集合
あかねが咄嗟に俺を隠すように移動した。
「あの人なんか変!」
俺は二度あったことがあるのでそう言った印象は受けないが、
「なんかオーラっていうか、漂わせている雰囲気が、私たちとは違う気がするんだよ」
俺もまじまじと女性を観察してみたけれど、結局のところ、そういうのはわからなかった。
「そちらの生徒さんとはお初でしたね。私は叢雨と言います」
「叢雨さん」
「あ~。無理に覚えていただかなくても・・・・・・苦い記憶になるでしょうから」
そう言って、叢雨と名乗った女性は懐から短刀を取り出した。
何をするつもりかはわからないけれど、今のままだとあかねが危険だ。俺は咄嗟にあかねの上を強引に引き寄せて、門の中に入った。
「谷崎さんは優しいですね。でもだいじょうぶですよ、私は谷崎さんが目的ですから」
「私に何の用ですか? 喧嘩を申し込まれるような間柄ではないと思うのですが」
俺は探りを入れた。
「喧嘩なんて滅相もない。私のこれはただの正義です」
「正義?」
「はい。正義です」
いわれのない正義を執行される覚えもないのだけれど・・・・・・
そうは言え、向かってきているからにはどうにかしないといけないわけで。
・・・・・・どうしよう
俺がこういう相手に唯一対抗できる策ってあれしかないけど、この前倒れたし・・・・・・次どうなるか・・・・・・う~~~~ん。
「何やら考え込んでいるようですが、遠慮なく」
「え、あっ・・・」
「ちょっと待っていただけますかな!」
そう横から叫んできたのは、俺が一度ぶつかったことのある男性だった。
男性は今日もスーツ姿で、格好よく帽子をかぶりながら、俺たちが行こうとしていた学校側から歩いてきている。
「あなたに止められるいわれはないと思うのですが」
「それが私にはあるんですよ」
「そんなこと、私には関係ないですよね!」
叢雨は容赦なく斬りかかった。が、それを男性も予期していたかのように簡単に避けた。
あの身のこなし、ただものじゃない感じがするが・・・・・・
「谷崎さんを渡してもらえますか」
「私も用があるので、それは勘弁してもらいたい」
叢雨さんは幾度となく斬りかかり、そのすべてを男性は避ける。
と、カウンターで拳を固く握って重い一撃を放った。それをまともに食らった叢雨は、
「う・・・」
唸り、一瞬斬りかかる動きが止まり、分が悪いと悟ったのか一度距離を取った。
なんていうのか、トーナメント方式の大会で次の相手が決まるのを観客席で見ているのってこんな感じなのだろうか。
じゃあ、この思いはあまりにも俺には荷が重い。
それもそのはず。これは正式な大会ではなく流れで生まれたもの。場合によっては相手が二人に増えることもあり得るのだから、今の俺は気が気でない。
そしてこの状況を俺にもわかるように説明して欲しい。
そんな風に思っていたら、
「やあ、瑞樹ちゃん。説明が欲しそうな顔しているけれど。それにしても本当に瑞樹ちゃんは人気者だね~」
そんなこの場に似つかわしくない雰囲気で語りかけてきたのは、逆サイドから現れた桜田だった。
桜田は二人のにらみ合いなどお構いなしに俺の元までやってくる。
そしてこう告げた。
「大丈夫。このスーツ姿の青年は僕が呼んだんだ」
「そ、そうなの?」
「いや、違うか。僕が呼ばれたが、今は正しいのかな。まあ、そんなことどっちでもいいよね」
そして桜田は叢雨に向き直って、
「説明はとりあえず後回しかな・・・・・・それにしてもあなたまでいるとは。どこで嗅ぎつけたんです?」
「何かの会社がつぶれてできた廃ビル・・・・・・だったか。ずいぶんと前のことだから」
「あ~、あそこですか。痕跡は消したはずですが」
「あれだけ大きなぶつかり合いをした残滓をすべて消すのは不可能ですよ」
「みたいですね。僕も回収屋に頼んだから安心だと思っていたんだけど・・・・・・」
「私のせいではない」
「僕は何も言ってないですよ。春樹さん」
スーツ姿の男性は春樹さんというのか・・・・・・
「というか、こっちに加勢してもらえませんか。私はこういうの専門外なので」
「僕もそうしたいのはやまやまだけど。でもそろそろ」
どこか含みを持たせるような言い方で桜田は腕時計を確認した。
「ねぇ、瑞樹ちゃん。この人たちって・・・・・・」
「ああ、えっと・・・」
説明の仕方を考えた、その瞬間、俺たちの背後にある、玄関の扉が開け放たれた。
時刻は、八時三十分。
いまからでは走っても遅刻は免れない時刻。
そして、楓の登校時刻だった。
「急がない・・・・・・と???」
「か、楓!?」
「お、おに・・・お姉ちゃん!? どうしてまだいるの。っていうか、この人たち何??」
「そ、それが、その・・・・・・」
「観客が増えましたね。ここはいったん引きましょう。とはいえ、谷崎さんの『それ』は私の手の中ですから、追いかけてくることになるでしょう」
叢雨は俺の腹を刺すように短刀の刃を向けて、そして静かに収めて懐に戻した。
「潰れた会社の跡地で、お待ちしておりますよ」
そう言って普通に歩いて消えていく、その人を誰も今追いかけるという選択を取る物はいなかった。
取り残された俺たちは、とりあえず何がどうなっているのか、ちゃんと聞くために桜田たちを家にあげることになった。
楓には後でしっかり説明するからといったのだが聞いてもらえず、あかねも残ると言い張り、なぜか桜田もその背中を押し、最後には俺が折れる形となったのだった。




