娯楽と工作潰し
俺は今、『スタリウム』から離れた場所を[神狼化]して駆けていた。
え? なんでそんな物騒な姿になって走っているかって?
クライヒ王国の王都『トイフェル』に向かっている。
勿論遠回りでのんびりと楽しみながらだよ?
俺の移動手段で一番速いのは[瞬間移動]や[森羅万象]とかだけど、偶には体を動かさないといけないじゃないか。
そんな訳で俺は[神狼化]して奔っていたのだ。
道中の楽しみは色々あったぞ?
例えば、森の中を歩いている冒険者の周囲に濃霧を発生させて、その周りを音を立てながらすばやく移動する。
するとさ、へっぴり腰になりながら周囲に視線を巡らせて怯えるんだよ。
それでほんのちょっと遊んだ後、一瞬だけそいつらの視界を真っ暗にする。
そして目を見える様にしたら俺が神狼の姿で登場するんだ。
そしたら相手からは突然視界が暗くなったと思ったら、次の瞬間には目の前に巨大な狼がいる。
そいつらは悲鳴を上げる事無く気絶したし。
他には洞窟の奥で火を焚いて休憩をしている冒険者が居てさ。
怪奇現象を仕掛けてあげた。
まず、風もないのに炎が勝手に揺らめいて、消える。
辺りが真っ暗になった瞬間に小石を転がしてカランコロンと音を立てたり、地面や壁を音を立てながら引っ掻いた。
そして、怯えた冒険者達の中心にあった組まれた木の中から、突然蒼黒い焔が出てきて、周囲を昏く照らす。
すると、壁や地面いっぱいに引っ掻いた後があるんだ。
それを見た瞬間冒険者は悲鳴を上げた。
が、その直後に冒険者達より更に奥の方から子供の様な甲高い笑い声が幾つも聞こえた。
冒険者達は情けない悲鳴を上げながら洞窟の出口へと駆けだした。
だが、走っても走っても出口は見えず、その間も絶え間なく笑い声は響く。
それと一緒に追いかけてくるような足音まで響いてくる。
恐怖に駆られた冒険者達は必死に走っていたが、突然前方から物音が聞こえて足を止める。
最早恐慌寸前の冒険者は前の音に耳を澄ませ、音を聞く。
聞こえてきたのは金属製の装備が奏でるガシャガシャとした物音。
足音はゆっくりと、ガシャン、ガシャン、と近付いてくる。
冒険者達は背中合わせになり、得物を手に持ち警戒する。
そして現れたのは中身が空洞の全身鎧と、甲高い笑い声を上げる十五センチ程の闇一色の小人達。
恐慌した冒険者達は我武者羅に攻撃するが、闇の小人は斬られれば増え、全身鎧はそもそも武器が通らない。
暫くすれば気を失って倒れた。
気付いた時には元居た洞窟の中で全員が眠っていた。
壁に傷も無ければ笑い声も聞こえない。
だが、冒険者達は顔を真っ青にしてその洞窟から飛び出し街へと走って行った。
それ以降その冒険者は洞窟の入り口を見ただけで取り乱す程の心的外傷を負った。
等々、とても愉快で楽しい事をしながら二日掛けて『トイフェル』の周辺に来た。
『トイフェル』の周辺は草原になっていて、更にその草原と『トイフェル』を囲むように森が広がっている。
で、俺はその森の中で創始終焉神王の姿になって、しゃがみ込んで何かをしている男の背後から声を掛けた。
「何してる」
「ヒッ!! な、なんだ、ガキかヨ。大人を驚かせるもんじゃねえゼ。さ、家に帰りナ」
完全に何か訳アリですよって反応を有難う御座います。
俺は立ち上がって詰め寄って来る人間の男をスルリと避け、しゃがみ込んで作業を行っていた地面を見た。
そこには直径ニ十センチの魔石に複雑で精密な魔法陣が彫られた物が埋められていた。
「これ、何」
「へ、へへへ。バ、バレちまったんなら仕方ねエ。こ、殺すしかないよナァ?」
彼方さん、最初からだけど語尾が可笑しいよね。
明らかに目に生気が無いし。
仕方ない。
「こ、殺してやッ!!」
男の視界に入って来たのは首から上を無くした自分の体。
その身体がグラリと倒れたところで男の意識も途絶えた。
うん。自分でも思うけどナニこの早業。ビックリだね。
俺は魔石を掘り出す。
そして、[森羅万象]を使って目の前に闇の玉を発生させる。
それは俺の手に乗っていた魔石と男の頭、首なしの体を飲み込むと、だんだん小さくなっていき、最終的には消滅した。
うん。もう隠蔽工作とかなんとかを裏から潰すのも間に合わなくなるかな。
悪神共め、俺でも手に負えない程力をつけてるんじゃないだろうな?
最近は俺の[世界眼]を含めた全ての能力を使っても情報収集が出来なくなったし。
確実に力を付けた。いや、それだけじゃないか。
まあいいや。
今はこんな事じゃないよね。
俺は森から出ると『トイフェル』の門へと向けて歩き出した。
SSSランクのギルカとSランクのギルカの内、Sランクのギルカを取り出す。
『スタリウム』を出る前にそこのギルマスから受け取っておいた物。
Sランクのギルカは縁と書かれている文字が金のカードだ。
まあ、偽装用だけど、これでも面倒事が起こる気がする。
取り敢えず、街に入ったらギルマスに会いに行くか。
俺はそう考えながら『トイフェル』の門に並ぶ列の最後尾に着き、またしても暇潰しとしてステータスの偽装で遊ぶのだった。




