ちょっと大人に
「ねぇ、瑞樹ちゃん」
ベッドに倒れこんだ状態からいち早く起き上がり、体勢を立て直したあかねは今俺の上にまたがるように顔を覗き込んでいた。
――――今日は何も起こしてないはずなんだけれど。
この状態を俺は知っているはずだった。しかし、今までとは少し違う。
あかねの顔からは高揚しているのだと窺えるが、息は荒くない。
「あかねって・・・・・・」
その言葉の先は言えなかった。
あかねが鼻先が触れるくらいまで顔を近づけてきたから。
「私も瑞樹ちゃん以外にはこんなことしないよ」
「それって!?」
俺はあかねの目をまっすぐに見る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺が落ち着くのを待つような沈黙の後。
「好きってこと!!」
あかねはまっすぐ目をそらさず、そして満面の笑みを携えてそう言った。
大きな瞳を細め、歯を見せるように笑ったその顔はどこか男勝りな女の子を思わせる。
その顔はたぶん一生忘れられないだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・俺も・・・すき」
俺の脳にその言葉が届くまで、届いてから処理が完了するまで、数刻か過ぎてしまったのではないかと思うほどの永い沈黙。
やっと俺の中でその処理が完了したかと思うと、俺は事態を飲み込んでフリーズ。
前にも言われた気がしたが、今はその言葉の重みを真に受け止めた感じがし、俺の中に溶けだしている。
返しの言葉はたぶん本心から出た言葉。
思わず猫かぶりも解けてしまった。
「そっか。うれし」
あかねは耳まで真っ赤になって、先ほどと同じ笑みでそう言った。
俺は思わず、自分から出た言葉に動揺するよう口元を手の甲で隠した。
言った言われたの二人がこのままではまずいと思ったのか、目をそらしあった。目線が会うと先ほどのシーンが思い返されるから。
「ねぇ・・・キスしてもいい?」
目を逸らしたまま言うあかねは今までしたことはないですと白状するかのような可愛さがあった。何度かしたことあるはずなのに・・・・・・
「いい・・・けどっ」
押し倒されたような体勢で下になっている俺には逃げ場はない。
また鼻先が触れるくらいまで近づいたあかねは自分の手で俺の顔を正面に向け直して、
「ん・・・・・・・」
キスをする。
甘いキス。
キスを甘く感じるのは相性がいいのだと言われたりするけれど。
病みつきになってしまいそう。
「ふう・・・・・」
息を吸い直すために一度口を離す。
そしてまた・・・・・・・
「んっ・・・・あ・・・・・・ふうっ」
唇を舌先でつついて中に入れたいと促すあかね。
それに応じるように口が少し開く。
その隙に舌が入ってくる。
「あ・・・・・・ん・・・・・」
互いが互いを求めるように手をいつの間にか恋人繋ぎにしている。
そんなことどうでもいいとさえ感じる、この時間はあっという間でもなく永遠でもない。
身体がどうしようもなく熱い。自分が熱いのか、あかねも熱くなっているのかわからない。
考えても考えきれない。思考がかすんでいく。
「ん、ん~~~・・・・・・・」
ちょっと息が苦しくなって唸ってみる。
それでもキスは続いた。
ベッドの上でもぞもぞやっていたから髪は乱れているし、その上で手を繋いでいる。
酸欠なのか、身体にはうまく力が入らず、目には涙が浮かんでいるような気さえする。
「ふうん・・・・・・・・・」
きっと振りほどこうと思えば、それはできるのだ。
でもできない。
「ん・・・んん、ま、だ・・・・・・・」
片方の手が解かれあかねのてが俺の身体の下へと向かって、本能が首を横に振らせる。
「そうだね」
俺の思いを感じるようにあかねが言って手の動きが止まる。
「キスって・・・・・・すごい!!!」
ない頭がさらになくなったように考えが廻らない俺はあかねの表情だけを覚えていた。
どこか甘美に震えていて、高揚した顔。口角は緩く上がり、その瞳には恐悦な光が垣間見えた気がする。
「ああ・・・」
再度キスが行われ、逃がさないとばかりに手を顔にそえられる。
ちょっと大人なキス。
脳に直接刺激が来るような感じには危機感すら覚え、そして甘美さに熔かされていく。
それから・・・・・・・・・・・・
時を忘れてやっていた行為も、徐々に波が引くみたいに満ち足りていった。
お互いにキスをし疲れただけかもしれない。
そうなれば、それだけしていたわけだが・・・・・・
――――知力が低下し、体力を削られ、感度が上がった。
「しちゃったね」
「そうだね・・・」
半ばやけくその返し。疲れて頭が回っていない。
「ちょっと休んでから・・・・・・帰る」
俺の言い方にちょっと笑ってから、
「その言い方だと不貞腐れたみたい」
「そんなこと」
「うそうそ」
ちょっと緩い会話。
その会話をいくらか続けて、たぶん今日はどちらも満腹になった。今日はそれで十分になってしまった。




