言い合い
時刻は十時半を回ったところ。
話は作戦へと移ろうとしていた。
けれど、俺はリリンの様子が気になっていた。
「じゃあ、作戦なんだけど――――」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「リリンどこだ~」
精神世界。自分の中にある虚ろな空間。
俺が唯一リリンと会える場所だ。
「・・・・・・」
返事が返ってこない。
見渡す限りの静寂な空間。
何もない部屋のように白い霧が立ち込めている。
その一角に黒く映る影。
「あそこか」
前と同じだ。
とても広く見えるけど、この世界は俺の精神でできている。だから測れる距離なんて存在しない。
俺は影のある方へと歩いて行く。
歩き出すと地面は透明な水面へと変わって、前の景色が晴れていく。
やがて影を隠すように立ち込めていた霧が晴れ、檻に閉じ込められたリリンの姿が目に映った。
「ねえ、リリン」
「また、来たのね」
「え、あ、ああ、うん」
リリンの服は元に戻っていて、傷も治っているように見えた。
とりあえずは安心だ。
「この檻のことなんだけど」
「封印の類ね」
「知っていたんだ?」
「まあ、それを調べることくらいの時間はあったから。でもやはりだめね」
リリンは首を横に振った。
「出られないの?」
「無理に出ようとすると何かあるってわけじゃなさそうだけど、私今魔力をうまく使えないみたいなのよ。これじゃあ、瑞樹ちゃんのお姉さんぶることもできないわ」
一体それとこれとで何の関係があるのか、俺にはわからなかったけれど、リリンなりのジョークなのだろうと、黙って温かい表情をして流すことにした。
「なによ、その顔は」
どうやら気に入らなかったようだ。
と、そんなことを今回やりに来たわけではない。
「なんで印のこと黙っていたの?」
聞きたかったことを直球で聞いた。
リリンは俺の見た景色や聞いたことを共有しているから、この聞き方で伝わるはずだ。
「だって、話したらまた危ない方向に行くでしょ?」
「黙っていたことは認めるんだ」
「事実なのだから肯定するしかないわね」
「もう少し、私を信用・・・・・・」
「私のお母さんのことでもうそれ以上に迷惑をかけているのに、これ以上迷惑を掛けたくなかったの」
「迷惑だなんて、思ったこと」
「瑞樹ちゃんはそう言う人だものね」
そう、俺をわかった風に言って、そんな悲しい顔をしないでよ。
「でも、たとえリリンが言ってくれなくても、私はそのままになんてできなかったよ」
「前も言ったけれど、どうにかしようだなんて思わないで」
リリンは強く言ってくる。
それだけ叢雨が危険な相手ということだろうか。
でも、もうすでに後には引けない状況になっていると言えた。
「でも桜田も来てくれたし・・・」
「あの人が何? 私は瑞樹ちゃん、あなたに無事でいて欲しいだけなの。今だから言ってしまうけれど、この檻は私をここから引きずり出すためのものだったわ。だから、このまま何もしなければあなたは無事でいられる。たとえ苦しんだとしても、それこそ、あの男が何とかしてくれるはずでしょ?」
リリンは必至で俺を説得しようとしているように見えた。
でも俺は――――引かない。
俺は首を横に振った。
「リリンがいなくなって無事なんて話はもうないんだよ」
「どうして? 瑞樹ちゃんにとってこれ以上ない話じゃないの。私がいなくなればリリスからも解放されて、非日常からも・・・・・・これはあなたにとって一石二鳥の話じゃないの?」
「そんな話なわけないでしょ」
「どうしてよ!」
「リリンには何度も助けられた」
「それは私が迷惑をかけて」
「たとえそうだったとしても、私は、いや、俺はリリンに恩を感じているんだ」
「恩だなんて・・・・・・そんな」
「助けられた恩を、返さないで、俺が君を・・・・・・」
「そんな恩返さなくたっていいじゃない!!」
「そんなことできるわけないだろ。だって君は生まれ変わったと知っても、俺から身体を奪わない選択をした。そんな強い選択をできた君を、俺に生きる道をくれた君を、俺が・・・・・・」
「そんな選択、私が勝手に・・・」
「そんな君を俺が見捨てられるわけないだろ!!」
固く冷たい鉄格子を挟みながら俺たちは、これまでにないほど熱烈に、激烈に言い合いをした。
俺がここまで食い下がって来るとはリリンも思っていなかったようで、最後は
「もう勝手にして!!」
と、そっぽを向いてしまった。
だけれど、その時の顔は涙に歪んでいて、何処か可愛らしい表情だった。
きっとその涙は冷たくないはずだと、俺は信じている。
「瑞樹ちゃん??」
俺はあかねに肩をゆすられて、はっと我に返った。
「だいじょうぶ??」
「え、あ、うん」
「ちゃんと聞いてた?」
桜田が確認するように聞いてくる。
「・・・・・・」
それに俺は何も答えることができなかった。
「もう、じゃあもう一度説明するよ」
そう言って桜田は再度作戦の説明を始めるのだった。




