第一フェーズ 後日談
後日談。
というか、あの攻防から一夜明けて、つまりは後日の話。
朝、朝刊を受け取る時に、またあの差出人不明の封筒に入った手紙が来ていた。
ただ今回は、すでに差出人に見当はついているけれども。
俺は特に警戒することもなく封筒の封をハサミで切る。
手紙は案の定、桜田からのものだった。
手紙の内容はこうだ。
谷崎瑞樹様
あの一件の後、僕たちはあの場所を一通り片付けた。すでにあの場所には、君に関するもの、魔女に関するもの、その一切がない。その中には当然僕たちも含まれている。
つまり、僕たちはもうあの場所にはいない。
でも安心して欲しい。
来る時が来れば、また会える。というか、僕が君を迎えに行く感じかな。
そしてここからは君についてのことだ。
君に流れる魔力の量を直接測ったわけではないけれど、大体約三か月だと僕はみている。そのくらいたてば君は元に戻れるはずだ。
ただ、リリスがこれで諦めるとは考えにくい。
僕たちはその対策のためにあの場所を去ったと考えてもらって構わない。
君たちの日常には極力関わらないことを約束したいが、リリスの力量がどの程度か、僕たちは測り間違えていた可能性がある。
だから、君にもその旨を伝えておこうと思う。
つまり、自分のことは自分で守ってもらいたい。でなければ、自分で救うしかない。自分とはそういうものだからね。あくまで、僕たちは君の手助けしかできないのだから。
なんともあの男らしい気がした。
しかし、挨拶くらいさせてくれてもいいものだ。なんとも寂しい気がした。
もしかしたら、窮地を共にした仲だったかもしれないのに、と思うほどにあの攻防は世界という次元を間違えていた。
俺が生きている世界に、もうあんな異世界じみたものは存在していないと思っていたのに・・・・・・
もう一度復唱のように言うけれども、一夜明けた今日、まだ俺の身体には異変はない。
まだ俺は美人なままだ。
戻ったらブサイクになると思うと何とも言えないけれど、このままって言うのもいただけない。
とりあえず、今の俺ができたことは、カレンダーに今日から三か月後だと分かるように丸く記しておくことだけだった。
これでその日は家から出ずに済むはずだ。
もし、万が一にも街中でいきなり戻ってしまったら、人生終わっちゃうからな・・・・・・・・
そういえば、これも後日聞いた話。
なぜあの日、楓は俺がそんなに遅くならずに帰ってこられると予想できたのか、もう一度聞いてみた時の話。
「そういえば、女の感、的中だったな」
俺が朝食を取りながら楓に話しかける。
「ああ、あの話か~。まあ、当たると思って言ったからね」
「その自信が女の感か?」
「ん~。それとは違うかも」
俺はその自信について聞いてみたところ、
「お兄ちゃんが予定を言うときに、なんとなく緊張の面持ちだったから、きっと何かあるんだろうな~って思って、でも何かあるんだったら、夜より昼にするだろうな~って思って」
「ど、どうして夜より昼?」
「だって魔術を使う相手なら夜の方が得意だと思うから、相手のフィールドでは戦わないでしょ。だからだよ」
「そ、それはそうだね・・・・・・」
楓さんの洞察力と観察眼、半端ないと思った瞬間だった。
「それにしても、まさかあそこまで疲れて帰ってくるとは思わなかったよ~」
「あはは・・・・・」
「おかげさまで、私が買い出しに行くことになったからね。でも無事良かった」
そう言って楓が抱きついてくる。
この甘えん坊な妹は俺の姿が変わろうと変わらないようだった。
「心配かけたね」
俺は楓の頭を撫でてやる。
そうすると、楓も安心したような顔になって、顔の筋肉が緩みまくっていた。
昼過ぎ、俺は着替えて、外に出ていた。
この姿で外に出るのも、少しは慣れた感じだ。
目的地は、あのゲーム会社。
いないとは書いていたけれども、気になったし、もしかしたらという気もした。
しかし、そんなことはなかった。
物理的に不可能だった。
俺は目的地について唖然とした。
あのゲーム会社が今、取り壊されている真っ最中であったから。
「どうして・・・・・・・」
その答えは結局わからずじまいだったけれど、予想はできた。
たぶん、昨日の出来事をそのままにはしておけなかったということだ。
あの大人が通れるほどの穴然り、外からわかるほど一夜で壊れてしまった。近所の人がなんていうかわからない。そのままにはしておけないという判断。
俺はそのまま家に帰ることにした。
そしてこの日は、この後も、特に何もなく終わった
終わるはずだった・・・・・・・・
いや、俺については終わったのだが・・・・・・・
家に帰ると楓がいつも以上にデレていた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「・・・・・なに???」
なぜお姉ちゃん呼びと思ったが触れたが最後のような気がしたので、受け流しの体勢。
「私とハグしよ???」
「い、いいけど・・・・・」
そして、俺は楓を抱きしめた。
きっとはたから見ると、なんかいい光景? に見えるかなと想像が膨らむ。
「ねえ、お姉ちゃん。キスしてもいい?」
「え、それは、ちょっと・・・・」
「なんで????」
なんではこっちのセリフだ! と思いつつなんかいい言い訳を探す。
そして見つけたセリフがこちら。
「兄妹・・・・姉妹だから!?」
なんともセンスがなかった・・・・・・・・
「ふふ。姉妹だから、ノウカンだよ~~~」
「ええっ」
「私は別に、カウントしてもいいけど」
楓は悪戯するときのような悪魔的な笑みを浮かべる。
「えいっ・・・・・・・!?」
楓は俺にとびかかってきて、俺はまんまと押し倒されてしまう。
もう少し体感鍛えておけばよかった・・・・・・・
「どうして、いきなりこんな・・・・・」
「だって、お姉ちゃん、この姿いつまで続くかわからないし、今のうちに堪能しておきたくて」
楓は笑ったまま、舌なめずり。
「楓・・・さん???」
「お、ね、え、ちゃ、ん・・・」
楓が顔を近づけてくる。ゆっくりと緩やかに・・・・
いつの間にか俺の両手はしっかりとホールドされていて、動かせない。
「え、えあ、ま、待って、ちょ、え、ま・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
数秒の沈黙。
ではなく、悶絶。
数秒もされてしまった・・・・・・
「ごちそうさま。またしようね。お姉ちゃん」
そう言って満面の笑みを浮かべる楓を上目に見ながら、俺は女としての初めてとかではなく、現実としての初めてを妹に奪われたことを、しくしくと思った。
後のこと、ノウカンにしてもらおうと楓に言ったら、
「じゃあ、もう一度してあげる」
と言われ、なすすべなくもう一度されたのは、ここだけの秘密である。
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