夏休み最後の一日
夏休み最終日になった。
え?
この間、後半に突入したばかりじゃないかって? いったい何があったんだって? まぁ、それはおいおい機会があればってくらいの話だ。
--いや、別に、イチャイチャしっぱなしだったから割愛したとか、そういうことじゃないからね。決して、ないんだからね!
もうすぐお昼だ。
リビングで楓と料理番組を見ている最中で、台所からは母さんが昼ごはんを作る音が聞こえてきている。
今日も日差しが強く、外は熱中症対策なしでは出られないほどの猛暑日。
こんな日は、クーラーの効いた部屋の中で過ごすに限る。
「瑞樹も楓もそろそろできるからお皿運んで頂戴」
母さんから声がかかる。
俺も楓も
「は~い」
と、返事をしてすたすたと台所へと向かう。
台所には人数分用意されたチャーハンとスープがあり、それぞれが自分の分を運んだ。
そう言えば言っていなかったかもしれないが、それぞれにそれぞれの食器があるから誰のかなんてすぐにわかる。
そしてみんなで食卓を囲んで、
「いただきます」
しっかり挨拶をする。
「瑞樹は今日のうちに制服出しておきなさいよ。それと楓は宿題終わったの?」
「・・・・・・あっ・・・そっか~」
百合の淵学園では夏休み明けから、冬服衣替え週間となり、約一か月間のチェンジ期間になる。
なぜ約一か月なのかというと、初めの一週間ちょっとは文化祭の用意とかで服装は自由なのだ。
なんというか、服が汚れるのを嫌がった生徒が多かったとかでできた制度らしいが、なんとも女子高だった名残っぽい。
「うげ~~~」
「終わってないの?」
「もうちょっと。あと読書感想文だけ残ってる」
楓の苦悶の表情を見てではないが、懐かしい気持ちになってちょっと笑ってしまう。俺も最後まで残っていたなと・・・・・・
「私は今日の夜、飛行機で旅立つからね。二人とも頑張りなさいよ」
「いきなりだね。どうしかしたの?」
楓が驚いた様子でそう聞き返すと、母さんは苦笑しながら
「お父さんが寂しいって感じで電話してきたから。私もこんなに長居するつもりじゃなかったからちょうどいいかなってことでね」
「そっか~~」
「父さんにもよろしくね」
楓は優しい表情で、記憶をよみがえらせている感じだ。
俺も当分の間、父さんとは会っていないが楓からしたら俺より幼かった分、記憶も曖昧だろう。父さんは根っからの研究者だからしょうがないけど。
「パパは元気なんだよね?」
「そうよ~」
「なら頑張ってって伝えてくれる?」
「きっとお父さん喜ぶわ~。しっかり伝えるわね」
食べ終わった時には父さんのことで盛り上がっているというよりは、どちらかというと研究の方で盛り上がっているという感じになっていた。
それもひと段落したところで片付けに入り、終わった後にはまたそれぞれがそれぞれに行動していた。
俺は自室に戻ってクローゼットの中にある段ボール箱を引っ張り出し、冬服セットをベッドの上に広げた。
冬服をだした、その段ボール箱は空になったので、テープを剥がし、しっかりと広げて一階へ持っていった。
ゴミの日になったら出そう。
「さてと・・・」
一つやる気を入れて、
「試着だ」
女の子慣れした結果だった・・・・・・
まずはいろいろいらないものを取り外して・・・・・・
サイズ表やら内容物の紙も移して・・・・・・
いらないものはゴミ箱に、内容物の紙は机の上に置いた。
そして試着。
どうして試着するのかっていうのは、お忘れかもしれないが、これを送ってきたのは桜田だ。俺が頼んだものでない以上確認は必須だ。
今着ていた服を逆にベッドに畳んで置き、制服に袖を通す。
「やっぱり怖いな・・・」
冬服もサイズばっちりだった。
長袖になった桜色のYシャツと夏服より丈の延びた紺色のスカート。あとは薄茶色のカーディガンを羽織るスタイルで、リボンは夏とかわらず紺色だ。
なんとなく決めポーズをとってみてなかなか美少女だなんて思ったりして、何をやっているんだと恥ずかしくなったのをきっかけに着替え直す。
脱いだ制服はハンガーにかけてクローゼットへ。
まだ充分熱いので夏服でいいだろう。
そして気づけば夜。
夕食を終え、お風呂を済ませ、ベッドに倒れこんで、明日から学校かと夏休みのあれこれをふり返って、いろいろ堪能したと満足に思う。
きっと今だからこう過ごしたんだろうと・・・・・・
今の姿も捨てたものではないとちょっと思ってしまった。
「全部用意したな?」
俺は視線だけで机の上に置忘れがないかを確認した。
久しぶりにしっかり朝から起きなくてはならないから今日は早めに寝よう。
ーーデジャヴだった。
まあ、さすがに戻ったら戻ったでラッキーだし、問題ないよな?
なんかちょっと怖くなったので、何か飲んで気分転換してから寝ようと一階へと向かう。
すると、ちょうど母さんが家を出るところで見送りができてよかったと、
「いってらっしゃい。気を付けてね」
と、言葉を贈る。
「行ってくるわ」
母さんはスーツケースを片手に出ていった。
図らずも気分転換できた俺は、何も飲むことなく自室に戻り、床に就いた。
この章は、一応ここまでです。




