作戦
潰れた会社の跡地。
ここはかつて俺が桜田と輪花さんとともに戦った場所。
あの時はゲーム会社の廃ビルがあったけれど、今は更地になっていて、工事現場でよくある白い敷居に囲まれ緑色のネットでおおわれていた。
そして俺、桜田、春樹さんは、それが見えるところまで来ていた。
「それじゃあ、確認だけど、今回の作戦は」
桜田はそう改まって俺たちの方へと向き直った。
時刻は十一時。
俺が呆けていたことで作戦会議は中断していた。
と、思いきや、そもそもそんな話し合いにはなっていなかった。
ではどんな話をしていたかというと、
「なんで私たちは留守番なんですか!」
「だって、楓ちゃんは見るからに足手まといだし、あかねさんも戦えないだろう?」
「私は戦えます。だって」
「だって巫女だから、かな?」
「・・・」
「君のその力はまだまだ弱すぎるよ」
「そ、そんなことは」
「あるさ。巫女は守護の力。君が本当にその力を使いこなせていれば、君のお父さんと瑞樹ちゃんとの戦いの時、瑞樹ちゃんが苦しむこともなかった。そうだろう?」
「そ、それは・・・」
あかねは何も言い返せなかった。
「あの、私も本来表に立つような役柄ではないと思うのですが」
「春樹さんが立ってくれなかったら、なかなか渋い展開になってしまうよ」
「輪花さんを呼ぶことはできないの?」
俺の提案に桜田は首を横に振って見せた。
「残念ながら、彼女は別件でいないんだよ」
「そうなんだ・・・」
てっきり桜田と輪花さんはコンビだと思っていたのだけれど。別々に仕事をすることもあるのか。いや、そりゃああるだろうけど。何もこのタイミングでやらなくても・・・・・・
なんて本人は思っているけれど、輪花さんもまた”後始末”をしているだなんて、瑞樹本人は知る由もないのだった。
いや、ほんと、最後まで知らないことだと思うけれど・・・・・・
「わかりました。私もできる限りはやりましょう」
「そう言ってもらえてよかったよ。いや~僕も一人だと」
「何言っているんですか。桜田さんなら」
「僕は戦士にはなれないよ」
桜田は一歩引いた言い方をした。
そういえば、桜田がこんな控えめな言い方をしていることを、もう何度も聞いている気がするがそれが意味するところをあんな形で知るなんて今の俺には考え付くはずもなかった。
「私はお姉ちゃんの帰りを待ってるよ」
どこか残念そうに言う楓だったが、楓は一度リリスと直面している。あの時の光景が、自分では役に立てないと思わせている結果だろう。
兄として、姉として? 何か言ってやりたい気持ちはあるけれど、ここはあえて何も言わず、
「うん」
とだけ、楓の気持ちをまっすぐに受け取るのだった。
「それで作戦だけど・・・・・・特にないね」
「うん?」
「ないんですか??」
「ないってマジ?」
「まあ、そうでしょうね」
春樹さんだけが驚いていなかった。
桜田との付き合いの深さをなんとなく感じた。
「今回の最重要事項は瑞樹ちゃんに付いた印の解除。そしてこの解除の一番簡単な方法は相手を殺してしまうこと。ならばあとは簡単だろ?」
「つまり叢雨の殺害・・・」
「ずいぶんと物騒ね」
「ああ、君たちは知らないんだったね。これは僕の言い方がまずかった。いやいやごめん」
「??」
「彼女を殺しても殺したことにはならないよ。だって彼女はもう亡くなっているからね」
「・・・・・・あれって幽霊だったの!?」
楓が青ざめた顔でそう言った。
「幽霊というよりは、妖怪に近いかもね。彼女の持っていた刀、あれが妖刀で、それと彼女の意識が融合しているような状態なんだ。だからこそ、僕たちも手を出しづらかったというわけもあるんだよ」
「私たちもどこに現れるかもわからない相手を相手にするほど暇ではないですからね」
そう春樹さんは付け足す。
「彼女がそういう存在であることからも、戦いは必至だろうね」
「私どもがもう少し早く動けていれば、瑞樹さんを危ない目に合わせずに済んだかもしれないのですが、力及ばず申し訳ない」
「そ、そんな、助けてもらっているのに。頭を下げないでください」
「彼女、叢雨がこの世にとってあいまいな存在であることからも、彼女が接触してきた時点で瑞樹ちゃんを一人残す選択はもうない。覚悟を決めてもらうよ」
「うん・・・」
そして俺たちは軽めに昼食をとった。戦前の腹ごしらえというやつだ。
あまり会話のない食事だったけれど、これは致し方ないだろう。みんなが今をどう思っているかはわからないけれど、それぞれがそれぞれに思うところがあるのはわかっているから。
そして今に至る。
時刻は十三時。
「今回の作戦は覚えているね」
「戦って勝つ」
「うん。それと瑞樹ちゃん本当に危なくなったら、今回は魔力を使わずに身を守らなくてはいけない。それでこれを預けておくよ」
「これは・・・・・・短刀?」
叢雨が持っていたものよりも少し短いだろうかというくらいの短刀。
こんなもの持ったところで使えるとは思えないけれど。
「念には念を。だよ」
俺はそれをとりあえず貰っておくことにしたのだった。




