異世界組の訓練
お久しぶりです。皆さん。今回は三人称視点となります。文章に統一性が無いかも知れませんが、生温かい目で見てもらえればと。
――――迷宮《獄地》第一層・森林環境
金神狐であるフラマは崖の上に立ち、一つの扇子の様なモノで扇ぎながら崖下を見ていた。
崖下には一体のワイルウルフとそれに追い詰められている異世界組、十八人。そのワイルウルフと戦ってボロボロになっているのは、伊藤と蓬田を筆頭に、戦う覚悟のある者達九人だ。
ワイルウルフにも傷はあるが、どれも致命傷には至らない。HPで表せば四分の一も減ってない。どう見てもこのままでは異世界組は皆殺しにされ、ワイルウルフに美味しく頂かれる事になるだろう。
そんなスプラッタな光景を見たい訳では無いフラマは、溜息を一つ吐き右手に持った扇子を横に薙いだ。次の瞬間、今まさに飛び掛からんとしていたワイルウルフの首が斬れ、ドスッと音を立てて地面に落ち光の粒子になった。
戦っていた九人は地面にへたり込み、逃げて縮こまっていた九人は呆然としながらワイルウルフが居た場所を見ている。
その様子を見てもう一度溜息を吐き、崖下に飛び降りた。
音も無く着地したフラマに驚いたのは逃げ惑っていた九人だけで、戦っていた者達はあまり反応しなかった。いや、出来なかったと言った方が正しいだろうか?
半々で反応の違う十八人を見て、もう一度溜息を吐きそうになるのを堪えながら戦った九人を見る。
「......お前、はぁはぁ、あの狼......どうやって、倒したんだ?」
『魔力とか感じなかったぞ』と息も絶え絶えな様子でフラマを見ながら言った。
「む? 妾の尻尾から毛を一本だけ伸ばして断ち切っただけじゃ。武器としては鋼糸と言ったところかのう?」
そう言ってカラカラと笑いながら[世界秘宝庫]から生命結晶を取り出して砕いた。砕かれた薄緑色の結晶から光が溢れ出し、その光は傷ついた者を覆い瞬く間に癒した。
「なんだよ、これ?」
「生命結晶と言う物じゃ。クリスタルゴーレムと言う魔物が稀に落とすアイテムじゃな」
蓬田の疑問に軽く答えたフラマは扇子を仕舞うと、腰から生えている九本の尻尾の内一本を抱きかかえるように掴み手櫛で毛を撫で始めた。そしてそのまま戦っていた者達に聞いた。
「それで、どうじゃった? あの犬ッコロとの戦いは」
「なんっつーか......強かった」
目を逸らしながらそう言う伊藤に、気まずそうに頷く残りの八人。フラマはそれを聞いて笑うと倒し方、と言うよりも倒せなかった理由を話し始めた。
「まあそうじゃろうな。じゃが、妾は別に勝てない相手を吹っ掛けた訳では無いぞ?」
「どういう事だ?」
『まあ、尤もな疑問じゃろうな』と言う風に頷いたフラマは更に話し始めた。
「そもそも、じゃ。この犬は主等十八人で掛かれば遅れを取る事無く倒せたのじゃ」
「マジか......」
「本気と書いてマジと読む程大マジじゃ。妾は主等十八人の実力に合わせてあの犬を選んだのじゃが、半数が戦う意思すら見せぬとは、少々誤算じゃったな。どうするかのう」
それ程困っていなさそうな表情でそう呟いたフラマは相も変わらず尻尾を手櫛で整えていた。その様子を見て、逃げ惑っていた九人は表情に暗い影を落としてしまう。鬱なの? 病んでるの? と聞きたくなる程の落ち込み様だが、フラマは一切気にしなかった。
そのフラマの様子が落ち込み具合に拍車を掛けている事等興味の無いフラマは、その狐耳をピコピコと動かして背後の森を見た。
「森の中から二体、賢獄猿とワイルウルフが来るのじゃ。今度は妾が手を貸してやるとはいえ、下手をすれば手足の一本は持っていかれるかもしれんのじゃ。油断せずに戦うのじゃ」
そう言いながら戦える九人を立ち上がらせ、その九人の背後に立つフラマ。そのフラマの背中を見つめる逃げ惑っていた九人。
この場では全て把握しているとは言え、背後の九人は後々どうなるのか。それが解らず、警戒心を高めるフラマは、しかしその内心を知る者は『自分』以外に居なかった。
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――――《獄地》第一層・砂漠環境
――ドオオォォオォン!!
