2-4 魔窟は昼は定食屋 荒城(あらしろ)です。
部屋に戻ると彼は既に寝ていた。
翌日、「じゃあ、俺は仕事に行くけど愛莉は病院ちゃんと行くんだよ」とあーくんが寝ている私に声をかける。
「うん」と返事をするが、今日ばかりは仮病を使わせてもらう。
結局一緒に寝れなくて夜はソファーで眠ってしまった。
彼が出て行きキャリーに詰めれるだけの洋服を詰める。
『大丈夫だって、それかなんかあったら家がなんとかしてあげるって!ほらうち人出欲しいって言ってたし』
社交辞令だけど同僚には言えないし友達もいない。
家族を頼るのは嫌だが最終手段だ。
もうここには帰らない。
そう決めてあのレストランを目指す。
しかし
「違う店・・・ 」
目の前にあるのは確かに昨日行ったレストランだがなんだか雰囲気が違う。列ができているのだ。
ここオフィス街だけど目立たないとこにあるんだけどな。
入り口には昨日は何もなかったはずだが今は『定食屋 荒城』と書かれた暖簾がかかっている。
でも確かに私は昨日ここに入ったし定食屋に一人で入ってみた事ないけど窓からこの近くのOLだろうか。女の子も何人か入ってるのが見える。
よかった。サラリーマン達ばかりだったら入りにくいけどとりあえず入ってみる事にした。
ガラッと引き戸を開けると「「いらっしゃいませ!」」と挨拶が店内に響く。
混んでる!
昼時なのかそこにはカウンターが端の一席だけを残して全て埋まっている。
カウンター席に座ろうと席に進むと少しだけ回りの視線を感じた。
そうだ。
ここは定食屋で私みたいな格好をした人は定食屋に一人では入らない。
よく考えたらテーブルにいたOLも二人で座っている。
気まずい。今は仕方ない。
食べたら店長の連絡先聞いて退散する。
隣の客とは反対の通路側に引いてきたキャリーを置きリュックの置き場所に困っていると横から「こちら、ぜひお使いください」と朗らかな声に振り向くと白いシャツに紺色のカフェエプロンを来たご婦人の定員に籠を渡された。
「ありがとうございます」
と言うと定員は会釈し接客に戻って行った。
しかし、昨日も人の出入りがあったけど昼なのかすごい客入りだ。
一応大通りを一本外れてるんだけど隠れた名店らしい。
店長はレストランは昨日最近開いたと言っていた。
こちらもそうなのだろうか。
そんな事を考えながらメニューを見る。
こちらも昨日同様、白い紙にメニューと金額、詳細が書いてあるものになるが和風ハンバーグ定食や唐揚げ定食など美味しそうなメニューが並んでる。
どうやらメニューにはサラダとお味噌汁がついてくるらしい。
昨日もレストランで唐揚げ食べたのを思い出しこれにしようか迷ったがもう一つ気になるメニューを見つけてしまった。
オムライス定食!普段ならうちのお店で作って出してるからまかないで食べて飽きて家で作ったり外食では選ばない。
でも女性客が頼んでるのを見てつい美味しそう!と思ってしまったのだ。
「あの」と後ろにいたさっきのご婦人の定員にオムライスを頼む。
対面に忙しく調理してくれている少し怖そうな初老のコックがいる。
この人が店長だろうか。
「お待ちどう様」と前からお盆に乗ったオムライスを出してくれた。
同じ皿に横に唐揚げとキャベツが乗っていて固焼きの卵に包まれたオムライスだ。でも見慣れてるオムライスじゃない。
ケチャップがかかっていないし代わりにネギと麺つゆのソースがかかっている。
トッピングされていて、スプーンを入れると鶏肉とキノコのバターライスの良い香りがする。
一口含むと今まで食べた事ない美味しさが口一杯に広がる。
(昨日の魔窟とも、あに♡ラブとも味が違う・・・ )
当たり前だがあに♡ラブのはチキンライスにケチャップがかかっているタイプなので当たり前だがこ(こっちの方が好きかも)と食べながら思った。
唐揚げも食べてみる。
(やっぱり!昨日レストランで食べた味とは違うけど美味しい!)
