カラオケ 前編
時刻は五時手前。
商店街通りを少し行ったところにあるカラオケに俺はいた。
お店の一室に、大きなテレビを正面にして、テーブルを挟んで俺、あかね、委員長の順に座っている。
「本当は放課後に直で着ちゃいけないんだけどね」
そうあかねは言ったすぐ横で、
「本当ですよ。私も着いてきてなんですが今後はないようにですよ」
「委員長はさすがだよね~」
なぜだか委員長も一緒に来ていた。
宇美夏希。
三組クラス委員長。
クラスを取り仕切り、先生と生徒の板挟みにあうような立ち位置になったり、率先して進行を行ったり、クラスの長みたいなものだ。
セミロングの髪の長さで肌がとても白い。委員長らしい立ち振る舞いに気を付けていると本人は言っているけれど流されやすい性格で、俺たちに流されるままカラオケにもついてきてしまった。
「わ、私はここでなくても・・・・・」
俺がそんなことを言っていると、あかねが詰め寄ってきて、
「瑞樹ちゃんはもっと大胆でもいいと思うよ」
「谷崎さんにはきっちりしていた方があっていると思いますけど」
「委員長はどこまでまじめなんだ~」
あかねは言いながら委員長こと宇美夏希をぽんぽんと叩く。
「暴力はダメですよ」
「じゃあ、じゃれてやる~」
「あかね。その辺にしておかないと・・・・・」
あかねが委員長にとびかかろうとするのをすんでのところで止める。
「ありがとうございます。谷崎さん」
「いえ・・・・・それより委員長。いやなら帰ってもいいんですよ?」
「い、いえ。決して嫌では・・・・・」
「うんうん。委員長も女の子だね~」
夏希が首を横にぶんぶん振るのを見て、それをネタにゆするような感じであかねが絡む。
「と、お話に花を咲かせるのもいいけど、少しは歌わなきゃね」
「そ、そうですね。利用料金がもったいないですし」
あかねが歌おうとマイクを持ち曲を入れるために端末を操作する。
その操作が終わると、歌が流れ始め、あかねは片手で端末を俺の方に向けジェスチャーで次曲どうぞ的なことをやってくる。
「私持ち歌なんてな・・・・・・・ないです」
俺は好きなアニメ曲を数曲思い浮かべたがどれも女子高生が歌うようなものではないように感じ、そんな風に言った。
だが、そこは幼馴染。
あかねは歌のサビが終わったら所の数秒の間を使って、マイクが音を拾わないよう口から離した状態で、
「瑞樹ちゃんの好きなアニメのオープニングとかエンディングとか歌えないの?」
「いや、歌えるけど、うまくないし・・・・・」
「大丈夫ですよ。カラオケは楽しむものですから」
夏希が聖母のようなことを言っている横で、あかねがいけるいけるみたいなジェスチャーをしている。
器用な奴だなと感心してしまう。
「じゃあ、この曲で」
端末を操作して曲を入れると、テレビと端末の両方で予約曲として表示される。
「あ、私、その曲知ってますよ」
「あんまりうまく歌えないんですけどね・・・・・・」
そうしてからちょっとしたところで、あかねの歌が終わる。
「次、瑞樹ちゃんだよね。はい、マイク」
「ありがとう」
・・・・・・・・・・歌が始まる。
前奏・・・・・・・・
そして歌う部分がやってきて、歌い出す。
・・・・・・・・・・なんてことだろう。
男だったころは出せなかった高音域がすらすらと出る。
今初めて俺は女の子になったことを喜ばしく感じていたりした。
カラオケで喜びを感じるなんて、なんて悲しい現実なんだ。
そして数曲回したところで、委員長が最近流行りの曲を入れた。
その曲はデュエットもできる曲らしく、俺はわからなかったのであかねが一緒に歌っている。
そこからは乱闘戦のように二人曲の嵐。
その中でも、あかねは俺と歌いたいらしく、幼馴染としての経験値から俺のわかる曲を選んでくる。
俺も歌えないとは言えず、仕方なく、本当に仕方なくデュエット。
「瑞樹ちゃんもなかなかノリノリだね」
「そ、そんなことないよ」
そうは言っても、歌が始まってしまえば、そこにはノリノリで歌う二人の女の子がいた。
・・・・・そこにはノリノリで歌う俺がいた。
歌が終わって、ジュースを飲みつつ一息入れていると、夏希が少し寂しそうに、
「私ともデュエットしてくれませんか?」
「・・・わ、私にわかる曲なら」
「じゃあ、これなんてどうですか」
そこには懐かしの曲が表示されていた。
もちろん俺はその曲を知っていたし、そのアニメも知っていた。というか、超大好きだった・・・・・
なので、俺はその申し出を快諾した。
歌い始めてすぐに歌詞が頭の中に広がっていく。
その曲も言うまでもなくノリノリで歌ってしまった俺は、少し息切れ中。
その横では、ムスッとしたあかねが、
「私の時よりノリノリだった」
などと少しばかり不貞腐れていて、休みがてらそれを俺は慰める。
「あかねともいいデュエットしたよ?」
「そうだけど、なんか負けた感じがした」
「勝負事じゃないでしょ・・・・・」
俺は苦笑い。
「そうかもだけど、瑞樹ちゃんを取られた気がした・・・・」
「取られてないって・・・・・」
「じゃあ、証明として、ぎゅうううってさせてくれる???」
「・・・・・・いいけど。ちょっとね」
「やったぁ」
そう答えた俺の返事を聞いてあかねの機嫌はすぐに回復した。
そしてしっかりとホールドする感じで、俺が逃げられないようになのかはわからないがソファーに押し付ける感じで、ぎゅっと抱き着かれる。
「はわわ。二人とも大胆ですよ。破廉恥ですよ~」
「そ、そろそろ」
「まだ・・・・・」
「・・・・・・」
お二人はその、そういう関係で?というような目線を向けられたので、俺は首を横に振った。
そうしたら夏希は安堵したように胸をなでおろした。
いや、なぜ安心したような面持ちになったのかは聞かないことにした・・・・・・・
面倒ごとが増える気がした。
それからしばらくして、夏希は家で稽古があるとか言ってお金だけしっかり置いて、先に帰った。
そういう律儀なところはさすが委員長を務めるだけはあるなと思った。
俺とあかねは、二人きりになったということもあってか、ここに来るきっかけにもなった内緒話を始めることにしたのだった。




