第一フェーズ 前編
次の日。
今日は日曜日だった。
毎日学校に行っていたわけではないけれど、今日の朝も早い。
今日の予定は朝食を済ませた後、桜田に会いに行くことになっている。
俺としては、何かと一応頑張って書き続けている、自虐小説の方の続きも執筆したいところだが、それはまたの機会にしておこうと思う。
と言っても、そちらの方は、すでに危うい状況だった。
境遇を似せて描いてしまったがために、俺自身がそれに耐えられなくなり始めていた。
なんとも情けない・・・・・・・・
どんな風にかというと、敵が襲ってくるとする。
そしたら、立ち向かうのが話の流れとしては王道だろう。
だがしかし、俺はそんなことできない。女の子はそんなことしないと、逃げの道を選択させてしまう。
これが続き、そっちの主人公は、今魔王に嫁入りしそうになっていた。
どうしてそうなったかは俺にもよくわかっていない・・・・・・・・
時刻はちょうど開店時間と言ったところ。
商店街にも活気が出始め、通勤時間が終り、買い物客が増えてくる時間帯。
ショッピングモールができた影響で商店街で買い物をするお客と言うのは年々減っているそうだが、楓から聞いたところによると、商店街の野菜はとれたてだから、旬なら文句なしでこっちを選ぶとか。
他もそうらしい。
魚屋さんの魚は、朝の魚市で仕入れたものを。
揚げ物やは揚げたてを。
時計屋のおじいちゃんだって時計職人だ。
この商店街は、商店街そのものが人間みたいに見えてくると俺は思った。
前置きが長くなったが、どうしてそんな話になったかと言うと、楓に今日の予定を聞かれたことがきっかけだった。
俺はもちろん、本当の予定を言った。
その上で、楓に帰りに商店街で買い物を頼まれていたからだ。
「今日も昨日と同じくらい遅いかもしれないぞ?」
「ん~、それはないと思うし、たぶん大丈夫じゃないかな」
「何か根拠がおありで?」
「女の感ってやつかな」
「なんだそりゃ」
俺にはわからない領域の回答だった。
俺は商店街を横目に通り過ぎ、桜田のもとへと向かった。
昨日と同じ部屋ではなく、その隣の部屋に桜田はいた。
いつの間にか姿を消していた円城さんの姿もそこにはあった。
「やっときたね。待ちわびたよ。瑞樹ちゃん」
「そんなに遅くないと思うんだけど・・・・・」
「私たちの活動時間は朝が早いですから、それで」
「なるほど・・・・・」
朝が早いとはいったいどれくらいと気になったが、めまいがしそうな気がしたので聞きずにすました。
「早速で悪いけど、そこに立ってもらえるかな」
桜田が指さしたところには白いチョークで書かれた円の中心。
何かの魔法陣だろうか・・・・・・
「瑞樹さん。ちょっと失礼しますね」
そう言って円城さんは俺の胸と首が交わるところにお札らしきものを張り付けた。
らしきといったのは、言葉の綾ではもちろんない。
そのお札は、たぶん和紙でできていて、文字が書かれてはいなかったから。
書かれていたのは、地面の円と同じものの中に半月と、その外側に炎のような絵。そしてそれを繋ぐ鎖のような絵だ。
俺がその絵に気を取られている間に、桜田はいつも間にか手に持っていた”箒”を自分も目の前に置いた。
その箒はとても古そうに見え、どこかで見た気がした。
よく見る落ち葉などを集めるタイプの箒だから、きっと気のせいだろうけれど・・・・・
「それじゃあ、そろそろ、第一フェーズと行こうか」
「ええええ」
「それと、服は着たままで構わないけど、お札は隠さないでね。その服、破けたらもったいないからね。では、輪花さん。力仕事は任せましたよ」
「わかっているよ~」
そして、桜田は目の前に置いた箒を力いっぱいに踏みつけ、何か小さな声でぶつぶつと言った。
箒は桜田の言葉に反応したように、白く光り出し、その光が俺の方へと伸びてくる。
俺は咄嗟に逃げようとした。
その足を、円城さんに止められた。
「はいはい。逃げない。大丈夫、そのためのお札だから」
「・・・・・・・でも」
「でもじゃないよ~」
「・・・・・・・・・ううう」
そんなやり取りをしている間に光は俺に張られたお札と繋がっていた。
俺は特に何ともない。
いや、身体がだんだん熱くなってきているような気がした。
「今見えているのが、この箒を通じて瑞樹ちゃんに送られている魔力なんだ。僕はそれを視えるようにイメージで色を与えただけさ。これ自体は、今までと何ら変わらない。けど、イメージできると感覚的に把握しやすくなるだろう。その感覚を使って、瑞樹ちゃんには跳ね返すそうなイメージをしてほしい」
「跳ね返す。これを???」
「そう。こっちの箒の方を先に壊してしまうと、瑞樹ちゃんに流れている魔力が暴走する可能性があるからね。それが起こらないようにするための処置だ」
「なんで、跳ね返すとそれが起こらないって言えるんだよ」
それには円城さんが応えてくれた。
「魔力は所詮魔力ってことさね。活動環境があって初めて生きてくるってことかな。だから、今一時的に箒に貯められている魔力がすべてこちらに来ると瑞樹さんが耐えられない可能性があるってことで、それを防げれば、今大丈夫な状態が維持されるから起こらないって言えるんです」
「・・・・・なんとなく理解しました」
本当になんとなくだった。
ただ一つだけ、やらないと身の危険があるということだけはしっかりと理解していた。
「それじゃ、イメージしてください」
「はい」
俺はイメージを始めた。
壁を作る感じに、自分から押し出すような、そんなイメージ。
「それじゃあ、いくよ」
その言葉を言い終えると同時に、桜田は箒を粉々に壊した。
何かがはじけ飛んだような感覚。
次の瞬間、俺は何かに押されるような感じがして、後退った。
それを円城さんが受け止める。
俺を円から出さないようにしてくれているみたいだ。
「この円には、魔力安定を付与してある。そして、その札にも魔力安定の加護を付けてある。この中にいる間は安全だ」
「絶対にそこから出てはいけないよ。踏ん張って、瑞樹ちゃん」
「わ、わかってるけど・・・・・あ、あああ・・・・・」
「これほどの魔力を。さすがはリリス、と言わないといけないかな。僕の予想を超えそうだよ」
「何ニヤニヤしているんだ・・・・あん・・・ こっちは大変なの、に」
俺の身体は燃え上がりそうなほど熱くなっていて、汗が噴き出しているみたいだ。全身の感覚が敏感になっていて、何とも気持ちの悪い感覚がいくつも感じられる。
何秒、いや、何分の攻防だったのか。やっとの思いで、魔力の荒波に打ち勝った。
俺の顔は湯気が出そうなほど赤くなっていて、トロっとしているのが自分でもわかる。
「桜田、こっち見ちゃだめだぞ」
「わかってますよ。輪花さん。それよりも、今度は相手の手番ですよ。気を付けてください」
「言われずとも」
そんな二人の声を聴きながら、俺は円の中心で膝を折って倒れこんだ。
倒れたと言っても、意識はある。
でも、身体に力が入らなかった。