爆音と共に遠目からでも分かる程大きく砂の柱が出来ていた。その砂は乾き切った風に運ばれ瞬く間に消えてしまった。
そして砂柱の中心と思われる場所には五つの人影があった。それは銀神狼のウルと異世界組トップの四人だった。
ただし、四人は汗だくになり、荒い息を吐きながら転がっておりウルの方は、
「後もう少しなんだよな。まあ、後十分程は立てないだろうけど」
辛うじて男と分かる中性的な良く通る声に百八十センチの身長。そして目元まである艶のある黒髪に黒目。更にその頭からは黒毛の狼耳と、尾骶骨の辺りからは黒毛の狼尻尾が生えている。
そう。耳と尻尾を除けば殆ど静嵐凰となっているのだ。この姿になったのはマリアナ海溝よりも深く、ナイル川よりも長い理由がある......筈も無く、凱斗達にお願いされたから、と言う簡単にして至極単純な理由によるものだ。
黒い革の軽鎧と、傍に突き立てた二本の西洋剣はウル......もとい凰の装備である。その状態で腰に手を当てても気品と言うか、威圧感と言うか、そんなモノを放っているのだが、果たして本人にはどこまで自覚があるのだろうか。まあ、その楽し気な目を見れば知れた事だが。
猛暑と言ってもいい程の暑さの中、汗一つ掻かず白い肌も髪もサラサラな状態のまま汗だくで倒れ伏す四人を見つめる。と、いきなり神谷が口を開いた。
「なあ、これ......意味あるのか?」
少し息が荒いが、大分回復してきているだろう。流石【勇者】。そんな勇者が言った『これ』とは魔力放出の特訓の事だ。
自身の全魔力の殆どを一度で放出する行為である。と言っても一度で粗全ての魔力を放出できる者など限られている。まあ、高レベルの[魔力操作]若しくは[魔力支配]を持っていないと出来ない事なのだ。才能があればその限りではないかもしれないが。
「[魔力操作]の特訓だ。[魔力操作]のレベルが上がれば魔法を発動する時に無駄に魔力を消費し無くなったり、後は体内で回す事で身体能力の強化が出来るな。まあ、この位だな。他にも細かい事はあるが面倒だし......嫌ならやめていいぞ?」
挑発的な笑顔で四人に問いかける。返事は決まっていたのだろう。表情を引き締めて立ち上がり、体内で魔力を循環させ始めた。
凰はそれに満足気に頷くと、地面に突き立った二本の剣の柄を握り少しだけ魔力を通した。剣を突き立てたままに放置して四人から離れる。その瞬間、地面が激しく揺れ始めた。
「今から来る奴を魔力だけで倒せよ! 属性魔法とか物理攻撃したら......後で俺が直々に相手する」
凰が言い終わった瞬間、砂の地面から全長十メートル程の蠍が出て来た。その尻尾は二本に分かれていて、片方が毒液を滴らせていた。
「そいつはAランク下位のリュゼスコーピオンだ。攻撃方法とか弱点は自分で見極めろ」
凰は『キシャァァアアァア!!』と叫ぶ蠍と既に逃げ腰になっている四人を見ながら思う。
(倒せない相手にどう立ち回るか、見物だな)
割と酷いが、四人全員が魔力枯渇若しくは一人でも死にそうになったら助けるか。とか考えて、やめた。そもそも助けたら二本の剣を置いて来た意味がない。訂正して死にかけたら助ける事にしている凰。
凰としてはまだまだ軽い特訓なのだが、果たして四人は生きていられるのだろうか? 傍から見たら鬼でしかない。[鬼神]なのであながち間違いでも無いのだろうか?
異世界組の殆どは凰とフラマにしごかれる事になるかもしれない。精神改造訓練もといハート◯ン式訓練の様にならない事を祈るばかりである。




