2-7話 実家には帰りません!
その昼食は無言に終わり、結局また店長が作ってもらったからと申し出を断られ店長が洗ってくれる事になった。
その時間歯磨きをしようと洗面所に行くとウエイターと通路で鉢合わせた。
「あ、どうぞ」
洗面所使うのかなと先に使って貰おうと思い一歩引く。
すると「あんたっていつもそうなのか?」と聞かれる。
さっきも聞かれた気がするが意図が分からないし「いつもそう」が何のことか分からない。
「何がですか?」と聞いてみると「別に頼んでないじゃん。ビラ配ったり飯作ったり」ときっぱり言われる。店長が「無理しないで大丈夫だよ」と同じ事を言われたが流れてる不穏な空気にやるせなさを何故か感じて怒りが込み上げた。
「駄目ですか?」とつい泣きそうな声がでるとウエイターはギクッとした表情になる。
「いや、違う。怒ってないし、いやムカつきはするけど」とウエイターに弁解された。
「お世話になってるから店長も一気に人は来てほしくない感じだったけど店の事知って欲しそうだったから、だから自分も何かしたかったんです」
ウエイターはまだ納得しきれていない顔だ。
「分かんねー」とポリポリ髪をかいている。
「ウエイターさんには分からなくていいんです」
と言い切る。
(この人の感覚は私と違う。分からなくて当たり前だ)
すると今度は「ウエイターじゃなくてデモンな」と言われやっとこの人の名前を聞けた気がして「ウエイターさん、出門さんっていうんだ」と食い付くと
「なんかイントネーション違くね」と指摘された。
「デモンが名前」と言われ「ああ、デモンさんか!ハーフとかですか?」と聞くと「そうかもな」と疲れた返事をされた。また何かしてしまったんだろうか。
ため息ついでに「お前の事情は聞いた。だけどずっとこのままじゃいられねー。そこんとこどう考えてんの」といきなり核心を突かれた。
また、しばし不穏な空気が流れる。
「しょうがないじゃん。帰る場所とかないし。家もバイトもあーくん、彼と一緒だったしきまづすぎるでしょ」
「お前は実家とかに帰ろうと思えば帰れるだろ」と
聞きたくない言葉をデモンさんは言ってくる。
「親とはあまり自分の事話したくない」
と彼の意見を否定する。
「わがままだけど私、家族と上手くいってない」
と打ち明けるとデモンさんが「なんで?」と信じられなさそうに聞いてくる。
「ママが苦手なんだ。仲はいいと思う。嫌いじゃない。だけど苦手」
そう我が家は仲はいい。
ママにとって私は大事な娘である。
だからママの言う事は絶対守らなきゃいけない。
成人してるのに家族である以上ママの娘は私なのだ。
小さい頃私はパパとママが大好きで『愛莉は私達のアイドルだね』と言われて育った。
まだ私が素直に二人の愛情を受け取っていた。
『私、愛莉にバレエやダンスをしてほしいな』
『じゃあ本当のアイドルみたいになれる?』
そう聞くとママは
『うん。でもママダンスなら愛莉にバレエ習って欲しいな』
そう言ってママは私をバレエスクールに通わせた。
身体が柔らかい私はバレエのレッスンは体力的で苦ではないがバレエが好きかと言われたら微妙だった。
でも上手く踊れてママとパパが発表会に来てくれて褒められて悪い気はしない。
しかし私の興味はバレエではなくアイドルがやるようなダンスや歌の方にあった。
ママの育児方針はこだわりがあり女の子だからこうして、ああしてと言った要望がある。
当然バレエではなくアイドルみたいに踊るためにダンスにシフトチェンジしたいとは言い出せない空気をママは醸し出していた。
ママのかわいいと私のかわいいの基準はズレがあるらしい。
いわゆるお人形やお嬢さんタイプに私に育ってほしかったママだが私からしたらバレエも飽きたし、アイドルダンスの方がかわいいしやりたい。
高校に入る時受験勉強を理由にバレエから解放されて凄く楽になった。ママの教えで文武両道に育ち
高校は私立だが共学に入って友達や彼氏ができたりもしたがママの行為は止まらない。
「付き合う子は考えなさい。彼氏ができたら家に連れて来なさい」
そんな感じで交友関係に口を出され門限も高校生なのに日曜も十八時だ。
流石に息がつまり、大学こそは上京しようと考えた。
結局パパ、ママに頼るかたちにはなったが大学を理由に金銭的援助はしてもらえて短大に通う為上京した。
そしてオーディション受けまくろうと意気揚々上京したが当たり前だが自分よりも可愛くてダンスが上手くて話が面白い子が沢山いる。
(ちゃんとダンスやりたいってせかんどくんだった)
と落ち込んだが、今更後悔しても多い。
入学して一年が過ぎたそんな時、大学で仲良くなった友達がメイドカフェのバイトを受けたいが一緒に受けないかと誘いが来た。
最初は渋ったがアイドルみたいに踊ったり歌ったりの接客もすると言われ二つ返事でOKした。
あに♡ラブがそこであーくんとはそこで出会った。
店長兼面接官だった彼との面接は雑談に近い感じだった。
第一印象は年齢は分からないが和やかで包容力がありそう。
でも現場を仕切っていてそれが私の周りにいる男子達とは違ってとにかくかっこよく見えた。
運良く付き合えて卒業して同棲して、そしてその顛末がこれだ。
全く私が何をしたというのだ。
「だから、家族がいる所には帰りたくない。勝手言って悪いけどもう少しここにいさせて下さい」
とデモンさんに話した。
「まあ、権利が俺にあるわけじゃねーからだけどお前はそれでいいの?」と聞かれまた意味が分からなくなった。
「愛莉です。それとデモンさん、間接的に聞きすぎですよ。質問の意味が分かりません」と聞くとまたウザそうな顔をされた。
(事実じゃん)と心の中で反論したが。
「分かんねーって言ったのはお前がまだあーくんが好きなのかって事とそいつにムカついたりとかはないのかって事」とやっと分かりやすく聞いてくれたが直接的すぎる。
しかしそれに自分も上手く答えられない。
「分かんない。どっちかっていうと何でって気持ちの方が大きいし、どっちが先に手を出したか分かんないし」と率直な感想を答える。
「俺だったら奪った奴がいたらそいつを恨むけどな」とデモンさんが呟く。
「デモンさん、奪われた事あるんですか?」と聞くと「お前には関係ないだろ」とシッシッと払われた。
「まだ歯磨いてません」と言うとデモンさんは自室に戻っていった。
結局、洗面台にデモンさんは何の用事できて一体どんな過去があるんだろう。
そんな事を考えた昼下がりだった。




