第二フェーズ 中編
張り詰めていた空気感が和らいだところで輪花さんは桜田に尋ねる。
「とはいえ、私じゃ届かないところにいるみたいだが、桜田の支援があれど押し返すにはまだ足りないぞ」
「そうですね。・・・・・・しかし、他の方法はまだ使えないですし、もう少し頑張ってください」
「わかった。それじゃ、もう少し頑張りますか」
そう言って輪花さんはまた拳を打ち込む。
リリスの意識は感覚的にずらされているため、圧縮空気で防御されることはなくなった。
されど、攻撃が効きはじめたわけではない。
まだ、リリスには魔力障壁がある。
「それにしても動きが単調ですよ。それにこれにも少し飽きてきました」
リリスは持っていた杖をトンと一回床に打ち付けた。
そしたら桜田が床に貼ったお札が焼き切れてしまった。
「あはは、参ったね。僕は、それほど腕の立つ方ではないからね。こう簡単に破られると心に来るものがあるよ・・・・・・」
「それは申し訳ないことをしましたね。ですが、私も時間にゆとりはないので」
「そうだったね」
二人の間では話が通じ合っているようだけど俺にはさっぱりだったので、どういうことだろうという質問をすると、桜田は快く答えてくれる。
本当に争っている状況なのか疑うほどに。
「今彼女はこちら側に立ってはいるがあちら側の住人であることに変わりはない。ここは一時的に聖杯によって特異点として繋がりを持つ門を開けているが、そう長くはもたない。これは彼女、リリスの力が弱いわけではなく、世界があるべき姿に戻ろうとする、因果によるものだ」
「つまり??」
「僕もリリスも短期決戦を望んでいるということだね」
戦いが長引くのは良くないのはわかったけど、ならばなぜ桜田も短期決戦を望んでいるのだろうか。
長引かせればこちらが有利・・・・・・いや、力ではリリスに勝てないということか。
俺ははっとそのことに気づく。
しかし、俺のことを狙っているリリスはどうしてそこまでして・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そう考えた時、俺の意識はあっという間に乗っ取られた。
いや、割り込まれた。
俺の中にいるリリスに。
そして俺はリリスと向き合っている。精神のはざまで。
どうやら、もう俺に拒否権はないようだ。
「ごめんなさい」
リリスは頭を下げた。
「どうして、いきなり?」
「私はリリスではないんです」
・・・・予想外の返答。
俺のどうしては、こんな時にどうしていきなり意識を乗っ取ってきたのかというものだったのだが、リリス、いや彼女は何か別のことと勘違いしたようだ。
「私の名前はリリン。リリスは私の母なのです」
「つまり、どういうこと?」
「つまり、瑞樹ちゃん。あなたは私の生まれ変わりということ」
「なるほどね。だから、娘って呼ばれてたわけか・・・」
ようやく合点がいった。
しかし、だとすると、リリンはもう・・・・・・・
「それで、リリンがこのタイミングできたのには理由があるんでしょ。いつも助けてもらっていたからね。そのくらいはわかるようになったよ」
なるべくとがらないように、笑顔で話す。
楓に言われたちょっとした処世術の一つ。
「今の状況は私のせい。そして母のせいです。もうお気づきだと思うけど現実の私はもう死んでいます。しかし母はそれを受け入れられなかった」
「それで生まれ変わりの私を手に入れようとしたわけか」
「違うの」
リリンは首を横に振り、続ける。
「母は死んだ私の身体に刻印を刻み、生まれ変わった私の魂で再度、私が目を覚ますようにした。通常、新しい魂で生まれ変わるところを刻印の刻まれた私の魂は、私を残したまま生まれ変わった。でも、私は・・・・・・瑞樹ちゃんを乗っ取ることをしなかった」
「それをリリスはさせようと?」
「わからない。魔力を供給しているところを思うに、まだ私が完全覚醒している状態ではないと思っているのだとは思うのだけど・・・・・」
「リリンは私の身体を奪うつもりがあるの?」
「ないわ」
リリンは即答した。
「私は一度終わった。確かにやり切れない終わり方はしたけれど、再度歩み始める気はないの。今は瑞樹ちゃんの中でゆったりしていたいわ」
「それで、話したいのはそれだけじゃないでしょ」
もう確信があった。
俺は二度、リリンに助けられているのだ。
このタイミングで呼んだからには何か策がある、そう思わずにはいられない。
「そうね。さすが瑞樹ちゃん。私のこと少しわかってきたじゃない」
「こういう時、もう二度も助けてもらったからね」
リリンの口元が緩んだ。いつもの調子に戻ってきたようだ。
「今回は、正直私の気持ちを伝えてもらうことをお勧めしたい。でも・・・」
「それを信じてくれなかったら?」
俺がリリンの言わんとすることを先回りして言う。
リリンは少し驚いた顔をしたけれど、すぐに元に戻って続ける。
「その時は・・・・・私が協力してあげる」
「それは、心強いね」
そして俺は静かに手を差し出し、握手を求める。
今回は共闘する仲間として、その気持ちを確かめるように。
リリンもゆっくりと、そして力強く俺の手を握った。
「それじゃあ、行きましょうか」
「行こう!」




