3-5話 花嫁は祝いましょう。お客様。
サガンさんは「私、ポテサラ追加で」と頼むとウエイターが「お前、夕飯食っただろ」いい加減にしろと注意する。
「晴さんの食事は絶品なのですが量がその上品なもので」と話していてどうやらサガンさんは大間食なようだ。
私もなにか野菜を取った方がいいかもしれない。
メニュー表をみて海鮮サラダを注文する。
「ところで、品川さん」
飲んでいる私にサガンさんが尋ねる。
「お友達にはあれから連絡はありましたか?」と痛いとこを突かれギクッとする。
「いえ、まだ」と答える。
スマホを触る度いちいちラインチェックはしているがメッセージは一つもない。
当たり前だ。
こっちからあんな事言っておいて図太い自分が嫌になる。
「私もお2人みたいに仲が良かったら喧嘩しても普通に話せるはずなんですけど」
気持ちを吐露すると
「それはない」と突然正面でサガンさんのニ杯目のカクテルを作っていたウエイターが話に入ってきた。
「まあ、私達一応上下関係がありましてこっちが上なんですけど」とサガンさんがウエイターを指差し説明する。
「これって言うな」とウエイターがまた注意すると「いいじゃないですか。
本当の事なんですから」と彼は面倒くさそうに返して続ける。
「まあ、私達だって利害はありますからね。どんなに仲が良くてもそれなりに気を遣ってはいるんですよ」
そう話されると自分が如何になずなにひどい事を言ったかが悔やまれ耳が痛い。
「うーん。じゃあ品川さん一つ昔話をしましょう」とサガンさんは提案した。
「むかーしむかし、お兄さんは真面目に農業を弟は気ままに羊飼いをしておりました」
と話し始める。
(羊飼いというワードは日本の昔話にはないが)と思っていると
「ある日、神様にそれぞれ二人が捧げ物をしました」と続けたので「神話?」と思わず聞くと「まあ、そんなとこです」と笑われる。
「神様はお兄さんが捧げた作物は受け取らず弟の羊を喜んで受け取りました。
さてお兄さんは弟をこれからどうするでしょうか?」とクイズと言わんばかり質問して来た。
「えーっと何か特別な事をしたかって質問するとか?」と答えると「ぶーっ!」っと不正解を出された。
「答えは嫉妬に狂い殺してしまったです」
ととんでもない正解を教えられ「酷」と言葉が漏れた。
「きっと弟もそう思ったでしょう」サガンさんは続ける。
「どうして神様は弟の贈り物だけ選んだんですか?」
疑問をぶつけると
「諸説ありますが1つはその時の贈り物は動物を捧げなければいけなかったからや、さらに弟はその年に生まれた子羊を捧げていた事などが原因だと思われさらにはそれが神への信仰の姿勢と考えられ弟だけ受け取ったと考えられているそうです」
「神様も原因を言ってあげればすれ違わなかったのに」
「そうですね。現在ではこの話を元にして兄弟間で親への愛情に格差を感じる事をカインコンプレックスというそうですよ」
(そうだったんだ。サガンさんはイケメンであり博識)
なかなかそんな宗教じみた話をする人を尊敬するのは自分としてもヤバいと感じたので呑むペースを落とす事に努める。
「素直になるのは本当に難しいですね」サガンさんがどこか残念そうに話す。
「私もなずなに謝らなくちゃいけないのはその、分かってはいるんですけどなかなか言えなくて。情け無いですね」そうサガンさんに話すと
「だったら祝えばいい」と前にいたウエイターが
声をかけて来た。
「結婚するんだろ。その友達は?」と聞かれ「あ、はい」とつい頷く。
「謝りたい気持ちもあれば祝いたいのも本心ですよね」
横からサガンさんも声をかけて来る。
「はい」
二人が言う事は本当だ。
「でも、謝らないなんて勝手すぎませんか?」
「たしかに自分が下手にでないと相手に誠意が伝わらないと思いがちです。だから先におめでとうと祝って最後に謝罪をする文面でメールを作るのはどうでしょう?」
そうと決まればメッセージ作成だ。