あっと言う間に食べ終わり水を飲みながらこれからどうするか考える。
(店は確かにここだった。ここのお店の人に聞けば店長に連絡がつくかも)
そう思い先程の定員さんに聞いてみると「え?ああ!明かしら?」と言われた。
「えっと、多分・・・ 。おでこ出した短髪の方です」と言うと「ああ、あの子ね。今上にいますよ」と天井を指差した。
(え、店舗兼住居なの?ここ)
「よかったら呼びましょうましか?」と定員さんが言ったので「いいんですか?」と返す。
「いいの、いいの。あの子店開いた途端全然こっち手伝わないんだもん」と彼女は話すが店長はここの元バイトで今は夜のレストランの店長らしい。
「それにしても安心したわ〜。あの子にこんな可愛らしい女の子の知り合いがいるなんて」と言われて
こそばゆい気分になる。
しかし、この人と店長はすごく仲が良いらしい。
バイトから住み込みで同じ場所に店を構えて家族に近い存在なのだろう。
定員さんはあなた、ちょっとそれ取ってとカウンターにいた荒城の店長から子機を取り出し電話をかける。
しかし、一向に向こうが電話にでないのか会話がない代わりに朗らかな店員さんの顔は般若の顔になり勝手口から出て行ったかと思うと数分後、探していた彼を目の前に連れてきた。
昨日あった店長はスウェット姿だ。
完全にオフタイムに押しかける事になってしまった。
彼は一瞬フルメイクな自分を見て誰か分からなかったみたいだが「昨日はどうも」と挨拶をすると「あ!」とした表情になり、「マジかー」と座り込んでしまった。
数分後、店内で話しても邪魔になるので店の二階にお邪魔した。
「何でもします!ここに少しの間いさせて下さい」
単直に申し出るが店長は「いや、助かるけど困るっていうか、同情はするけどさ」と煮えきれない様子だ。
「友達あたるとか」「いません」間末入れず答える。
バイト仲間はいるが相談できないし彼との関係はばれるしどちらにせよバイトに戻る気はないが気まずい。
「家族とか」「無理です」これも間末入れずに答える。
「でもなあ〜。俺だけの判断じゃどうにもならないからな」
「え、そうなんですか?」
「ここはさっきいた店の人、親父、お袋の家と店だから権限がないのよ」と店長が打ち明ける。
「え、ご家族だったんですか?」
言われてみたらなんとなく店長はあの朗らかな店員さんに似てる。うんと店長が頷く。
(そうか、店長の家族)
そう考えるとなんか疑問に思っていた点と線が繋がった気がした。
「何でもするって言ってくれるのはありがたいけど
人出が欲しいのは親父達の方だし」
店長は続ける。
「じゃあ、早速人出ならあるとお伝えします」
そう言って下の店に戻ろうとすると「ああ、待って!」まだ話し終わってないと彼は私を止める。
こうしちゃいられないのにと焦っているのに。
「うちは給料は最低賃金だよ」
「お金を稼ぐつもりはありません!」
お世話になる身だもん。そう告げると店長は「分かったよ。俺から話してくる」そう言って下に降りていった。
数時間後、私はリストランテ魔窟の皿洗いになった。正確には兼雑用とウエイトレスだが。
あれから店長がどんな話しを両親にしたか分からないがあっけなく了承したらしい。
「だから嫌だったんだよ。アイツ拾ってきたの親父だし」
アイツとは昨日のウエイターらしい。
「なんか、すみません」一応謝っておく。
「あ、店の件だけど木下さんにはうち(魔窟)に入ってもらうから」
サラッと店長は話したが「なんか昼はさ、結構体力勝負でね。男手が欲しいらしい。こっちなら昼より悲しいがな空いてるし入りやすいだろだって」
「でも、尚更そんなんじゃあお昼大変なんじゃ?」と切り込む。
お世話になるんだもん。
きちんと釣り合いは取らなきゃ!意気込んでいると「まあ、親父が決めた事だからしょうがないって。俺は助かるからよろしく」と握手され「ついでにアイツを調教してね」と言われてしまった。
アイツとはウエイターである。
開店準備をしているとフラ〜っと彼は現れた。
「あの、お世話になります」と挨拶をすると彼は店長に「うちってバイト募集してたっけか?」と聞く。
店長が経緯を話すと「黒かよ」とあーくんの事だろう。
ため息を吐くとまたフラ〜っと横を通り看板を持ち奥に籠った。
正直(それだけ?)と思って少し落ち込んでいると
「感じ悪いでしょ。大丈夫。アイツ俺にもそんな感じだから」と店長がフォローしてくれる。
すると、奥からウエイターが顔を出し店長に「今日は何」と投げかけると「和風ハンバーグとボロネーゼ」と返す。
なんのやり取りだろうと思ってると店長が「木下さんはどっちが好き?今日のおすすめから賄いは出してるから」先に教えてと言われてさっきのは今日のおすすめをボードに書いていたんだと分かった。
「じゃあ、ハンバーグにします」と言うと「了解〜。じゃあ、木下さんの仕事としてはまあ、レジ打ちと調理以外一通りお願いね」
「分かりました!」意気込むと「だってよ、お前も見習えよ〜」とウエイターに言うがガン無視されていた。
流れとしては開店して初めはウエイターが注文が入り私は配膳、お客様が増えたら一緒に注文受けて皿洗いや片付けに回るとの事だった。
レジ打ちもできそうだけど一台しかないからウエイターにお任せする事になっている。
しばし、開店準備を終わらせ十八時に開店である。
がー、
「なんか、あまりお客さん入ってこないですね」
開店三十分だとこんなもんだろうか。




