変な声
楓の機嫌が直って、しばらくして家の呼び鈴がなった。
こんな時間に誰だろうと俺はモニターを確認。
「サキュバスですよ~~」
「んな!?」
思わず変な声がでてしまった。
それもそうだろう。いきなりこれから闘う相手が訪ねてくることを予測できる奴なんていようものなら紹介して欲しいくらいだ。
心構えを聞きたい・・・・・・
「出てきてもらえますか~~」
「今行く」
「お姉ちゃん、誰だったの?」
「ん~」
俺は少し考えてから、
「怖いお姉さん。だから顔は出すなよ~」
とだけ言って玄関へと向かった。
ガチャリと戸を開け、目線の先には黒く、薄い大きな翼を広げたサキュバスが立っていた。
サキュバスは俺と目線が合うと、にこっと微笑み、近くに来るよう催促する。
「ちょっと早くないか」
俺はぶっきらぼうに言った。
「瑞樹ちゃんと二人で話す時間が欲しかったんですよ」
門を開け、サキュバスの前まで歩を進める。
「話があるだけ? 今なら俺からリリンをどうこうすることもできると思うけど?」
「どうこうするなら前の時にしてますとも。と、時間も惜しいですし話始めますよ」
サキュバスは己の翼を折りたたみ、本格的に話すムードになってしまった。
まあ、俺はどっちでもいいんだけど。
「では、始めに。私の娘とはどこまでいったんですか?」
「はい??」
俺はまたもや呆気に取られてしまう。
だってそうだろう。これから戦いが控えているというのに、その相手がこんな話を切り出してくるなんて想像できるわけがなかろう。
語尾が変になってしまった・・・・・・
「しいて言うなら、キスはした。それ以上のことはしてない」
「なんですって!!」
「お、怒るなよ・・・・・・」
「怒ってなんていないわ。感激しているのよ」
わかりにくいよ・・・・・・
「そう、娘は心を許せる人に出会えていたのね」
もはや物理的にも精神的にもね・・・・・・
そんなツッコミをするほど俺も命知らずではない。
「まさか話ってそれだけ?」
「まさか。ああ、それと瑞樹ちゃん、もう少し近づいてくれるかしら」
「??」
言われるままに近づく。
この時の俺は先ほどの話で完全に警戒心が解けていた。だからサキュバスの次の行動を避けられなかった。
「ふふ」
「んな!?」
俺は次の瞬間、サキュバスからキスされたのだ。
「ふ・・・ふん、んっ・・・・・・んんっ・・・ん~~~」
「私の唾液は媚薬よ~。おいしかったかしら?」
「媚薬って・・・・・・身体が、あついっ」
「それはサキュバスになった副産物でしかないけれど。唾液はちゃんと飲んでくれたかしら?」
「飲んだっていうか、飲ませただろっ」
「それもそうね。これで準備は整ったのね」
「準備?」
俺はくず折れた身体を支えるように、それとなく敏感になった身体を労るようにサキュバスを見上げた。
「そう。もうすぐ福音書をもって、えっと・・・あの人・・・確か瑞樹ちゃんは、桜田とか呼んでいたわね。その人が、その本を持ってきてくれるわ」
「なんでそんなこと、サキュバスのあんたが知っているんだよ」
「だって私と闘う手段なんて、まともに考えれば数えるほどしかないし、あなたがキーならその手段も読めるもの」
なんて、ことだ。なら今ので、その手は封じられて・・・・・・
「だから事前準備。うまくいくようにしてあげたわ」
「はぁ!?」
またもや変な声が出てしまった。
うまくいくように?
そう言ったのか。サキュバスは。
「なぜ?」
俺は考えるよりも先に言葉にしていた。
「なぜって、その工程の中に色欲の魔女因子を持っているか、のチェックがあるんだけれど、持っていないと死んじゃうのよ。その人。私も愛する娘の大事な人が死んじゃうところをむざむざ見過ごすのも後味悪いじゃない。それに・・・・・・」
「それに?」
「私からするとこの未来も奇跡に相当するのよ。だからもっと大事にしたいの」
「そうなの・・・か」
俺にはよく意味が分からずにいた。それを見透かしてか、サキュバスは説明を始めた。
「過去から未来を見据えた時に、その可能性は無限大。その中から、たどり着きたい未来の、その焦点に合わせた時、うまくいっている未来なんて、一握りもない。それを掴んだことは奇跡じゃないと思う?」
「それは確かに、奇跡かもしれない」
「瑞樹ちゃんが生まれる未来もあれば生まれない未来もある。あなたが交通事故で死ぬ未来もあれば、全身複雑骨折で済む未来もあって、何も起きない未来だってもちろんある。そう言った未来の中で、一番平穏でなおかつ、私の娘の魂を持った未来を選んだ。この世界線はそれほど貴重なのよ。ねえちゃんと聞いているの?」
「き、聞いてるよ・・・・・・」
頭がぼうっとする。身体も熱くてだるい。感覚ははっきりしているのに、身体に力が入らない。
「媚薬が効きすぎちゃったみたいね」
そう言ってサキュバスはどこからか液体を浮遊させてきて、何事か呟く。
そして、
「ほら解毒剤よ。飲みなさい」
そう言いながら俺の半開きになった口に、半ば無理やりに入れてくる。
「ん、ぐ・・・・・・ごきゅ、にがっ・・・・・・」
「薬は苦いものよ。じきに効いてくるから頑張りなさい」
「う、うん」
もはや頭は働いていないと言っても過言ではなかった。
「う~ん、今は完全にとけちゃってるわね。契約の仕方とか、もう少し話しておきたいこともあったのに、無理かな~~。はぁ~・・・・・・」
サキュバスが何かを言って、ため息をついていたが俺にその内容を理解する頭は、もうなかった。
「う~~~~ん・・・・・・首筋とか、耳とか、胸は当然として、おへその下とか、そして下半身に移って、あそこは当然で、太ももかな。この辺、全部弱いでしょ」
気でも振れたか、サキュバスは俺の身体のいたるところを触り出した
そのたびに俺は、変な声ではなく、艶目かしく、いやらしく、甘い声を出していた。
媚薬のせいだと思いたい・・・・・・
「なっ、やめ、て」
「色欲の魔女因子は、その名の通り性欲なことをした方が馴染みやすい、らしいわ。大丈夫、私も前任者に同じことをされたから。気にしない、気にしな~~い」
「でも、ここ、そとっ」
俺は涙目になりながら、抵抗できずに悶えていた。
「大丈夫。今は結界が張られていて誰にも見られないし、何があっても誰も傷つかないから」
「け、けっかい・・・・・・」
「きっと、あの不躾で、きな臭い桜田とかいう男が張ったのね。用意周到というか、慎重というか。だからもうすぐ来るでしょう」
「ほらほら」
「ん、んっ。んんっ・・・」
サキュバスに抱きかかえられるように、身体を預けるように触られているので逃げ場がなく、快感に際限はなかった。
「すごい、あなたこっちの才能も・・・・・・いえ、因子の反応が強くなっている。魔力も上がっているわね」
うっすらと開いている眼には、サキュバスの満足そうな顔が映っていた。




