あかね訪問
まだ夏というには少しばかり早い六月中旬のとある日。
空を見上げれば、雲一つない青空が広がっていて、そこに飛行機雲一筋。その先端には飛行機が飛んでいて太陽の光をまぶしいほどに反射している。
俺は今、家から少し離れた場所を歩いている。
俺の身体は未だ女の子のまま。
あれから一か月は経っているだろうか。その間、桜田とは一度も会っていない。
今日の恰好はスラっと下した髪が映えるイメージの白いワンピースに、その付属品だった青いリボンの付いた白い帽子。それと、サンダル。
そんな恰好で特にあてもなく歩いていたらクラスの男子数人に見つかって、それを知らん顔で歩き続ける俺。そんな俺に、イラっときたクラスの男子たちは俺の手を掴んで引き留めた。
それでも目を合わせようとしない俺に男子たちはこう言う。
「お前、少し可愛いからって無視すんなよ」
「そうだぞ、気づかないふりなんてひどいじゃないか」
「挨拶くらいあってもいいだろ」
それぞれがそれぞれの言い分。
「はあ・・・・・・」
俺は一つため息。
とても面倒くさい・・・・・・・・
初登校以来、俺はクラスの男子たちの中でとびきりの人気者になっていた。もちろん、俺が何かしたわけではなく、ただの見た目で人気になっていた。
女子たちはそれを見て俺にイラっとしないのだろうかと心配してくれる人がいるかもしれないので、ここで朗報。
その心配は無用だ。
俺のクラスの女子たちは瑞樹ちゃんラブなどというファンクラブを秘かにに立ち上げていたからだ。
なぜ俺がそれを知っているかというと、秘かにあかねが教えてくれた。
俺はさっきの男子たちを手を振りほどき、すらりと交わして再度歩みを進める。
行く当てなんてないのに・・・・・・・
俺の行動にとてもイラっときてもいいのに、先ほどの男子たちは顔を下に向けたままどこかに行ってしまった。
そういえば、こういう格好で外を出歩くのも最近では慣れてしまった。
そもそもどうして、あてもないのにこんな熱い中、外を歩いているのかと言うと、家から逃げてきたからである。
とても大急ぎで、この格好に着替えて。
事態は家の中で起きていた。
朝、なぜだかあかねが訪ねてきた。
俺はとりあえず、話があるというので家に上げることにした。
そしてなぜだか、妹の楓と目が合ったあかねはその間で火花を散らしたように見え、そしてなぜだか、とても疑問なのだが、俺との距離を縮めてきた。ほぼゼロまで・・・・・・・
とりあえず挨拶。
その後は、もう急転直下の言い争い。
なぜだか、俺と一線を越えた気でいる楓と、なぜだか俺と恋人同士だと思っているあかね。
その言い争いから俺は逃げてきたわけだ。
事態が起こる原因。それを作ったのはほかでもない俺である。これはすでにわかっていた。理由はたぶんこれ。
妹のスキンシップが最近激しいとあかねに相談したこと。
その相談に乗ってくれたあかねにあれやこれやと質問されて、されまくって、されまくった。
その結果、瑞樹ちゃんはいけない娘なんだねと言われた・・・・・・・・
なぜ俺が悪者に!?・・・・・・・
場所は移って、保健室。
俺が保健室中央辺りまで入ったのを見計らったあかねは、ガチャっと鍵を閉めた。
俺がその音を聞いて振り向く。
あかねさん、鍵なんて閉めてどうしたのというリアクションを取る暇もなく、ベッドに押し倒されて、のしかかられる。
「私にもわかりやすく、同じことしてもいいんだよ」
俺に耳打ちしてくるあかね。
「でも、そっか。同じことするのは私か・・・・・ だって瑞樹ちゃんは何もしてないもんね」
「ど、どうしたの!?」
「どうもしないよ。私はいつも通り、大好き全開だよ」
そう言いながら、顔を近づけてくる。
「ま、待って・・・・・・」
「ん?? 待ってあげる」
もう少しで触れそうなその寸前であかねが止まる。
「ふふ、嘘・・・・・・」
俺が目を逸らした瞬間を見計らって、唇を奪われる。
「あ・・・・・んっ・・・・んんん」
身体から力が抜ける。
熱くなる。
顔が赤く、火照る。
「ふう。こんな感じ・・・・・か・・な」
その後すぐにあかねは気を失った。
理由はわからなかったが、幸いここは保健室。
俺はあかねをベッドに寝かせたまま、保健室の鍵を開け、帰路に着いた。
これからしばらくの間、あかねとの接点はなかったのだが、とある日、あかねから聞かれた。
あの日のことは本当にあったことなのかと。
俺は申し訳ない感じで本当だと答えた。
それを聞いたあかねは俺の制止も聞かず駆けて行ってしまった。
そして今日に至る。
結局のところ、何もすることなく、そして何も解決策を思いつくこともなく帰路に着いた。
家について玄関の戸を開ける。
中ではやはり争いの声。
俺は開口一番、
「ただいま」
いつも言っていること。
自分が帰ってきたということの宣言。
