策略2
桜田たちは作戦が成功しないと分かっていた。
その話を輪花としてから一度空港をぐるりと一周してきて、お目当ての瑞樹の母親がいないことを確かめた。
「どうやらもうでてしまったのかな」
「ここにいないってことはそうなんじゃねえの」
「僕たちも行こうか」
「ああ」
そうして桜田たちは空港を後にした。
「おい」
「なんですか?」
空港の駐車場。
そこに止めていた赤いスポーツカーの助手席に座った桜田はいきなり輪花に呼ばれた。
「なんで、免許持ってないんだよ」
「僕は基本機械は信じないだけですよ」
「でも、免許くらい持ってろよ」
「いやだな。免許は持ってますよ」
そう言って桜田は免許証を輪花に見せた。
「なんでもっているんだよ」
「身分証明書としてですよ。運転技術はペーパーです」
「せっかく取ったならしっかりやれよな~」
輪花はあきれたようにため息をついて、前に向き直ってエンジンをかけた。
「運転できてもこの車は無理ですね。これはマニュアル車ですから」
「はああ~~」
輪花は大きなため息をさらについた。
「じゃあ、とりあえず飛ばすからしっかりつかまっとけよ」
「わかってます」
輪花はバッグで車を出し、駐車場を素早く出て、高速道路に乗ってからは一気に加速していった。
昼時近く。
桜田と輪花が谷崎宅に着くのはあっと言う間だった。
二人は近くの駐車場に車を止めてから再度家の前まできた。
「で、これからどうするんだ」
「僕としてはあまり張り切りたくないんだけどね」
桜田は表札の下にかがんだまま答えた。
「乗り込むのか?」
「まだ早いかな。ただ・・・・」
桜田は立ち直り、辺りを見回しながら、やれやれと言った感じに、
「状況の進行度は僕が思っていたよりも早いみたいだ」
「どういうことだよ」
輪花は何のことだかわからないというように、問いかける。
「僕は先に結界に近いものを施していたんだけどね。なんだか、破られちゃっているんだよね」
「それは」
輪花の言葉を遮るように桜田は続けた。
「いや、専門家の類ではないね。痕跡が残りすぎている」
「なら、誰が」
「それは僕にもわからないな。でも今この場所は今までにないほど不安定だ」
そう言って桜田は輪花の方に向き直ってから、
「一度この場を離れよう。僕たちの登場はまだ先でいい」
「わかった」
桜田の決断に何の疑問を挟むこともなく輪花は応じる。
輪花は戦闘では優れているが、こういっては失礼なのを承知で言うなら、小細工は桜田の方が何枚も上手だ。
これまでも戦術は桜田が、力技は輪花が担当してきたことが山ほどある。
輪花からすれば今回もそのつもりなのだろう。
「輪花さん。僕がダメだと思ったら今回はちゃんと引いてくださいね」
「どういうことだよ」
「みれば分かりますよ」
輪花は何を見るのかわからないと言った感じだが、桜田は不敵な笑みを返すだけでその問いには答えてはくれそうになかった。
二人はファミレスにいた。
「こんな調子で大丈夫なのか」
「これも戦前に必要なことでしょう」
桜田が言いたいのは、腹が減ってはなんとやらだろう。
それは輪花も承知の上だったみたいで、
「それはわかるけど、あの家の様子を見てなくていいのかってことだよ」
「大丈夫。僕は少し遅れるくらいでちょうどいいと思ってますから」
「ははあ~~」
輪花は大きなため息を深くついた。
桜田は何を考えているか、わからない男だ。
決して何も考えていないわけではなく、いつも何かを考えている。
私としては、桜田だけで解決できたであろう事件はいくつもあったと思っている。
その件に今触れることはしないが、今回だって私がいなくてもどうにかしてしまうという確信が私の中にはあった。
だからだろうか。
私は今回、強敵と渡り合うことをどこか誇りに思い、どこか投げやりに感じていた。
私の仕事はわかっている。
だから、今回も盛大に暴れてやろうと・・・・・・
前回は瑞樹ちゃんを守っていたから動けなかったが、たぶん今回は違う。
私にだって場の力を読むことくらいできた。
あの場所が時空的に不安定になっていることもわかった。
ならば、私も今回は全力を尽くそう。
「なあ、桜田」
「なんですか?」
「ちょっと集中してもいいか」
桜田は一拍おいてから、
「いいですよ」
ワントーン下げた声で言った。




