盆踊り 前編
七月二十一日。
日曜日。
最近根を詰めすぎていた・・・わけではないだろうが俺は目覚ましで起きることができなかった。
幾百と繰り返してきた慣れた手つきで枕元の目覚ましを止める。
そんな俺の行動を覗き見ていた楓は部屋のドアを静かに開けた。
「お兄ちゃん朝だよ~」
「・・・・・・」
ベッド横で楓の元気な声がしたが、もう少し寝ていたい俺はそれを無視した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「お姉ちゃん朝だよ~」
「・・・・・・」
俺が起きるそぶりを見せないことで、呼び方を間違ったかなと言わんばかりに呼び方を変えて再度元気な声でモーニングコール。
「よいしょっと・・・」
それでも起きない俺に楓は上に乗ってきて、
「えいっ・・・」
「・・・・・・!?」
俺の両の胸を鷲掴みにしてきた。
「ちょ、なに!?」
「いや~、お姉ちゃんの私より大きな膨らみの主張にあらがえなくて」
えへへと笑いながら言う楓に、俺はそんな可愛く言ってもダメというように、
「俺の胸はそんな主張をしてはいない」
「してたよ~」
にぎにぎと手を動かしながら言ってくる楓を俺は半ば強引に下ろしながら起き上がる。
「とりあえず、着替えるから。出てけ」
「は~い」
楓が出て行ったのを確認して俺は着替え始めた。
服を脱いで、下着を脱いで、
「はあ~」
一つため息。
こういうのを豊満とでもいうのだろうか。
確かに気持ちいいけれども・・・・・・・
俺はブラを付けつつ感触を確かめた。
これがあるうちは、下を確かめるまでもない。変化なしだ。
「今日は・・・・・あ~、ジャージ買ってこないとな~」
俺は自分の服をみつつ思った。
学校のだから早くしないと困るという思いで、またため息。
「はあ~」
それにしても少し大きくなっていないか?
・・・・・・ふっふっふ、それはね、お姉さんが教えてあげよう
・・・・・・何か知っているのか?
・・・・・・何を隠そう、私の努力のたまものよ!
・・・・・・つまりリリンのせいなんだな
・・・・・・あ、いや、私のせいっていうか、魔力を蓄えておくところがそこしかなくて、だから・・・・
・・・・・・はあ。それは仕方がないか。
少し湧き上がっていた怒りがふっと冷めるのを感じ、同時に魔力ということはなくなって言うと胸もなくなっていくのかと思うとちょっとしたホラーだと思ってぞっとした。
そうこうしているうちに服を着終わって、髪をさっと熔かして部屋を出ていく。
「おはよう」
「今日はお寝坊だったのね」
「お姉ちゃん遅いよ~」
先に食べていた楓と母さんに出迎えられ、俺も席に着いて朝食をいただく。
「楓、最近言っていなかったが俺はお兄ちゃんだ」
「え~~、でも、今はお姉ちゃんでしょ」
「見た目はそうでも心はお兄ちゃんのままなの」
「もうわかったよ、お兄ちゃん」
「よろしい」
朝の何気ない会話をしているうちに楓が何かを思い出したかのように、
「あ、そうだ。お兄ちゃん、今日近くの公園で盆踊りなんだけど一緒に行こうよ」
「ん、別にいいけど」
「やった~」
楓は満面の笑みだ。何がそんなにうれしいのかさっぱりわからないけれど、特に予定もないし俺としては問題ない。
盆踊り自体にはさほど興味をそそられないけれど楓に付き合ってあげよう。
「じゃあ、ママ浴衣お願いね」
「任せて頂戴。瑞樹の分もちゃんとあるからね」
「なんで俺まで?」
「せっかくだし着ていきなさい」
なるほど。グルだったな・・・・・・
まんまと罠にはまってしまったようだけれど仕方ない。もうそんなことで狼狽える俺ではない。
「しょうがないな~」
「お兄ちゃんとお揃だ~」
それからしばらく楓の興奮状態は続き、静まる頃には太陽は真上を回っていた。
盆踊りの時間までは各自それぞれに過ごし、四時になって俺は自室から呼び出されるのだった。




