大団円+α
あれから、10か月。
陽光が新緑に照らされて鮮やかに輝く、初夏。
ここ美行藩、江戸屋敷は朝から大騒ぎである。
日頃は冷静な左内まで、藩邸の廊下をあっちにウロウロ、こっちにウロウロ。
屋根には鷹姉妹が陣取り、今か今かと待ち構えている。
忠助と忠太郎も、さっきから掃除に手が付かない。
「右京様、お付きにならないんですか?」
「馬鹿、私が手伝ったらきっとあの世に行ってしまう」
「それもそうですね」
藩医の言葉に、皆深くうなずいた。
その時。
おんぎゃああああああああああっ。
呼応するように、藩邸が割れんばかりの歓声で包まれる。
「騒ぐんじゃないっ、あああ、振動で壁が崩れるっ。瓦が落ちるっ」
しかし、そういう左内の顔もうれしそうである。
「待ちに待った、お世継ぎですね」
左内に抱き上げられて、お鶏が恍惚と目を閉じる。
「ああ、これでお家存続だ」
ま、どんな形でもお世継ぎには間違いない。
左内は胸の内でそっとつぶやいた。
「あなた、ご立派です。子供のおらぬ私、大奥に行かれて子供の生める側室の一人でもお連れになるかと思ったら、まさか、まさか――」
奥方の手には、玉のような赤ん坊が抱かれている。
「ふひ~~~~」
白鉢巻きに白装束。女体化したままの殿が天井からの綱を引っ張ったまま、白目をむいている。
「ご出産おめでとうございます」
奥方の微笑みに力なくうなずく殿。
「もう2~3人子供が欲しゅうございます。また、大奥に行かれますか?」
「勘弁してくれええええ――――」
美行藩に絶叫が響き渡った。
了
「クレージー右京」完結です。長い間お読みいただきありがとうございました。