2-11話 お客様、次は懲りて悪い男には気をつけましょう!
「いや〜、俺警察呼ぼうかマジ迷ったし!」
元彼のせいで一時間魔窟の開店時間が遅くなったいつものカウンターで店長が深いため息を吐きながら
いやあ、よかったよかったと笑った。
「お店開くの遅くらせてすみません!あとこれ」と借りていた制服とお世話になったので」と菓子折りを渡す。
煎餅と和菓子を一箱づつ荒城と魔窟に選んだのだ。
「お、ありがとう〜!じゃあこっちも」と今度は店長がレジ下の引き出しから封筒を取りだした。
「はい。木下さん」と言われ渡されたのは五万円紙幣だった。
突然の事に戸惑う。
「三日分の給料と再就職祝い」と店長が告げるとその事に驚き嬉しさと申し訳ない気持ちが混在して「悪いですよ。受け取れません!無給って約束だったし」と拒否したが「いいの。木下さんは俺からの祝い金が受け取れないの?」と店長は悲しげな顔で言う。
そう言われては、だ。
「すみません。ありがとうございます」とバッグに封筒をしまう。
それを見た店長は「よろしい」と満足げな笑顔を浮かべた。
「あ、ちなみにそれ親父達からもだから」と後出しで言われたのでお二人にもお礼を伝えるようにと店長に告げた。
「さて、せっかくだからなんか食べてく?」と店長言われ「オムライスセットで」と迷いなく注文すると彼は「了解!」と調理を開始した。
料理が出来上がり一口スプーンで口に運ぶと新しく好きになったあの味が優しく広がる。
食べ終わると今までカウンターの隅で酒を作っていたデモンさんがスッとこちらの目の前に「それ」を置いた。
赤いグラス横にはレモンがうさぎのかたちに切られ乗っている。
「カシスソーダ。再就職祝い。あ、一応おごりな」と言われこれには私も驚いたが店長の方が驚いた。
「お前が奢るの!?」人に!?とまるで信じられない事が起こったみたいな動揺ぶりで「俺には?」とデモンさんにせがむが「仕事中だろ」と苦言すると「お前ってそんな真面目キャラだったか?」と不貞腐れながら文句する。
真面目で何よりだ。
しかし自分は分かってしまった。
カクテル言葉の意味を。
カシスソーダのカクテル言葉は「あなたは魅力的」だ。
「ふっふー♪」とニヤけると二人は少し引いて心配したが「何でもな〜い♪」とまたスクショを撮り最初の一口を頂く。
「甘い!酸っぱい!」と稚拙な感想を述べ絡むとハイハイ、よかったねーとこれはまた微塵も思ってないようにあしらわれた。
「まあ、下手に続くより、別れられてよかったね」と店長の発言に「本当それ!もうあれに時間使ってたと思うと黒歴史だし」と店長に愚痴る。
「でもデモンさんも復讐とか言って何もしなくてよかった〜。怪我しちゃ嫌だし」と言うと「復讐ならしたというか」と支離滅裂な事を彼が言ったので店長と二人でどう言う事かと思っているとデモンさんは自分用に持っていたのかスマホを取り出し何かを操作した。
すると
『痛ええ!』と悶絶する元彼の声が聞こえた。
「撮ってたんですか!?」
「まあ、買い出し中にスマホ触ってたらお前出せって絡まれたから面倒くせえから(レコーダー)回した。あんま使わないけどこないだお前がそれ使ってた意味分かったわ」とははっとデモンさんは笑う。
「いや、違うし。スクショと一緒にしないで!」と店長とやいやい反論したが結局デモンさんはまたハイハイと流され話題はゆいピになる。
「なんかでもまだモヤッとする。ゆいピはまだアレと付き合うのかな」
別れたとはいえ一人の女が悪い男の餌食になると考えるとかわいそうな気はする。
そもそもゆいピは私と元彼の関係を知っていたのだろうか。
「どの道上手くいっても気持ち悪い話だけどな。
女が上手だったらお前みたいに別れるかもな」とデモンさんが返す。
そう言われるとモヤが少し晴れた気がする。
「これに懲りたら次はいい男捕まえる事だね」
店長は相変わらず手痛い。
「いや〜、それはどうですかね〜」とあははと笑うと「え!嘘、恋してるの?誰に」
短期間に信じられないと店長はまた驚く。
「お会計〜!」とはぐらかしレジに逃げるが店長は誰、誰?としつこく聞いてくるのをいつものようにデモンさんが制しレジを打つ。
「常連になりますから」とデモンさんに声を掛ける。
デモンさんの奢りもあってお代はやっぱり安い。
「気にしなくていいし」とデモンさんはそう言いながら満更でもなさそうだ。
それを見てまた良い気になり「全然気にしてない。
私がしたいだけ〜」と言うと「好きにしろ」とまた投げやりな塩対応をされる。
「そうそう、私の店にも遊びに来てください。
結構人気出てきてるんですよ。お待ちしてます。ご主人様〜♡」と手でハートを作り言うと2人はポカンとした。
それを見て満足し店を小走りで去る。
急に客がいなくなった魔窟では「今の絶対俺に言った!」と小躍りしながら上機嫌な店主はウエイターの肩を叩く。
そんな彼に「ハイハイ」といつものように男は返す。
「今度一緒に店行こうぜ」
店主は相変わらず呑気だ。
ウエイターはというと返す気もないのだろう。
グラスを拭きながらため息をつき呟く。
「やっぱ、女分かんねー」
その呟きはガラッと魔窟と引き戸が開く音で消される。
「いらっしゃいませ」と挨拶をするとまたウエイターは次のお客を迎える為に入り口に出向くのであった。




