開戦
「叢雨さん、居ますか~~~」
などと言いながら静かに中に入った。
いやいや、当然いるんだろうけれど。それにここでいなかったら拍子抜けもいいところだ。
「こっちですよ。谷崎瑞樹さん」
奥から声が響く。
解体時に使ったと思われる木材や鉄骨が辺りに山積みにされている内部はちょっとした迷路だ。
俺たちは奥から響いてきた声を頼りに、いきなりの攻撃に合わないよう慎重に進む。
木材や鉄骨に隠れるようにしながら先を窺う春樹さん。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
先を窺いながら俺の気遣いもしてくれる春樹さんは今や集中に集中を掛け合わせたような感じだ。
「春樹さんももっと気を抜いたら?」
「桜田さんはもう少し警戒してくださいよ」
そんな正反対の二人を見ているとつい顔がほころんだ。
そんな俺を見て二人はやれやれと言った感じで顔を見合わせた。
そんな感じで奥に進んでいくと、鉄骨に腰を下ろし、悠々と座っている叢雨の姿が。
「やっと・・・・・・ですか」
そう言うと、叢雨はこちらを見据えた。
「どうやらばれているみたいだね」
「ちょっ」
桜田は何のためらいもなく出ていった。
「谷崎さんもそこですか?」
「う~ん、どうだろうね」
「嘘をつく殿方は嫌われますよ」
「わかっているのにいないフリをするのもどうかと思うね。僕はそう言うのは好みじゃないよ」
「そうですか」
そして叢雨さんは何かに気づいたように、
「そう言えば、もう一人男性の方がいたように覚えているのですが、その方は今どちらに? いえ、それはいいでしょう」
そう言って叢雨さんは前に数歩歩き出し、
「聞くまでもないこと、でしょうから」
突如後ろから現れた春樹さんの体術を振り返りながら防いだ。
「あなたの相手をしたくはないのですが・・・・・・そうですね。私もやることを始めますか・・・・・・」
叢雨さんは春樹さんから逃げるようにこちらに走ってくる。
途中、懐から短刀を抜いて、桜田と対峙する形になった。
「僕としてはやりたくないんだけどね・・・」
桜田は瞬時に取り出した紙を二か所、自分の足元と右端の鉄骨に貼り付けた。
「あなたを斬ってそこを通ります」
「いや通れないよ」
桜田に斬りかかる瞬間、叢雨さんは弾き返された。
「君は怨霊の類に入るだろう? 僕はお祓いもできるんだ。すなわち当然、そして必然だ」
「これは結界・・・・・・しかし、いつの間に。今の行動では完成しないはず」
「さすがに長生きなだけあってそう言うこともしっているのかな。ならわかるだろう。目に視えないところも警戒しておかないとね」
「まさか、あれは誘導!?」
叢雨は春樹さんの方を見る。
春樹さんは見てみろと言わんばかりに自分の背後に貼った紙を見せた。
今回の紙には、東西南北の漢字が一文字ずつ入っている。
桜田に言わせれば、二次元的に道になるのはこの四つらしく、それぞれを封印の札として使えば生亡き者の道をふさげるのだそうだ。
生きている俺からすれば、本当かどうか定かではないが、目に視えることが真実だろう。
「終わった・・・のか?」
「そこでしたか!」
「瑞樹ちゃん、まだ!!」
「ふん」
俺の気が緩み、一歩前に出てしまったことで叢雨から見える位置に出てしまった。
瞬間、桜田が焦ったように大きな声を上げた。
俺はそんな桜田を見るのは初めてで、どうにも戸惑ってしまったがその理由はすぐにわかった。
「好機はいつでも訪れるものです」
叢雨さんは俺の方に短刀を向け立っていた。
そしてそれを引くような動きをした。
刹那、俺の腹がかっと熱くなって、異様な眠気が襲ってきた。
「さあ、出てきなさい。私が退治してあげますから」
「何を・・・・・・」
眠さをこらえながらかすれる眼で叢雨を見る。
そこでようやく異形な物を眼にすることができた。その異形な物というのが”鎖”だ。短刀に絡まるように俺へと続き、俺の腹に刺さって、いや、吸い込まれている鎖。
これが、あの鎖か・・・・・・
俺は朦朧とする意識の中で、その鎖を力いっぱい握りしめた。
「まだ入れ替わっていないはずですが・・・・・・そこまで侵攻ていたのですね。大丈夫、谷崎さんは何も心配することはないんですよ」
「そ、そんなこと、誰も・・・望んでいないんだ、よ」
「谷崎さんが望むかは聞いていません。これは、正義ですから」
これは俺のミスだ。
たとえ、それを桜田が望んでいたのだとしても、それは関係ない。そうなってしまったのは俺の行いのせいなのだから。
ただの勘違いかもしれない。
だけれど、ちょっとした違和感。桜田は作戦で退治する方針を固めていた。それなのに今叢雨を結界に閉じ込めた。
過信しすぎかもしれないけれど、桜田ならもう何度もチャンスはあったのではないかと・・・・・・
平常、いつも通り、それでいて気を抜いていない、桜田とはそういう男なのだと、これまでの戦闘での経験が言っていた。
なら、桜田が求めたものは一体・・・・・・・・・・・・
それは俺にはわからない。
「わたし、は・・・・・・私は、自分の望まない正義を受け入れるつもりはない!!」
そう、俺は叢雨に言い放つのだった。




