狼の幻
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風呂が終わって夜中。全員寝静まった時に俺は屋敷の外に出た。
あ、気配魔力その他はちゃんとやってるぞ? 隠ぺい工作が得意なのだよ。創始終焉神王は。
俺が隠密行動を取れば、勘、所謂『なんとなく』と言う様な追跡も無いのだよ。
で、俺は気配などを完全に消したまま、屋敷から離れた場所にある山間に来ていた。
俺は木の枝に座りながら彼方さんを眺めて、話を聞いている。
「オイ。何なんだよアイツ。あのヴェルデを、【龍神】を赤子扱いだったぞ」
「ああ。あんなのが居るなんて聞いてないぞ」
「このままでは計画が......」
云々。いや~、阿呆にしか見えないね。俺が悪いんだけど。
それにあれ、竜人族の姿をしてるけど、実際は魔族何だよね。
面倒臭い事してくれるじゃないか。[看破]も[鑑定]も弾くとか、誰だよ彼方さんに[偽装]と[隠蔽]と[擬態]と[変装]使った奴。
効果が重複しない、つまり上書きされない様に発動するとか、本当に面倒なことしてくれた。
まあ、俺の認識に入った時点で閉じ込められるけど。
では、閉じ込めてから遊ぼうか。
俺が楽しめたらそれでいいんだよ。うん。
――――――――――
僕は逃げていた。月に照らされる森の中を、背後から迫る魔物から逃げていた。
今は、自分の銀髪が鬱陶しく感じる。僕の髪は月の光を反射して、暗い森の中で目立ちたくもないのに目立ってしまう。
――ギャルルァァアアァア!!
なぎ倒される木の音の中から、大気を震わせるような咆哮が聞こえてくる。
聞きたくなくて、耳を伏せ、上から手で押さえる。
毛が逆立つ。幸い、獣人の僕は体力があるし、森も走りなれてるからそこまで疲れてないけど、僕が本気で走っても逃げ切れない。
それでも走った。もう闇雲に、我武者羅に、アレから逃げる為にそれ以外の事を考えず。
「わっ!」
「っ何だよ」
「ん? 獣人か......」
「へ~? これはこれは」
気付いたら、男の人にぶつかって止まってしまった。
目の前の人達は、不思議な人達だった。見た目は竜人族に見えるのに、何か違う。
正確には分からない。匂いも変わらないし、着物を着ているから同じだと思う。だけど、僕の勘が違うと告げて来る。
それに何より、竜人族の人達は下卑た顔しないっ!
「嬢ちゃん。どうしたんだ? 迷子か?」
「迷子なら里まで連れて行ってあげるよ」
「ハハハ。安心しろ。オレ達は何もしない」
「近づかないでっ!」
後ろからは魔物、前からも下衆。きっと、こういうのを八方塞がりって言うのかな。
こんな、良い人の様に見せる為に仮面を被った人達なんて、近付いてほしくないっ!
僕は咄嗟に男の人達から距離を取った。動き方を工夫して、なるべく自然に見える様に、僕が出て来た方向を男達の背にするようにした。
僕の耳にはあの魔物が木を押し倒しながらこっちに来ている音が聞こえる。
「おいおい、何で逃げるんだよ?」
「何に怯えているんだい? さあ、里に送ってあげるよ」
「安心していいぜ? 俺達は強いからよ。何も寄って来やしない」
背筋がゾワリとした。僕は嫌悪感をそのまま敵意に変えて、男達を睨む。
「嬢ちゃん。ほら、こっちに――っ!!」
「どうし、たっ!!」
「こいつはっ!!」
男達が振り返って、驚愕した。そこには、僕が逃げていた魔物が、忌々し気に僕らを見ながら佇んでいた。
狼と蜥蜴を合わせた様な黒い魔物。濁った赤い目に怒りの様なモノを灯しながら僕たちを見ている。
「くっそ! 何で気付かなかったんだよ!!」
「知るかそんな事!!」
「取り敢えずこいつを殺すぞ!! でなきゃ計画が終わる!!」
「分かってるよっ、クソッ!」
「チッ!」
僕は、魔物を見ていた男たちの背後に近寄って、
「君たちはこれで終わりだよ」
男達を氷像に変えた。
――――――――――
「なんて幻を見ながら死んだんだ」
僕は目の前で倒れてる男達を見ながら巫山戯る。
僕が目を瞑ると、僕の姿が変わって行った。
銀だった髪は黒に。当然毛先は金、銀、白へ。
狼耳と尻尾が無くなって、眼の色も暗黒と黄金のオッドアイへ。
俺のさっきまでの姿は銀神狼だ。口調や性格を変えていたから分からなかったかもしれないけど。
俺は目の前の男達の記憶を視て、跡形も無く消した。
別に特別なことしてないよ? 灰も残らず焼き尽くした。
俺は楽しかった余韻に浸りながら情報収集を開始した。




