鎮座
私が門を潜ってまぶしい光に包まれた直後、目を開けると元のせかいに、表側に戻ってきていた。
桜田は私の半歩後ろをついてくる。
境内が見渡せるところまで来ると、なにやら人だかりが見え、その正体が春樹さん、あかね、そしてあかねの父であることがわかった。
「瑞樹ちゃんが悪魔王と闘っている時、彼らが結界を維持してくれていたんだ」
「そうだったのね。見るからに大変だったっぽい・・・・・・」
桜田から説明され、彼らの状況を見るとその大変さが伝わってくる。
あかねは汗で服がびっしょりし、ぐったり倒れこんでいるし、春樹さんは自慢のスーツがところどころ破けている。
不埒な行為があったのでは、と疑わないのは儀式に使われたらしい何かの残骸とあかねの父が労っているからに他ならない。
「あ、あかね?」
「あら、瑞樹ちゃん。おかえり~」
ふりふりとこちらも見ずに手だけを振っているあかねは声すらも疲れていた。
「瑞樹さん、無事だったのですね。結界にかかる負荷がある時から和らいだので何かしらの結果が出たのではと思っていたのですが、輪花さんは戻ってきてすぐに意識を失ってしまいますし桜田が付いているとはいえ、心配していました。それにしても、魔女っ娘もいいですが神が鳥居を潜って社に着てはいけませんよ。特にここはまだ生きていますからね」
「あ、はい・・・・・・」
「春樹さん、堅いね。僕がそれを言わなかった理由くらいわかるだろう?」
「桜田・・・・・・はあ。説明を省くのと、しないのはちがいますよ」
「えっと。もしかして、何か企んでた?」
「瑞樹ちゃんはその力を悪用しないと僕たちはわかっている。しかし、それは悪魔王を退けた力だ。僕らのような輩には君は畏怖の存在、ましてや討伐対象になるかもしれない。魔王と勇者。魔王を倒した勇者はおとぎ話のように祭り上げられると思うかい? 現実はそんなに煌びやかじゃないよ。残念ながらね・・・。だけど、瑞樹ちゃんに何かあると、悪魔王がまた来かねないだろう。僕は瑞樹ちゃんとは協力関係でいたいわけだよ。そこでだ。君にはこの街を守る神の座についてもらいたいと思ってね。なに、瑞樹ちゃんはあかねさんと付き合っているそうだし、何も問題はない。僕も街を守護する立場から補佐になれてラッキーというくらいだ」
「桜田さん。あなたはだからいきなりここから出ていったのですか?」
いきなり口を開いたのはあかねの父親だった。
そういえば桜田とは面識があるような感じだったが、神主と神授された者という立場から見れば面識があってしかるべきだ。
「僕は自分のできることをやってきただけさ。瑞樹ちゃん、後は任せるよ」
「できるだけのことは。ちゃんと支えてね」
「ああ」
すたっと起き上がったあかねは、
「話もまとまったみたいだし、後は私の役目よね。瑞樹ちゃん一緒に来てくれるかしら」
腕を引かれ、奥の部屋仏様のある部屋に連れ込まれる。
「私巫女だからちょっと不思議な力があるんだけど、瑞樹ちゃんもそうなんだよね?」
「黙っててごめん」
「ううん。実は気づいていたから。私は魔術? の類、本当は効かないの。でも、瑞樹ちゃんの魔術なら受け入れられた」
ならば、あの保健室での出来事や泊りに行った日のこと、ほかにもいろいろなことが効果を知った上でのことになる。
なんとも恥ずかしい。
「ねえ、彼女の私が誰よりも早くクリスマスプレゼントをあげたいんだけど?」
「ありがとう?・・・・・・」
「はむ」
柔らかい唇が重ねられる。
不謹慎ではあるけれど、戦いの終わりをようやく実感できた気がした。
いつにもまして顔が赤いあかねは照れながら、
「えっと、その、私。瑞樹ちゃんが女の子だからとか気にしないから。大事にしてよね」
そうか。魔術の類が効かないなら、私が男だったことも覚えているのは道理。あかねは私の選択のどちらを期待していたのか、今はもう気にもならないことだ。彼女は私を私として見ているのを今言ってくれたから。
だから彼女なりの気遣いに感謝しつつ、私はまたキスをした。
「・・・かね。ちょっと激しい」
「巫女たる私、あかねは御子たる汝、瑞樹をこの街の主様と認める!」
「あかね?」
「形式的なこと。仏様に宣言したの。これでたぶん大丈夫だから」
「そうなんだ」
何やら簡単に済んでしまった気がしたが、きっとキスも含めて行事の一環だったのだろうと思うと、私が神になれてよかったと思う辺り、私もまだまだ神として心が狭い。
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