聖杯 後編
「とりあえず相手の狙いは君だ、瑞樹ちゃん」
桜田は俺の目を見てそう言った。
・・・・・・だから、どうしろと、と思ってしまったのは俺でなくても仕方がないという話ではないだろうか。
・・・・・・自分を守るのは、自分。
そんなことを読み上げた記憶が脳裏をよぎる。
だから俺はこう答える。
「私に何とかできるのことなの?」
「相手は、あのリリスだ。この前とは違うけれど、これは瑞樹ちゃんにしかできないと僕は思っているよ」
「桜田がそういうなら頑張るよ・・・・・・」
「じゃあ、先にこれを一枚渡しておくよ」
そう言って桜田はお得意のお札を手渡してきた。
「なにこれ??」
「魔力反転のお札って言うんだけど、たぶん使うことになるからね」
「ふ~ん・・・・・・・」
俺は未来予測なんてできるほど考えが及ばないから、だから一応貰っておく。
使うというなら使うのだろう・・・・・・
「それで瑞樹ちゃん、聖杯の聖水、飲んだんだろう? どんな感じ?」
「あれ水だったの? 赤かったけど」
「正確には水ではないよ。聖杯の飲み物って言ったら半身を宿した魔水と言うところだろう。で、どんな感じなの?」
もう一度聞かれて、俺は身体の感覚に意識を向ける。
「ちょっと熱っぽいかな」
「その程度ならもう落ち着いたと思っていいね。でも・・・」
桜田は俺の肩に手をポンと置いて、
「残念ながらまだまだ先は長そうだね」
と言った。
「それで、この聖杯だけれど、これを起点に時空がゆがんでいる。僕たちは早く動いているって言ったけれど、過去からこの速さで動いていたらどうなると思う」
「どうなるって?」
「元の世界に過去から追いつくことができるわけだ。僕たちは早く動いているけれども僕たちはそれを操っているわけではないんだ。だから、まあ、そろそろ追いついてくる頃だろう」
「そろそろリリスが来るのか」
輪花さんが臨戦態勢の構えを取る。
「まだですよ」
「まだなのか?」
少ししょんぼりして輪花さんは体勢をもどした。
「私からしたらそのリリスっていう人が来て、お兄ちゃんをどうするのって話なんですけど」
楓が喧嘩腰で言った。
「まあ、連れていこうとするかな」
「なんで!?」
「それは、まあ大事な人だからだろうね」
「そんな昔の人とお兄ちゃんにどんな関係があるって言うの?」
「それを話していいかは僕には判断付かないな。瑞樹ちゃんは話してほしいかい?」
俺は少し考えてから、
「・・・・・・いや、今は聞かないでおくよ」
そう言った。
「なんで? 自分のことでしょ、気にならないの?」
「気になるけど・・・・・」
俺の返事は煮え切らないで終わる。
なんて言ったら伝わるだろうか。
俺の身体に流れる魔力がざわついたから、と言っても楓にはわからない。
俺のことだけど、俺のことじゃないなんて言ったらなおのことわからないだろう。
だから、俺は、こう答える。
「聞く相手は桜田じゃないと思うから」
楓は未だ納得がいっていないようだけど。
そんな楓を置いていくように、桜田は話を切り上げる。
「わかった。僕もこのことは言わないよ」
そう言って、桜田は俺のことを成長したねとでもいうように温かく見てくるので、俺は何とも鳥肌が張ってしまった。
「わかったよ。もう・・・」
楓は怒ってしまったけれど、一件落着だろうか。
・・・・・まだ何も解決してはいないんだけどね・・・
「と、そろそろかな。時間が戻りつつあるみたいだね」
「と言うことはやっと私の出番だな」
「がんばってください」
「はい、言われずとも」
まだ話足りないこと、聞いていないことはあったけれど、時間が来てしまったみたい。
あのことは合間にでも聞いておこう。
聖杯って何に使うのかってことはね・・・・・・