スマホを触る自分を前にウエイターは水のおかわりを注いでくれる。
深夜テンションで変な文章になってないかとウエイターに見てもらうとなんで俺と驚かれ「これ、間違ってないかと何度も二人から確認された。
『なずな、婚約おめでとう!昼はひどい事言ってごめん!今度お祝いに鉢と苗贈るから候補教えて』と作成して送信した。
二人に見守られながら返信を待つと『アイビー希望』と返ってきたから三人で乾杯した。ちなみにウエイターは炭酸で乾杯だ。
「いやいや、贈り物に花は聞いた事はありますが植物とは変わった方なんですね」
とサガンさんが笑うので「たしかに変わってはいますけど観葉植物には花言葉みたいなものがそれぞれあってそういうのを楽しみに買う人もいるそうですよ」となずなの受け売りを話す。
「へえ、品川さんは博識ですね」とサガンさんに褒められていい気分になる。
「うちにも何か買ってみる?」とここにきてコックかと思っていた店長も話に交わる。
「なんか私もなずなに聞いただけだから詳しくないんですけど茎が真っ直ぐで背が高い物が人気らしいです。あとパキラとか金運にいいらしいですよね」
なずなに聞いて印象的だったのかこうゆう事は覚えてる。
「まあお店にはカジュアルな見た目だから自宅で楽しむ分にはいいかな」と付けたそうとすると「それにしよう!」と店長の目がキラキラしていてたじろいだ。
「強欲、強欲」呆れて、でも楽しそうにウエイターは店長から引いたところに移動する。
一体彼らの力関係はどうなっているのか。
新しく作ってもらったモスコミュールに口をつけながら夜は賑やかに過ぎて行くのであった。
翌週
「せりが抜け駆けした」と部屋に来たなずなはこの上なく不満そうだった。
自分一人で魔窟に行った事を彼女からすると物凄く羨ましかったらしい。
「だから今日また行こうって話したじゃん」
そう。今日は彼女の婚約祝いなのだ。
「サガンさんも来てくれるかな?」となずなの目当てはもっぱら彼らしい。
「浮気者。婚約者がいるだろ」と苦言すると「推しと本命は別腹なんだよ」と言う彼女はちゃっかり者だ。
「せりはサガンさんとなんかなかったの?」と聞かれギクッとした。
「何もないよ」と返すと「本当に?」と納得いかないのか彼女は疑っている。
本当にこれに関しては笑えるくらい何もない。
というのもグリーンの話をした時にふと「私は恋愛に効くのがいいな」と漏らすと「へえ、品川さんも恋愛に悩むんですねえ」とサガンさんが聞いて来たので「付き合うとイメージ変わるみたいで」面倒な性格が災いしてかなかなか現状は上手くいかない。
「私もなずなみたいにいい恋愛したいな」と愚痴ると「まあ品川さんはハイスペックな方より穏やかな人が合ってそうではありますね」と言うと店長もウエイターも頷いていた。
「そう、なずなさんみたいな」
お店でなずなを見ていたサガンさんが言ってきたので私はぐうの音も出ない。
三人からはドッと笑いが起きるとなんか図星で「あー、うるさいですよ!酒持ってこーい」とふざけてなんとも言えない空気になってしまった事を話すとなずなは大爆笑だ。
「じゃあ行こっか」
玄関に向かいブーツを履いて魔窟に向かう。
「めっちゃ楽しみ。何が出て来るんだろ」
魔窟の話をなずなにしたので彼女の期待値は高いらしい。
今日は彼女の祝い席の為予約を取った。
「まあ、着いてからのお楽しみって事で」
電車に乗って考える。
きっと彼女の期待は斜め上に反れるだろう。
魔窟には現金で快活な店長や気だるげだが酒を作るのが上手いウエイター。
朗らかだけど少し毒のある
人もなずなにグリーンの知識に興味を持っているのだ。
彼女が主役だから抑えてくれるだろうが彼女は大丈夫だろうか。
「せりー、早く」
私より前を行く彼女を追って私達は店に向かう。
「ごめん、先に謝っとく」と彼女に声をかけたが聞こえなかったようだ。
夜は長い。これからどうなるだろう。
そんな事を考えながら二人で青に変わった信号を渡るのであった。




