聖杯 前編
俺が楓の焦燥をどうにかしようと考えている、そんなとき訪問者をつげる鐘の音がなった。
こんな時に誰だろうと俺と楓はモニターの前にやってくる。
「誰この人? お姉ちゃんの知り合い?」
楓は少々ご立腹の様だ。
「桜田と輪花さん? どうしてここに・・・・・・」
俺はモニターに映し出された二人の顔を見て、考えを巡らせる。
今の状況を考えれば、登場してもおかしくないと言えばそれまでだが・・・・・・・
そう言えば、桜田はこんな状況を予感していたのだろうか。
だとすると、手紙の匂わせぶりなフラグ回収、と言ったところだろうか・・・・・・・・
「お姉ちゃん、知っている人なら応対お願いね」
「わかった」
俺もそれが適任だと素直に応じる。
それから俺は玄関に向かって、閉まっていた鍵を開け、ドアを開ける。
俺の姿を視認した桜田は、来ちゃったとでもいうように手を振っていた。
思わず殴り飛ばしたくなるような笑顔で。
「桜田に輪花さんも、どうしたんですか?」
「いや~、僕はそろそろ頃合だと思ってね。状況的には申し分ないだろう?」
「わかりやすく言うと、手に負えなくなっている頃だろうということですよ」
「まあ、手には負えてないですけど、今は特別何かあったわけでは・・・・・・・」
そんな俺の言葉を遮るように、桜田は言う。
「瑞樹ちゃん。時間が遅れるって言うのはね。もう、特別で良いんだよ。それとも、ニ、三度危ない状況を経験しただけで慣れたとでもいうのかな」
「そんなの慣れられるわけないだろ。でも、それと比べると安全っていうか、普通」
「同じ場所にいて同じ時間を味わえないのは、それはもう普通じゃないよ」
そして桜田と輪花さんは門から入ってきて、俺の目の前までやってくる。
「それは、破滅への一歩手前だ」
桜田はキメ顔でそういった。
「とりあえず、上がってもいいかな」
「えっ・・・・・・」
「今がどんな状況か説明したいんだけれど、立ち話もなんだろ」
「瑞樹さん、私たちはあなたを助けに来たんです。安心してください」
「・・・・じゃあ、どうぞ」
俺は渋々、承諾した。
俺は二人をリビングに案内して、とりあえずテーブルに座ってもらう。
桜田と輪花さんには並んで座ってもらい、二人のことを楓と母さんに紹介した。
と、その前に、母さんの時の流れを俺たちと揃えてもらった。
桜田が言うには俺たちが早く動いていて、母さんは元のままなんだそうだ。
それを一時的に早くするらしい・・・・・・・
方法は身体に負荷をかけないようにするために、俺が母さんを一度動かすというもの。
一緒に動かすことで、そこには共有が生まれるのだとか・・・・・・・
俺には難しい話だったので、そこは深くは語らないでおこう。
そして桜田は今の状況を説明するのだった。
「今、この場は非常に時空が不安定にあります。そのため僕らが来たわけです」
「で、あなた方二人は何者なのですか」
母さんは聞く。すごく冷静そうな顔をして。
「僕たちは、こういうことを片付ける専門家だとお考えいただければと思います」
・・・・・桜田がしっかり話しているとなぜだか違和感を感じてしまう。
おっと失礼が過ぎる・・・・・・・・
「母さん、大丈夫。一度二人には助けてもらったことがあるから」
「でも、お姉ちゃん。この人たち信用するには少し足りないんじゃないかな」
「楓さんの言うこともごもっともですね。では、どうしますか、桜田」
「では、今朝お母さまが運び込んだ代物について話すことにしましょう」
「待って、どうしてあなたたちがそれを知っているの?」
母さんは焦ったように早口に言う。
「運び込んだってこれ?」
楓はそのまま置きっぱなしになっていた器を指し示す。
「楓、あまり近づかない方が・・・・・・」
俺はあんなことがあったあまり楓を心配する。
「でもあの後何も起きてないし」
「もう、それは起動しないから大丈夫だよ、瑞樹ちゃん。でもまだ役目も残っているから壊さないでね」
「????」
楓ははてな顔で桜田を見つめている、というか睨んでいる?
「それで、これなんですが、これは聖杯と言われています。まあ、本物ではないですが」
「聖杯・・・・・ですか?」
「はい。私たちはそう考えています。これに与えられた役目、というのか宿命とでもいうのか、それを鑑みてそう呼称するのが妥当だと」
「僕は最初に、この場の時空が不安定だと申し上げましたが、時間の流れを狂わせたのが・・・・・今は瑞樹ちゃんの中にあるものですね。そして空間を揺らがしているのが、この聖杯になります」
「つまり、この聖杯はもうすぐ特異点になろうとしているというわけです」
「その、特異点ってなに?」
俺は輪花さんに聞き返し、桜田が答えた。
「他の場所から見つけるための目印と言ったところかな」
「目印をつけたということは何か目的があるということですか?」
「あちら側がこちら側に求めるのは・・・・・・」
そこまで言って桜田は俺の方をみた。
「そう。やはり瑞樹でしたか・・・・・・・」
「気づいていましたか」
桜田は驚いたような表情をする。
輪花さんが大丈夫だろうかと俺のことを窺っていたので笑顔を返しておいた。
「私も少しばかりではありますが、そう言った知識はありますゆえ、そうではないかと。聖杯のことも今朝の出来事でやっと見当がついたところでしたが、もう時間がないということですね」
「はい。だから僕たちが来た、というわけですよ。その時間を作りに」
「わかりました。あなたたちを信用しましょう」
母さんは決断を下した。
「ママ。どうして?」
その決断に納得がいかない楓は母さんに聞き返す。
「楓、大丈夫。桜田さんたちは間違ったことは言っていないわ。今は一度信用してみましょう」
「・・・・・・うん」
楓も渋々納得したようだ。
楓からすればよくわからない状況に、さらによくわからない人たちがやってきた感覚なのだろう。
その心境は、俺も経験があるからよくわかる。
だから後で慰めておこう・・・・・・・
聖杯の話、というかどういったものかという話はまだ続く予定であります。悪しからず・・・・・( 一一)




