答案返却
青天霹靂。
今日は北風の影響で夏なのにちょっと涼しい。
雲一つない快晴なのに午後からは雨予報だ。朝の天気予報でアナウンサーの女性がそう話していた。
どうやら積乱雲が発生して豪雨になる可能性があるようだ。
と、いつにもなく天気を気にしているのには理由があった。
俺は昨日、熱を出して学校を休んでしまった。
その俺が今日になったら完全復活している。
そしてこれも今日の朝聞いた話。
「昨日学校に休みの連絡入れた時に、東雲先生に言われたんだけど、体調が良くなったら答案取りに来なさいって」
「ん~、わかった」
と、母さんから言われたわけだ。
そういうことで、今俺は終業式も終わった学校へと行くために百合の淵学園の制服に袖を通していた。
筆箱以外何も入っていないカバンを持ち、
「ちょっと行ってくるね」
と、言いながら革靴を履く。
「行ってらっしゃい」
と、楓が見送りに出てきてくれたのを後目に家を出た。
あの桜並木の道も今では緑が生い茂っている。
木陰が日の光をキラキラと強調するかのように朝日がまぶしい。
初めて来たときは風紀委員の検査でちょっと焦ったけれど、今ではなんというか、慣れてしまった。
別に女に慣れたという意味ではないけれど、これが普通になっていくのはちょっと怖い。
俺が桜並木を一人で悠々と歩いていると、校庭の方から部活動をしている人の声が聞こえる。
俺は遅れて入学したようなものだから部活動に入っていなかった。
とはいえ入る気もないんだけど・・・・・・
「さっさと済ませて帰ろう」
俺はひとりでに呟きながら校舎に入っていった。
職員室を訪ねて、東雲夏凛先生を探す。
先生はちょっと驚いた様子で、
「早かったな」
そう悪びれることもなく言った。
言われて思ったけど、ここでは俺は病弱体質になっているのだった。
「そんなにひどくなかったので」
嘘である。
高熱を出しておいてひどくないということはない。
「まあ、テスト期間にコケなくてよかったよ」
「はい・・・それで、あの」
「ああ、答案か。ちょっと待っててくれ」
そう言って先生は自分のデスクに戻って茶色い封筒を持ってきた。
「これに全部入れておいたから」
「ありがとうございます」
「勉強頑張ったのか?」
「え、どうして?・・・・・・ですか」
先生からの意外な質問に驚いて敬語を忘れるところだった。危ない危ない・・・・・・
「初めのころは休んでいただろう。だからもう少しできないと思っていたんだが。とはいえ、クラス平均よりちょい上なだけだ。慢心はするなよ」
「はい」
「なら、もう帰れ。私は忙しいんだ」
先生はしっしと追い払うような手つきで俺を職員室の外に出した。
「失礼します」
俺は答案をカバンにしまって、そそくさと下駄箱に向かった。
下駄箱までの道。
誰もいない校舎。
のはずだったのだけれど、ちょっとした因果か、風紀委員の先輩とすれ違った。
俺はそのまま通り過ぎようとしたのだけれど、これもデジャブ。
後ろから声を掛けられた。
「あなたは確か・・・・・・」
「・・・・・・なにか?」
「あ、いえ、ちょっと人を探していて。ごめんなさい」
「人探しですか?」
聞くだけ聞くけど、手伝う気はなかった。
「はい。あ、でも、今校内にいる人を探しているわけではないので」
「そうなんですか・・・」
手伝う気もないし、そろそろ帰りたいな~と思いつつ、話を打ち切る口実を探す。
別に早く帰ったからってやることもないんだけれど。
いや、あった・・・・宿題という山が、そこにはあった・・・・・・
「ちょっと文化祭で困ったことがあっただけなので、あまり気にしないでください」
「わかりました」
「そうはいっても、いずれ声をおかけするかもしれませんが」
「はあ・・・・・・・」
ちょっと話を濁されて何もわからなかった。
気にして欲しくないのか、気にしておいて欲しいのか、よくわからない・・・・・・
ということで、忘れよ・・・
「ではまた。よい夏休みを」
先輩は去っていった。
その後ろ姿を見送りながら俺も下駄箱までの道のりを再度歩み始めた。
帰り道。
これまた偶然ばったり。
校門を出たところで昨日盆踊りで声をかけてきた着物姿の女性と遭遇。
その女性は今日も着物姿だった。
「あらあなたはこの間の・・・」
「谷崎と言います」
「私も自己紹介していなかったわね。私は・・・・・・私は、叢雨と言います」
「叢雨さんはここで何を?」
俺は率直な疑問を口にする。
「この学園は私の母校なんですけどね。とても広いじゃない。だからこの周りを一周するのがいい運動になるんですよ。だから今日も日課でね」
「なるほど。そうだったんですね」
「谷崎さんはここの生徒だったんですね。どうりで可愛いわけだ」
「そんな・・・」
と、俺がいやいやと手を振ると、「謙遜しなくていいんですよ」と、言われてしまった。
「あ、引き留めてごめんなさいね」
「いえ、こちらこそ。何かの縁ですから」
「それじゃあ、また」
「頑張ってください」
叢雨さんは一礼して手を振って歩いて行った。
そして俺もやっとこ帰路に着けるのだった。




