勝利とは
悪魔王がこの世界から消滅してなお残り続ける魔術。
深淵、虚数。
魔導書の解析によれば、世界構築の魔術だという。そんな魔法があることなど机上の空論だったらしいけれど、もしできたなら自分の世界を造れるのだという。
「この魔術が解除されないと出られないのに。解除させるにはどうすれば?」
「魔力点と呼ばれる魔術回路を描くための極点を破壊すればいいようです」
とはいえ、魔眼をもってしてもそのような魔力は視えない。それに、世界構築と言っても私の後光がなければただの暗闇だ。
悪魔王の最後のまた逢おうも気がかりだ。早く脱出しないといけないという気持ちにさせられる。
「世界構築なんていうからもっとこう、街ができるのかと思ったよ」
「そこまでの意志は込められなかったのかもしれないよ。街を創るのが簡単じゃないことは錬金術を使える瑞樹ちゃんにはよくわかるでしょ」
リリンが訂正の意味も込めてそう言った。
私も思いを改める。
ガラスの玉を創るのと金を創るのは錬金術にとっては簡単だ。しかし、車を創るにはそれなりの修練や構造を知る必要がある。ならば家を創るのはさらに難しいことは想像に難くない。つまり街を創るというのは並大抵の魔術ではないということだ。
同時に魔眼に睨まれても発動する魔術という点からも普通ではないということがうかがえる。
「これは結界なのかもね」
悪魔王の気持ちは知っている。
「結界を壊すには」
「ううん。壊しちゃだめだと思う。リリンが意志って言って思ったの。力で勝っても悪魔王を撃退したことにはならないんじゃないかって。だって安心できなかったらまたちょっかいかけてくるでしょ?」
「確かにその可能性は高いと思うわ。助けるためだけに次元を超えてくるんだもの、いくら神クラスと言っても他に与える影響を考えていなさすぎるわ」
どうしてここが暗闇の中だったのか、戦いのさなかではその方が有利だからだと思っていた。
深淵、虚数は世界構築の魔術できっと新月の夜の街を創ることだってできたはずだ。悪魔王はそれをしなかった。
この魔術が、この世界が悪魔王の意志の反映だとするならば、それはきっと不安だ。
私を一人残すことへの不安。これから起こるかもしれない悲劇への不安。自分の手の届かないところにいる大切な人が苦しむかもしれないという不安。
そんな不安な感情から生まれた世界がきっと目の前に広がるどこまでも続くかの如く果ての見えない暗闇。
なら、その闇を力でねじ伏せるのが強さの証明だろうか。私はそうは思わない。
だから。
「この意志を吸収しよう!」
「え!? ちょっと危険じゃないの」
「大丈夫。悪魔王は私を助けようとしていたんだから、それに私がちゃんと大丈夫なんだって証明しないとこの意志に勝ったっていえないじゃない」
「はあ、瑞樹ちゃんがいいなら私は賛成」
「マスターの意志のままに」
「うん」
そう言って私たちは魔導書が解析した中心点にやってきた。
「悪魔王は私を強くしようとしたんだ。この結果だってきっと予想外じゃない。それでもなお心配だから最後にこの魔術を残した。私は自分を心配してくれた人を力でねじ伏せるような恩知らずではないし、恥知らずでもないよ。大丈夫、私はこれから何があっても負けないから」
「吸収を始めます」
魔導書が世界に浸食を開始し、悪魔王の魔力が小さく集まっていく。
「終わりました」
私は集まった魔力を星形のブローチにし身に着ける。
「そこでしっかり見守っていてね」
暗闇の世界は砕け、私の知っている街並みが広がる世界が現れる。
地上では桜田が見守る様に立っていて、私の視線に気づくと、手を振った。
私は浮遊しながら、桜田に近づき、
「終わったよ」
「僕の予想通り瑞樹ちゃんはやり遂げたね。それじゃあ、戻ろうか」
そう言われて、案内されたのは見知った鳥居のある神社。
あかね家が管理する神社だった。
「ここを通り抜けると表に出られる。僕は、最後は全力で戦うことも覚悟してたんだけどね。いや~瑞樹ちゃんのスペックには恐れ入った」
「何言ってるんだよ。桜田は初めから準備していたでしょ」
「はは、気づかれていたか」
「気づいたのはついさっき。魔神になった時かな」
私は桜田の狙いに気づいていた。もしかしたら初めから感じていたかもしれない。
初めて会ったのは私が女の子になるという怪奇現象に巻き込まれてすぐに届いた手紙が原因だ。待っていたのは桜田だった。
その後輪花さんとも知り合った。
けれど、よく考えればその事実を知るには早すぎた。前からそうなると知っていたかのように早かったのだ。それにいくつか受けた質問も手紙を出した時には知っていたはずなのに、いらないやり取りをしたものだった。
「桜田の言っていた上司って神樹だったんだね」
「ああ、僕はお告げを聞いてね。僕は君と協力する道を選んだんだ」
「桜田が敵にならなくてよかったよ」
「僕も瑞樹ちゃんがいなければ悪魔王は倒せなかったと今の今実感している」
リリスの言っていた最終兵器が私なのはなんだかな~という気だが、桜田が魔導書を持ってきた辺り、私がいなかったとしても桜田はリリスとの接点を持っていたことになる。
魔導書をどうやって保管していたかは知らないが、リリスが協力するように仕向けていたのだろう。
「桜田って策士だよね」
「僕が箒を壊したことを言っているのかい? 魔力が暴走して瑞樹ちゃんが危険になることはないと分かっていたからやったんだ。あの箒は僕にしか壊せないからね」
「いや、結構危なかったと思うんだけど」
「リリンの魂を持った瑞樹ちゃんがその魂とどうするのかを知りたかったんだ。だからリリスの魔力で覚醒させた。第一僕はあの戦いですら助けられたとおもっているよ」
「そういえば桜田が戦っているところをあまり見ないけど、戦えないの?」
「僕の力は理とは別に作用してしまうから、あまり関りを持てないんだ。戦ったら国くらいは消せると思うけどね」
悪魔王と闘おうとしている辺り、それもそうかという感じだけれどそれをしれっという桜田は少し恐ろしかった。私も街くらい消せるんだな~と思ってしまったことでその感情もなくなったけれど。
「さて、そろそろ行こうか」
「そうね」
私たちは鳥居を潜った。
読んで下さりありがとうございます。




