盆踊り 中編
一階に降りてきた俺に、どう、似合っている? と言わんばかりの興奮気味の表情を携えた楓が待ち構えていた。
そんな楓を見て、とりあえず俺はこう言っておいた。
「しっかり着こなしているな」
少しというか完全に上から目線でものを言った俺に、
「もうひどい!」
と、楓は頬を膨らました。
「悪かった。似合っているよ」
「ありがとう」
待っていましたというように満面の笑顔になって楓は礼を言った。
「ほら、早くこっちきて」
母さんに呼ばれた先には、テーブルの上に広げられた朝顔の模様の入った浴衣と髪留めや財布やスマホを入れておくための巾着袋が用意されていた。
「服脱いで」
俺は言われるままに服を上下ともに脱いで下着姿になり、導かれるように浴衣に袖を通した。
髪も上に持ち上げるように留めてもらった。
「楓のピンクも素敵だけど、瑞樹の紺色もいいわ」
そんな誰にと言わんばかりの解説のコメントを母さんからいただいて着替えは終了した。
楓とは色違いかとも思ったがよくよく見ると楓の浴衣模様は夕顔の様だったので姉妹セットなどというやつだろうか・・・・・・
「もうお兄ちゃんのエッチ。そんなに見たいなら存分にみていいんだぞ~」
「もう、何言っているんだ。俺が見ているのは服であって楓じゃない」
何も間違ったことをいっていないはずなのに、どうしてか楓は怪訝な顔立ちになって、
「お兄ちゃんって服フェチだったの?」
「服フェチってなんだよ。そんなマニアックな趣味は持ってないよ」
「いや~、タイツじゃないとダメとかスカート履いてないと恋愛対象にならないとかいう・・・」
思わずどんな変態だよってツッコミそうになったが、のどのところまで出かかった言葉を飲み込んで、
「どんな変態だよ」
やっぱり吐き出してしまった。
「まあ、お兄ちゃんがそんな程度の低い変態じゃないことくらい私は知っているんだけどさ」
どこかのお嬢様キャラを匂わせるような冷たい眼差しでいう楓。
そんなキャラでしたっけと言いそうになったのを今回は本当に思いとどまった。
今までの経験上、楓の機嫌を損ねるとお姉ちゃん呼びになるのと同時にスキンシップも過剰になる傾向があることは把握済みだ。
これから外に行くわけだしあらぬ誤解を生まないためにここは機嫌の良いままに出発したかった。
が、結局外に行くわけだからお姉ちゃん呼びにはなることに俺は後々気づくのだった。
「じゃあ、用意もできたことだしそろそろ行こうか、お兄ちゃん!」
「そうだね」
そして玄関に向かって行く俺たちに、
「二人とも気を付けてね」
と、母さんは母親らしいことを言った。
「うん」
「わかっている」
俺たちはそう答えて、盆踊りへと出かけて行った。
盆踊り会場の公園へと着いた俺たち。
公園の中心にはやぐらが組まれていて、その上で太鼓を力強くたたく男ども。その太鼓と音楽の音色に合わせて踊る人の輪がやぐらを囲んでいる。
公園の外枠には屋台がずらりと立ち並んでいて、いたるところに人の列ができていた。
その一角が休憩所と案内所を兼ねていて係の人が待機している。
俺たちはまずは屋台から見て回ろうということで近場から順に回っていくことにした。
「お、お好み焼きあるぞ、食べるか?」
「お姉ちゃん、もっと行儀良くね。それはそれとして、食べる!」
「はい。気をつけます」
盆踊りなんて興味ないとは言っていたけれどやはりこういう場所に来てしまうとテンションが上がってしまう。
思わずしゃべり方も素に戻っていた。
楓は並び始め、俺も並ぼうと思ったのだが、
「俺焼きそばの方並んでくるよ。楓も食べるでしょ」
「うん、行ってらっしゃい」
そして俺たちは別々に並び始めた。
それからちょっとして、
「あの、ここは焼きそばの列でしょうか?」
と、後ろから唐突に声を掛けられた。
「え、あ、そうだと思います」
「そう、よかった」
声をかけてきたのは、何処か生を感じない雰囲気のある女性で浴衣ではなく着物姿だった。雰囲気のせいか、少し老けて見えるがそれを差し引いても三十歳はいっていると思った。
その視線を不審がってか、女性は
「あの、何か?」
「あ、いえ、すみません。着物姿だったのでちょっと気になって」
「ああ、これは普段着なんです。今時珍しいですよね」
「そうでしたか・・・」
「こういう場所ですからあなたのように浴衣の方がいいのでしょうけれど、なんだか性に合わないというか落ち着かなくて」
「ああ、なんとなくわかります。まあ、私は何着ててもいいと思いますよ」
「ありがとう」
そんな感じでちょっとしゃべっていたら注文の番が回ってきて、俺は屋台のおじさんにやきそば二つを注文した。
やきそばは凄い手際で出来上がって、お勘定を済ませてやきそば二つを受け取り、後ろの女性に会釈をして楓の並ぶお好み焼きの屋台の方へと向かった。
丁度楓も買い終わったところで、俺たちは近場の腰を下ろせるところでお好み焼きと焼きそばを食べ始めた。
「お姉ちゃん、これおいしいね」
「そうだね」
「こういった雰囲気の中で食べるとなおのことだね」
夕食の時間帯であったことも幸いして食の進みは速く、俺たちはあっという間に完食してしまった。
そして再度屋台を見て回るのだった。




