幕開け
「これが私の望んだことの結末か」
「そうだ、これは私・・・俺の勝手でただの偽善だ」
「そんな君を俺が見捨てるわけがないだろ!!」
・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
は!!!?
チリリリリリリリリリリリ・・・
枕元で軽快に目覚ましが鳴っていた。
時刻は七時過ぎ。
俺は目覚ましを止めながらに思う。
「今のは・・・・・・」
それがどこだったのか、そんなことは覚えていなかった。ただ、何かを必死に叫んでいたことしか。
季節は移り、もうすぐ冬だ。
朝はもうだいぶ肌寒く、布団から抜け出すのが億劫に感じる。
俺はもう慣れた手つきで冬服の制服に着替え、朝食を取るためリビングに向かう。
「おはよう」
「おはよう、お兄ちゃん」
リビングではすでに楓が朝食を用意してくれていて、席に着いて待ってくれていた。
「今日は早かったね~」
「こう寒くなってくると布団から出たくなくなるけど、そうも言ってられないからね」
「私が起こしに行くから寝ててもいいんだよ?」
「毎日迷惑をかける兄ではいられないよ」
「なら、姉なら遠慮することもないでしょ?」
そう、文化祭から平凡な毎日が続いていたが、平凡すぎるほどに平凡で、特に何も起きていない。
もう、ほんと、何も・・・・・・
と、いうわけで、俺はまだもとに戻れていないのだった。
それにしても、回収屋いつ来るんだろう。もう忘れられているんじゃないだろうか・・・・・・
桜田もいつになるかわからないようなことを言っていたわけだし、気長に待っていたんだけど・・・・・・季節はもう秋から冬へと移ろうとしている。さすがに心配だ。
「お姉ちゃん、最近あかねさんばっかだからね。私も妬いちゃうよ。もうほんとに焼いちゃいたくなるよ」
「丸焦げはシャレにならないからね・・・」
楓のお姉ちゃん呼びの時の発言は過激なままだ。しかもどちらかというと、俺があかねと恋人になったことで過激さが精神よりも物理に傾いた感じがある。
あまり変なことを言い出すと、冷や汗ものだ。
「たまには私のことも可愛がってくれてもいいんだよ?」
「俺がいつもあかねを可愛がっているとでも?」
「イチャイチャしてるんでしょ!」
まあ、キスはある程度するようになったし・・・・・・でもそれ以上は・・・・・・する気にはなれないでいた。
と、朝からあらぬ妄想に取りつかれるところだったと、考えるのを止めた。
「ほら、黙った。イチャイチャ反対!!」
「なら楓にも必要ないな」
俺がちょっと冷たく接すると楓はてのひらを返すかのように
「え~~~。妹に対するスキンシップは重要だよ」
自分に甘い発言をしたので、そんなことはしないという意志を込めてこう言った。
「過激すぎることはいけません」
「まあ、お姉ちゃんのことを考えると、可愛がられている方が想像つくよね。私もそうしようかな」
「いやいや、待って。どうしてそうなるの???」
「私だってお姉ちゃんとラブラブしたいもん」
「いやいや、ラブラブって何!? ハードル上がっているよ・・・」
俺は慌ててツッコんだ。
「だってイチャイチャは、もう場合によってはしているかなって思って」
「そんな風に笑っても誤魔化されないよ。そんなことしてない!」
俺は心当たりがないと首を横に振る。
「それなら起きない日に胸揉まれて起こされる姉なんていると思う?」
「うぐっ・・・」
「お風呂で髪洗いっこし合ったりすると思う??」
「それは無理やり・・・」
「普通はしないよ。姉妹に見えるけど、お兄ちゃんなんだし、普通はね」
「で、でも、断ったら起こるでしょ?」
「怒らないよ。お仕置きするだけ」
「それが怒っているの!」
「もうわがままなんだから・・・と、お姉ちゃん時間大丈夫?」
そう言われて俺が時計を見ると、長針の針が六を回ったところだった。
「やばい。したくしないと」
俺は慌てて、洗面所に駆けて行った。
洗面所で顔を洗って、冷たい水で以て眠気を吹き飛ばす。
タオルでちゃんと拭き取ったら、次に髪を丁寧に解かして寝ぐせをなくす。
しつこい寝ぐせとかはドライヤーで退治だ。あまりやると髪が痛むので奥の手扱いだけれど、今日は仕方がない。
そして忘れずに歯磨きも。これも丁寧に・・・・・・
最近は慣れてきたけど、女の子ってホント、身だしなみにこだわっているっていうか、きちんとしているというのか、手をかけている。
初めは精神的にも、時間的にもきつかった。そう思うと、人間の慣れるという習性はちょっと怖い。
最後にしっかりと口をゆすいで、俺は自室へと戻った。
自室で今日の学校へ持っていく忘れ物がないかを確認している最中に、
ピンポ~~~~ン
チャイムの音がした。
枕元にある時計で時刻を確認。
八時、十分前。
いつもあかねが迎えに来る時間だった。
俺はカバンのチャックをしっかりと閉め、カバンを持って部屋を出ていった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
楓に見送られながら、玄関を出て、門の前で待っているあかねに
「おはよう」
「おはよう」
挨拶をした。
そして学校に行こうとしたのだが、俺を、いや、俺たちをもう一人、迎えに来ていることを話しかけられてようやく理解するのだった。
「おはよう、谷崎さん。今日もお元気そうで」
あかねは驚いたように振り返った。
俺も話しかけられるまでそこに誰かがいるなんて思いもしていなかった。
「残念です」
そこにはいつもの変わらぬ様子で、この前と同じような、着物姿の女性がとても静かな空気を纏って立っていた。




