夢の中
遠くで声がした。
女性の声だろうか。
少しばかり張り上げたような声でちょっと早口。
・・・・・・・・パン
「・・・!イタイ」
「やっと起きた。いや違うか」
俺はヒリヒリする頬っぺたを抑えながら飛び起きた。
「お前は」
「もうお姉ちゃんのこと忘れちゃったの?」
「いや、覚えてるよ」
そう、俺の目の前にいたのはリリスだった。
「ということは」
「そう、夢の世界。あなたの世界ね」
「で。今回はどういうことなんだ」
こう聞いたのには確信があったからだ。こんなことリリス以外できないという。あとは、なんだかんだで長引くことを避けたかったからかもしれない。
そんな俺の考えを丸々無視するようにリリスは、
「それにしても瑞樹ちゃん、こっちきすぎじゃない?」
「私の質問は?」
「残念ながら私は役に立てないかな。でも、まあ、私がやったことではあるのだけれど」
「やっぱり・・・・・・」
「やっぱりなんてひどい娘ね。お仕置きしちゃうぞ~」
少し落ち込んで見せたリリスは、それをなかったことにするように声を高らかに俺に襲い掛かってくる。
「わああ~~」
「ほれほれ、ここか~。それともこっちか~」
「あ、ちょっと。そこは・・・・・あっ・・・・もう・・・やめ・・・て」
身体のあちこちを弄られた俺はあげたくもない声をあげ、その場にへたり込む。
「ふふふ。ずいぶんとそそる感じに倒れてくれるじゃないの」
足は閉じつつ、手は胸をガードするように倒れている俺を視つつリリスはそんなことを言っていたが、当の本人である俺は、どうしてだろうか、身体に力が入らない。
「と、私も遊んでしまったわ。今はそんな状態ではないわね。それにいじってみて実感したけれど、身体に入らない力でも入っているのかしら。部分的に少しずれが生じているみたいね。どれ治してあげるわ」
「ふえ・・・・んっ・・ん~~~~」
俺は力が入らないのでなすすべなく、というかわけもわからないまま、身体に覆いかぶさられキスをされた。
リリスにキスされるのはこれで何度目だろうとそんなことを考えてみたが、三度目か四度目だ。
もう、というのか、されど、いやまだ、だろうか。
どんな言葉を前につけても当てはまらない気がした。
別に今そんなことを考えなくてもいいじゃないかと思うかもしれないが、何かを考えていないと意識が飛びそうなのだ。
特別、今回のキスが気持ちいいとか、別にそういうわけではない。
「ねえ、顔蕩けちゃってるよ。そんなに気持ちいい? まだもっとだよ」
「ん。んん・・・・んっ、ん~~~」
気持ちいいわけない・・・・・
気持ちいいわけ・・・・・・
気持ちいい・・・・・・・・・
いい・・・・・・・・・・・
「ふぁ、ん、ば、ふぇ」
がんばれ、だろうか?
リリスはキスをしたままの状態で言う。
俺はキスをされる前から身体に力が入らなかったが今はもっと入らない感じがする。
頭の奥でなにかがはじけているような感じがあって、身体の奥を弄られているような違和感。
それから数十分は続いたかもしれない。
途中で意識から抜け出てしまった俺の理性のせいで時間間隔はわからなかった。
「お~い」
「・・・・あっ」
目を開けた俺の景色の真ん中にはリリスのきれいな顔があって、視界の両サイドには美しい髪が垂れていた。
「起きたね。おはよう」
「おはようございます・・・・じゃないよ」
意識が戻って、俺は飛び起きるように起き上がる。それに合わせてリリスも背筋を正した。
「どうしていつもいつもいきなりあんなことしちゃうの?」
「ちゃんと動けるようになったね。よかったよかった」
リリスは俺の話なんて聞いていないかのように、笑顔を俺に向けている。
確かに身体が楽になっていた。
「でも、しょうがないんだよ。お姉ちゃんはキスをしないとあなたの身体に流れる魔力を操作できないからね」
「???」
「今回はいきなり身体に魔力が増えたことによる動作不良のような感じだね。だから、うまく循環するように、行き渡っていないところとか、流れていないところとかを治してあげたんだ。まあ、時間かかって瑞樹ちゃん気を失っちゃったけどね」
「じゃあ、助けてくれたんだ・・・・・・」
話を聞いて怒りが収まったというわけではないけれど、これだけは言わねばならないだろう。
「まあ、ね」
「あ、ありがとう」
俺は照れながらもそう言った。
「でも。キス・・・キスをいきなりは禁止!」
「あはは、お姉ちゃんも頑張るよ」
そう言ったリリスは苦笑いを浮かべていた。
そして、リリスは一度こほんと咳ばらいをしてから、
「こちらでもう一度眠れば現実に戻れるよ。今回も長引かせたくはないんだろう? お姉ちゃんに聞いておきたいことはあるかい?」
結局リリスは初めの俺の思惑をわかっていたようだ。
ならばキスのことをもうとやかくは言わないことにしよう。
たぶん、リリスなりの努力だったと俺は信じたいから。
俺は聞きたいことと言われて、一つ思い浮かんだが、それを聞くことはなかった。
「今は、いいや」
「そっか」
リリスはどこか寂しそうに、俺の寝る姿を見届けてくれた。