二人とも、俺の帰還に気づいたようで、帰還なんて言うとどこか遠くにでも行っていたようだけれどそんなこともなく、またそれほど重い言葉でなくてもよかったのではないかとも思うのだが、あえてこう言いたい。
だって今の俺の役目は、さながら指揮官のような、そんな位置付けだろうと思うのだから。
「お姉ちゃん、この女のわからなさ、伝わらなさ、どうにかしてよ」
「瑞樹ちゃん、妹とイチャラブ生活って本当なの?」
「お姉ちゃん、この女ともキスしたって本当なの!!」
「瑞樹ちゃん、妹とも”なんども””キスしたって本当なの。私には一回って」
俺にくる質問の嵐。
俺に迫る危機感の波。
俺に迫ってくる二人の圧と二人。
俺はそれら一切を振り払うように、押しのけるように、
「うるさい。少しだまって」
俺はまっすぐ二人の目を見てそう叫ぶ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
二人とも黙る。
沈黙する。
というか、しゃべれないと言ったご様子。
あかねが何か言おうとして何も言えない。
「二人とも少し落ち着いて、それから話を聞くよ」
二人とも頷く。
まったく同じ動作で、同じタイミングで。
そして俺は、とりあえずの二人からの質問に答えていった。
その後は早かった。
解決に向けて時間は走り出す。
解決と言っても二人の疑問に俺が答えていって、それから間違いを正す。
楓とは一線を越えていないこと。
あかねとは友人であること。
そして夕方、やっとあかねが訪ねてきた理由を聞く機会が来るのだった。
「私が訪ねてきたのは、とても申し訳ないんだけど、家訓の話なの」
「家訓?」
「あかねさんのですか?」
俺と楓は二人でクエスチョンマークを頭の上に浮かべる。
「私の家では、神社の娘ってこともあるのかもしれないけれど、神に仕える家だからってことかもしれないんだけれど、契りっていうのをすごく、ものすごく大切にするの。それも、それも、とても、とても、キスとかもそれに当たるくらいに」
「へえ~~~・・・・・・」
俺は少し棒読みで答えて、心ここにあらず。
「そうなんだ。なんか大変だね」
楓は何か思い当たる節でもあるように。
「それで、あの日、そのまま帰って、なぜだかお父さんにばれちゃったの」
「へえ~~~・・・・・」
ばれちゃったのとあかねは普通に言っているけれども、それって大変なことなのでは、と俺は思いつつ、棒読みを続ける。
「それでなぜだか、激怒された」
ですよね~~~~・・・・・・・・・
俺は心の中でそう叫んだ。
「それは大変だったね」
あかねと心通るものがあるのか、楓がうんうんと頷く。
「でも、その後、凄く褒められて、一度家に連れてきてみなさいって言われて、それでその相談で来たわけなんだけど、私の勘からすると、これには何か裏があると思うんだよね」
「つまり、どうにか防ぎたいってことか?」
「お姉ちゃん、そうじゃないと思うよ」
楓は俺の返しに否定を返す。
それにあかねが頷きを返し、
「そうなんだよね。一度あって欲しいんだけど、一応対策だけさせてほしくて話し合いに来たってところかな」
「それを断る選択肢はないって感じだね・・・・・」
「ないね。私のお父さん、お母さんが言うには凄腕らしくて、神の勾玉の一部を持ってるらしくて、それがある神社に仕える神主ってそれなりのことができるってらしいから、なんだか本当らしいの」
「なるほど。つまりはそういうことね」
「そういうことよ」
「どういうこと」
楓だけに伝わっていなかった。
だから一応の説明。
「お・・・私のこと、ちょっとばれちゃってるってことかな」
「あ、そういう・・・・・ ずいぶんまずい状況???」
「それなりに・・・・・」
俺はため息。
それを見ているあかねも同じくため息。
「なんであの時、私、あんなこと・・・・・」
「そういえば、私もお姉ちゃんのことはとても好きだけど、暴走状態だったって思わなくもない?」
二人で俺の方を見る。
疑いの眼差し・・・・・・
俺はその眼差しに耐えかねて、
「・・・・・・・何もしてないよ???」
「もちろん知っているともさ」
「瑞樹ちゃんは動揺してたものね・・・・」
そうして再びの沈黙。
このまま。この話はこんな感じで続くのだけれど、特に何もなく、特に言うこともなしに、結論として、あかねの言うとおり、一度会うということで決着となった。
どうしてそうなったかというと、俺ではどうしても解決策に至ることができそうにない。
そこに至るための扉を開ける鍵が足りていない。
だが、これは余念だけれども、俺というか私としての時間が、経験が、憶測が、行くなと言っていた・・・・・・・・・・・・
前のところからは一区切り、新章と言ってもいいのかなと思う、今回の投稿。
もしかしたらまとめるかも???




