お泊り会 前日
あかねの家に泊まりに行く前日。
いつものように登校し、学生としての本分を果たしてきた、その帰り道。
夏が近いことを告げるように、四時だと言うのにまだ明るい。
風が気持ちいいなんて時があるけれど、それもこんな街中じゃ感じることなんてそうそうない。
木々に囲まれ、自然豊かな田舎にでも行かないと風を気持ちいいなんて思わないのかもしれない。
そんな風に生ぬるい風に身を撃たれながら考えていると、前から楓がエコバッグを持ちながら商店街の通りをまっすぐに進んでくるのが見える。
俺の視線に気づいたのか、目線をこちらにやって、俺だと気づいた瞬間、楓が小走りでこっちに向かってくる。
「お姉ちゃん、今帰り?」
「楓は夕飯の買い出しか?」
「そうだよ。何かリクエストある?」
楓にリクエストを聞かれて俺は楓が作れるものを思い浮かべる。
最近食べてないもので、何か・・・・・・・
「そうだな~・・・・・・ハンバーグとか?」
「ハンバーグか~。じゃあひき肉買わないとね」
「俺も手伝うよ」
「荷物持ち?」
「夕飯もね」
俺は頷きながら、答えた。
楓が肉屋でひき肉を買って、その隣の八百屋で野菜を買ってと、そんな感じでどんどん食材を調達していくうちに、エコバッグの重さがそれなりになった。
これも後遺症なのかと思うくらいに、重さを感じる。
重い・・・・・・
非力になったなどと思いたくはないが、それでも少し鍛えておかないとと思うくらいにはなっている。
「お姉ちゃんだいじょうぶ?」
「だ、大丈夫・・・・・」
「そうは見えないけど・・・・・」
楓はあははと笑いながら、俺の横に並び、歩幅を合わせて歩いてくれた。
少しばかりの時間を掛けながらも、ようやく自宅に帰ってきた俺は、買ってきた食材をテーブルの上に置いて、冷蔵庫にそれぞれしまっていく。
すぐに使うひき肉や、夕飯分の野菜はそのままに。
一息ついたところで、夕飯の支度を始める。
「まずはハンバーグからかな」
「私は何したらいいかな」
「楓は、ご飯と味噌汁を頼むよ」
「わかった」
俺がボールでひき肉をこねている間に、楓は一合分ほどのお米を研いで、炊飯器にかける。その後で、味噌汁の用意を始める。
今日の具はネギだ。
丁度八百屋で安売りをしていたからというだけなんだけれど。
ハンバーグの形に肉を固めて、フライパンに並べていく。
しばらく火にかけてから、焦げ目がついてきたら裏返して、またしばらく。
いい感じに焦げ目がついて、お皿に移す。
その後で、ソースを作って完成だ。
お皿に千切ったレタスとハンバーグ、その上にソースをかけて一品のできあがり。
そうやって、ご飯もお味噌汁もおかずもできたところで、テーブルに運んでいく。
全部運び終わって、それぞれが自分の椅子に座って、いただきます。
夕飯。
自分で作ったものもあるが、楓が作ったものもある。
自分で作っているからこそ、こんなことを思うのかもしれないけれど、おいしいって言ってもらうことでその腕も上達するというものだと思うのだ。
言ってもらえたら自分も嬉しかったし・・・・・・・
だから、俺は、
「今日の味噌汁もおいしいね」
「うまくなったかな?」
「十分だよ」
「そっか~」
楓も嬉しそうだ。
「そういえば、お兄ちゃんは明日、居ないんだよね」
「そうなるな」
「もう準備は済ませたの?」
「まだ、もう少しってところ」
「早く準備しておきなよ。小物とか忘れちゃうよ~」
「小物?」
俺が頭の上にクエスチョンマークを浮かべると、
「化粧品とか、お兄ちゃんが使うものとかね」
「ああ、それならしっかり覚えているよ」
そんな俺のことを楓はじっと見つめて、疑いの眼差し。
「・・・・しっかり準備します」
楓はうんうんと頷く。
そんな感じで話しているうちに夕飯も食べ終わり、片付けを始める。
一旦、話は中断だ。
楓も食器を持ってきて、俺が皿を洗う。その皿を楓が受け取って水をふき取っていく。
