はじまり
廊下へと出る。
ばったりと、いや、気を使われて廊下で待っていてくれたと思わしき桜田と鉢合わせた私とあかね。あかねに目配せで桜田は先に行けと言っているようで、その意を汲み取る形であかねは私に、
「先に行っているね」
と言い残してこの場を去った。
あかねが行ったことを確認し終えた桜田は、
「僕のお願いで女の子になる決意をしてくれた瑞樹ちゃんに感謝を」
「いきなりなんだよ。桜田らしくないよ」
「僕はこれでようやくだ。神樹からの命で瑞樹ちゃんに会い、リリス絡みであることを知った僕は悪魔王が出張ってくることを予期した。魔力体のリリスを退けた瑞樹ちゃんを見て、悪魔王を何とかできるのは僕じゃなく瑞樹ちゃんが真に覚醒した時だと悟った僕は、君を強くすることを選んだ。ま、男だと賢者で女の子じゃないと魔女にはなれないからそのままにしたというのもあるんだけれど、これでようやく僕の出番。瑞樹ちゃんの依頼をやり遂げることができるかもしれない状態になった。やっと選択肢が生まれたんだ。ということで、とりあえず楓ちゃんに会いに行こう」
言うや否や、桜田は手を引っ張って私の自宅へと向かった。
自宅前。門前。
「なんで楓に?」
「僕は聖杯を追いかけて、この家に来た時結界が張られていないことに気が付いた。それ自体は強いものではなかったから破られてもというか壊された形跡から素人だと思ったわけだけど、よくよく考えればおかしいことだったんだ。もちろん自然的には壊れないようにしていたから、人為的であることは間違いないんだが、そもそも聖杯が届くことを知らないと壊さないような結界を張ったんだから。瑞樹ちゃんにはわかると思うが、結界は一般人には破壊できないからね」
「あかねのお父さんが展開した結界はそんな感じだったね。確かに・・・・・・」
「僕が張ったのは守護と古代聖遺物の力を弱める結界だった。家庭的な除霊の派生結界みたいなものだから簡単ではあるんだがお札直貼りとかではないから素人が見てもわからないはずだしね」
「それでなんで楓に行き当たるんだよ」
私は最初の質問を返した。
「タイミングだよ」
「タイミング?」
「リリスが瑞樹ちゃんに施した魔術、魂の帰還は不完全だった。おかげでリリンとの共存が成り立っているともいえるけれど、空間を歪め時間を超えてやってきたリリスはそのことを知っている。並行世界があるとして過去から未来に飛ぶなら違う時空へは飛べない。だからこそ、リリスはあの聖杯があの場所にあることを知っていたからこそあの場所には来れない。なぜなら同一個体は同空間に存在できないから」
「なら私の母という可能性・・・・・・いや聖杯を知らなかった母には無理か」
「聖遺物に使われたと考えるのが自然だろうね」
「使われる?」
「聖杯は魔女の残した聖遺物。器は色欲が、内包する無限には暴食が手を貸したと言われている。聖遺物は持ち主しか使えないと言われ物によっては封印を施すほどの危険な代物でもあるんだ。そこでだ。聖遺物にも持ち主がいるということは聖杯の持ち主は『誰か?』と考えた時、色欲か暴食と思うかもしれないがこの二人が揃ってこその持ち主だと仮定したならば、リリスが健在でも聖杯が持ち主の元に戻らなかったことにも説明がつく。つまり、瑞樹ちゃんが色欲に目覚め、暴食と色欲が揃ったということで聖杯が目を覚ましたんだ」
「ちょ、ちょっと。楓は暴食の魔女だって言いたいのはわかるけど、つじつまが合うだけでちょっと無謀すぎるよ」
「そうでもないんだ。瑞樹ちゃんが魂に掛けられた魔術を不完全から完全に変えた人物がいないとおかしい」
「なんで不完全だったっていえるんだよ。完全だったかもしれないのに」
「それは、僕が神樹から受けた命が、この街の谷崎瑞樹という男性に起きた魔術的事件を解決すること、だったからさ。神樹からの情報に間違いがあったことは一度もなかったから、僕は最初君のことがわからなかった。だから瑞樹ちゃんが訪ねてきたときに名前を呼んだ。本人か確かめるためにね。それに暴食ならば他人の魔術を書き換えることも用意だろう。その名の通り、何でも食べる。食べ物から物、はたまた情報までもね。そして結界も使えるなら疑似的断絶空間を作ることも造作もない。いわゆるシュレーディンガー猫の状態を簡単に作れるということだ」
「もう桜田の言い分は筋が通ってることはわかったけど、悪魔王が消息不明って言っていた通り、明らかにしていいことなの? 私はもう決意したことだし、私自身下を向く理由はないんだよ」
「魔女かどうかはさほど僕は気にしていないよ。それよりも僕は瑞樹ちゃんが楓ちゃんを思うことは知っている。ただ、互いに隠し事をしているというのはきっと今後のためにならない。僕は瑞樹ちゃんの決意を尊重するし感謝もするけれど、僕が瑞樹ちゃんの家族との亀裂を作る原因になってはならないと思っているんだよ」
「わかった。私がしっかり確認するからあまり心配しないで。私こそ桜田に感謝しているんだから、私は今後も桜田とは協力していきたいよ」
「ありがとう」
桜田はそう言うと、春樹さんと合流すると言って神社へと戻っていった。




