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乙女ゲームのモブ転生~恋の最前線でカメラを構える男~  作者: 綿木絹
最終章 モブはこうしてモブとなった

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第75話 ネタバレオーケーならクリアは容易い

 オレは今、校庭にいる。

 少し頬を紅潮させて、歩いている。


 学苑の掲示板の前で、やけっぱちになって暴露した。

 この世界の『設定』を叫び続けるという、盛大なネタバレをかました。

 それからというもの、どういうわけか絶好調だ。


 あんな暴挙に出たのに、時間スキップも起きていない。


 オレが知っていることを話せる。

 今までゲームの検閲フラグだと思い込んで口に出せなかった。

 ネタバレ解禁という、情報という巨大な武器を手に入れた。


 しかも、頭痛ペナルティはカケラも見せない。

 ただ、一つ。


 困ったことになっていた。


 何故か、異国の黒装束を纏う常闇朔がいる。


 しかも、オレの目の前にいる。


「いいから続きを話せ。何故、月が現れたのじゃ」


 夜より暗い黒瞳で、彼はオレを睨みつける。

 常闇朔はオレの……いやこの世界の敵である。

 だがこの時、オレは何も考えていなかった。


「グランドクロスだよ。惑星が一直線に並ぶんだ」

「何……クロスと?」

「グランド……クロスだよ。惑星が十字に並ぶ」

「惑星が?……どういうことじゃ」

「まぁ、言葉で言っても分かんないよな。えっと。今、絵をかいてやる」

「ふむ……助かる」


 今まで「禁則事項ですっ」と考えていた。

 話せなかったストレスが、一気に弾けていた。

 

「バランスが揃う……と」

「そう。そしたら重力がどうとかして、異界との通路が開く」


 今のオレには、「なぜなぜ坊や」がとても心地よかった。


「……そうじゃったのか」

「月食がそのしるしで――まあ、ゲームの設定ってだけで」


 ちゃんと言葉として出し切っても、あの忌まわしい眩暈も来ない。

 常闇が理解するということは、完全にネタバレである。


「設定という言葉がお主は好きじゃな」

「あんまツッコむなよ。オレだって設定という知識で知ってるだけだ」


 ネタバレは悪。未来を変えるかもしれない。

 ゲームシステムに干渉するかもしれない。


 オレが勝手にビビって、抑圧していただけだった。


「うふふっ。朔くん楽しそう」

「た、楽しんでなどおらん……」


 横では、月詠が嬉しそうにオレの話を聞いている。

 ただ、何故か


 彼女は空を見上げながら、手のひらをグーパーと繰り返していた。

 まるで、目に見えない空間の重力か何かを、無意識に掴んで確かめているように。


 だが、オレには分かる。

 アレは「いつでも潰せる」というサインだ。


 潰すって何? オレの命ぃ?


 それとも人体の特定の場所っ?!



