私を妃にするって言ってくれたんだから。王に話を合わせたんだわ!」
じゃないと男の言う事が流石に聞き流せない。
『まあ、婚約にしろ何にしろ交渉は戦略だ。
君と王の妃候補どちらが魔界の利益になるのは目に見えて分かる事だな』
それを言われたらさすがに自分は返す言葉がない。
「じゃあ貴方から王に言って!彼には私がいるって証明して!貴方も城の使いなんでしょう?」
と反発すると男は嘲笑う。
『お嬢さんは頭が弱いなあ。そんなだから君は妃になれないんだ。俺はただの城の使いの下っ端だ。それが簡単に王に意見できるとでも』
「そんな・・・」
愕然とした。
それを境に魔具からは声が途絶えてしまった。
(落ち着いて。デモンは私を裏切ったりしない。
彼は私との結婚に前向きだった。
でも彼が一番に王に従っていたのも事実。
じゃあデモンはなんで私の事を王に話さないの?)
自室で一人、リリムは不安に駆られ夜はふけてゆくのであった。
それから半月が過ぎようとしていた。
「お嬢様、失礼ですが本日も体調が悪いのでは」
メイドはリリムに気遣い身支度を手伝う。
確かにデモンからの連絡を待ち不安に駆られ明け方を迎える事が続きすっかり顔色が悪くなってしまった。
出歩く事もせず自室から出ようとはしない。
メイドが一番驚いたのはナアマ嬢の誘いを断った事だ。
「・・・お嬢様、行かれないとは思いますが招待状です」
メイドの手にしている物。
それは社交界への招待状だ。
デモンと会うまではよくナアマとよく社交界にでていた。
ナアマは自分の姉みたいに仲がよく社交の場に詳しい。
こういった事に疎い自分に「リリム、貴方が踊っていた方は〜」と情報を教えてくれたりとする。相手の情報を知ることもマナー。
ナアマがいてくれると何かといてくれると教養が身につくのだ。
まさにお姉様みたいな親友なのだ。
『お嬢さんは頭が弱いなあ。そんなだから君は妃になれないんだ』
なぜか最後に残した男の言葉に怒りが湧いてくる。
「行かれないとは思いますが、こちらに置いておきますね」
そういうとメイドはお辞儀をし自室を出ようとする。
しかし
「行くわ」
そう言うとメイドは何事かとリリムを見る。
「社交界に行くわ!」
そう断言するとメイドは喜び
「では、ナアマお嬢様もご出席されるか確認しておかなくては」とメイドは陽気に自室を出ようとしたので「私一人でいく」と伝えるとメイドは困惑したがようやく相手を見つける気になったと思われたのか「では私も張り切って準備しますね」
そう話がまとまりついに初めて一人で向かう社交界当日が来てしまった。
しかし、ナアマがいないとどうも緊張してしまう。
自分だって名家の娘だ。ダンスに声や談笑に声はかかるが流石に気疲れしてしまった。
少し一人になりたい。
そう思い噴水まで行くが同じ事を思う相手もいたのか先客がいた。
(場所を変えなくては)
どうも初めて行く屋敷はどこに何があるか分からなく勝手が悪い。
しかし、ある程度したら広間また戻った方が良さそうだ。
ナアマといるとダンスの誘いも分散され、隅のソファーで二人で過ごす事もできる。
やはり彼女と来た方がよかっただろうか。
いや、それじゃあ意味がない。
そう考え中庭を歩いていると外れに小さなガゼボ(あずまや)がある。
明かりがないからきっと人が集まらないのだ。
中に入ろうと脚を踏み入れる。
しかしそこには先客がいた。
暗くて見えないが教養がありでも柔く響く声がリリムを招き入れる。
「よかったら一緒にどうぞ」と引くに引けないでいると「あなたは確か・・・」と目の前にいる男性に聞かれリリムは名乗る。
驚いたが相手は今宵の社交界の主催者だ。
「私はバラムと申します」
知ってはいた。
顔は確かダンスホールで少し見たはずだ。
「驚きました。貴方はどうしてこちらにおられるのです?」
バラムの問いかけに
「少しだけ外の空気に触れようと思って」
とあたりざわりなく発言する。
すると
「よかった。主催がゲストを退屈させる訳にはいきませんから」とバラムが返す。
リリムは独特な違和感を感じていた。
基本、伯爵と言うものは威厳に満ちているものだ。
しかし彼の家族が没落貴族から這い上がり社交界に返り咲いてから初めての社交界のホストだとしても
普段リリムに言いよる伯爵とは毛色が違うのである。
「皆は楽しんでくれているだろか?」
そう聞かれ中庭が少し混んでいたとは言い辛い。しかし濁すのが優しさだろう。
「ええ。バラム様は戻らないんですか?」
皆寂しがっておられますと言うと
「私はいいんだ。親が張り切って開いたんだ。情け無いけどここから動く気はないよ」と彼は疲れたとばかりため息をつく。
「貴方に話すのも情け無いがこういった場は子供の頃以来で私にはすっかり合わないらしい。あ、誰にも言わないで」と白状されふいにリリムにはそれが可笑しく見え「ふふっ!」と笑いが出た。
「ああ、言わなければよかった」そう狼狽するバラムにリリムの緊張はほぐれ「すみません。私も」と便乗して緊張していたと告白すると「嘘だろう。たしか貴方は名家なのに」そう言われ
「いいえ。いつも社交界には友人と来ていますので」とナアマの事、社交界は嫌いじゃないがやはり
疲れる部分もある事を告げると
「僕もだ!ああ、固くならなくていい。普通に話そう。バラムでいい」と言われ「じゃあ、お言葉に甘えて」と話すといつもとは違う穏やかな会話を交わし楽しい時間を過ごせた。
「そろそろ戻らなきゃ。最初と最後くらいはちゃんとしなきゃね」と嫌そうにバラムが本音を話すとリリムはまた笑う。
「また来る?」とバラムがリリムに尋ねる。
一瞬、連絡が取れない彼の事が頭をよぎったが恋に苛まれるくらいならば時に気晴らしは必要だ。
「ええ」
そう返事をするとバラムは満足そうに笑い広間に行く途中までリリムと同行し別れた。
リリムとバラムにとって貴重な夜となった。
帰りの馬車の中、ふと自分のブレスレットを見る。
反応はまだない。
そして
(私、一人で行けたわ。社交界に)
そんな達成感が何より心地よく感じ久々に安堵して床に着く事ができた。