それを並べて、乾かしていく。
それが終わって、またテーブルへ戻って話を再開する。
「お兄ちゃんの事情はなんとなく把握しているつもりの私だから、先に言っておくけど、無理はしないでね」
「無理も何も、泊まりに行くだけだと思うんだけど」
「危険がないと言い切れるの?」
「そ、それは・・・・・」
「お兄ちゃんを心配するのは妹の特権だからね。思いっきりさせてもらうよ」
思わず乗り出してきそうな気迫でそう宣言する楓に、俺はたじろいでしまう。
「私の心配をわかってなんていうつもりはないけど、今の状態のお兄ちゃんは異質以外の何物でもないんだから、それを忘れちゃだめだよ」
「わかってる」
最終的に何も起こらないということで決着が付けば何も言うことはないのだけれど、そうならない可能性の方が高そうだということも言わずもがなだ。
心配してくれる楓のためにも無事に帰ってこよう・・・・・・
そんな感じで、この場はお開きになった。
俺は自室に戻ると早速、用意に取り掛かった。
あとは、化粧品くらい。
そのためには・・・・・・・
「よし、お風呂に入ってこよう」
俺は今日の分の化粧水やら愛用のくしやらをしまうためにも、そう決めた。
一階に降りて行ったところで楓の姿がないことに気づいたが、自室にこもっているのだろうと気にも留めなかった。
だから、お約束の展開。
脱衣所でばったり出会ってしまった。
ピンクの下着を身に纏って髪の水分で濡れないように肩からタオルをかけて、ドライヤーを手に持った楓と・・・・・・
「お、お兄ちゃん!?」
「あ、いや、これは・・・・・」
「・・・・・」
俺はバタンと音が鳴りそうなほど思い切りドアを閉めて、
「な、何も見てません・・・・」
そう叫んだ。
そんな俺のことを追ってくるようにいきなりドアが開いて、
「そんなわけないよね。お姉ちゃん!」
「あ、あれ・・・・・怒ってる」
「罰として、私がお風呂でいじめて、あ・げ・る」
「え、いや、いや~~~」
俺は叫びながら脱衣所に連れ込まれた。
さながら、心霊現象のように、引きずられて。
そして、あっという間に裸にされて、お風呂場に連れ込まれる。
さすがに二人で入ると少し狭く感じるが、後ろに楓が控えているから出ることもできない。
そんなことを考えているうちに、楓がシャワーを手に取って、お湯をかけてくる。
「ひゃんっ」
「冷たかったかな」
自ら出た声に恥ずかしくなっている俺は縮こまった。
「赤くなっちゃって・・・・そのまま髪洗っちゃうね」
「う、うう」
楓が優しい手つきで髪を洗ってくれて、シャンプーをしっかり流してリンスを毛先重視でつけた後、ざっと流す。
「じゃ、身体洗うから、縮こまってないで協力してね」
腕から胴体、足へと順に洗っていく楓に俺は、くすぐったさに身もだえしながらなされるがままだ。
「う、・・・・あっ・・・・ひゃん・・・・そこは、じ、ぶんで」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
「そ、そんな~~・・・・・・」
俺はついにすべてを洗われてしまい、なんかぐったり疲れた感じ。
泡をシャワーで流して、「よく浸かるんだよ」と言い残し、自分の身体も流して楓は出て行った。
「はい~~~」
俺は湯船によく浸かってから上がって、一度身体をタオルで拭いて汗が引いてくるまで、ドライヤーで髪を乾かし、その後で、化粧水をつけて、そのままそれをもってリビングに行く。
「出たんだね」
「あい・・・・」
「もう、お姉ちゃん、私だって恥ずかしいんだから今後は気を付けてよ。同じ身体だからって、そういうことは、そういうことだから」
「はい~・・・・・」
俺はもう何も言い返せないと言わんばかりにすべてに肯定を示した。
それで、楓は何も言わなくなったので俺は自室に戻って、明日の準備を再開する。
それが終わってから、一休憩挟んでから就寝した。