 月が出るまでの待ち時間。


 綺羅星は首を傾げていた。

 彼女は彼女で、面倒くさそうな顔をしている朔に、興味津々で質問していた。


「で、朔の国ってどんなところなの?」


 朔は少し黙ってから、静かに口を開いた。


「ワシの国には、色がない」

「色がない? 色って……」


 マゼンダの瞳が細められる。

 綺羅星の言う色、それはサファイアブルーのことだろう。


 だが朔は眉を顰めて、首を振った。


「色は色。そのままじゃ。こちらの国――望月と比べて、圧倒的に色が足りない世界。ソレがワシの国、朔の国じゃ」


 どこか遠くを懐かしむ目。

 そして、ある種の決意を持った赤い瞳。


「空も、地面も、建物も、ほとんどが灰や墨のような色合いじゃ。光が少なく、影が長い」


 因みに、まだ空に月は見えていない。

 だが、オレたちが立つ校庭には色があった。

 朔の灼眼は、舞い散る桃色を焦がすように見つめた。

 季節外れの桜が視界を埋め尽くす。

 咲き乱れ、狂ったように花吹雪が舞っていた。


 これも、グランドクロスが近づくことによるもの。

 月の引力や、あの女神の魔力の影響だ。


「へぇ……」


 無彩色の国から来た朔が、その鮮やかな桃色の花びらに見惚れる。

 そこに同系色の色が靡く。


 ボブヘアを揺らし、興味深そうに距離を詰める。

 彼女は月詠には朔を推し、朔には月詠を推す、という目的がある。

 ただ今の彼女は違った。


「ってことは、朔の国には桜、ないの? あたしと同じ色がないの?」


 目的も忘れ、完全に朔を弄り始めていた。

 図星を突かれたのか、朔は過剰に反応して、彼女から顔を背けた。


「そ、そんなことよりさっきの続きじゃ! 月詠を、月の姫を返してもらう!」


 凄みはあるが、まだ身長も伸びきっていない。

 声もまだ高い。


「そんなことより、て。まだ時間はあるでしょ。それに三百年前って」


 キラが退くわけもなく、軽く眉を吊り上げた。

 それを傍らで聞いていた青年がいる。

 夕星律が、ラベンダーの髪を揺らして、静かに頷いた。


「三百年だよ。朔の国は、そんなに長く生きるのかい?」

「無論じゃ。朔には百歳の長老がおる」

「って、俺らと同じじゃねえか」


 赤い髪の真昼剛が、呆れたように短く突っ込みを返す。


「だのに、月詠を返せという。流石におかしいのではないか?」


 そこに金色の。

 東雲暁が穏やかに、でも核心を突く言葉を落とした。


「…………」


 黒い髪の朔が言い淀む。

 茶色い髪のオレは、たまらず口を挟んだ。


 いや、挟んだのは爆弾だったかもしれない。


「そういう意味じゃないって。ま——。朔が言ってるのは、三百年前の話じゃないし」


 するとやはり。

 朔の赤い目が大きく剥かれた。


「守部。お主……」


 朔が何かを言いかける。

 だが、オレの口はもう止まらなかった。


「もっと前――望月の宝石を求めた姫。朔の国の女神とも呼ばれる彼女の名前は、輝夜(かぐや)……だ」


 常闇朔が固まった。

 それはそうなる。オレ自身の我がままだった。

 とんでもないカタルシスをオレが味わいたいだけだ。


 勝手に抑圧してたのは、このオレだけど。


「暁たちの力の根源は、朔からやってきた姫だ」


 これは誰に言うでもない。

 誰かに言われる前に、オレの口から言う。


「……伝承によると、輝夜は男たちに、望月中の財宝を集めさせた」


 みんなが気持ちよさそうに聞いてくれている……気がする。

 なんていうか、オレだけの為の時間に感じた。


「彼女の願いを叶えるために、男たちは強くなる。つまり、魔力の根源は輝夜の力なんだ」


 大体のことを言い切って、オレは満足げに息を吐いた。


 モブの隠し設定の解説。

 ペナルティが発生しないなら、もしかしたら、誰も聞いていないのかもしれない。


 都合の良いことが起きて、運命力かなんかで、偶々聞こえないとかかもしれない。


 なんて、ちょっとだけ考えた。


「で……あってるよな。朔の国の女神様……」


 少し気になったので、反応を窺った。

 オレが尋ねると、朔は短く息を吐いた。


「そう……じゃ。ふん。望月もなかなか勉強をしているらしい」


 常闇朔というヤバい男が、なんだか可愛く見えてきた。

 強がってごまかすようなその態度は、これから望月を滅ぼすようには見えない。


 なんたって、朔くんは悪い子ではない、と月詠が言ったのだ。


 ただ、その瞬間。


 キィィィンと耳鳴りがした。


「ヤ……? た、耐えた……?」


 ペナルティか、もしくは空気か。

 気付くと場が、恐ろしいほどに冷たく変わっていた。


 東雲暁、夕星律、真昼剛、暮小路慧。


 四人の男たちが、イケメンたちが、

 揃いも揃って、感情の消えた目でオレを見据えていた。


「守部……家」

「おいおい。何がどうなってんだ?」


 そして、時間は動き出した。

 国家の根幹の歴史の核心に迫る内容に、上級国民は頭を抱えた。


 モブ生徒の言葉はやはり、彼らにも聞こえていたらしい。


 ある種の神妙な空気の中、綺羅星がふと呟いた。


「もしかして守部家って、朔の人間……だったり?」

「あり得ませんっ」

「えー。なんでよぉ。今のって国家機密だし、しかも確証もない話じゃん」

「ですが、ありえませんっ」


 冷や汗をかく間もない。

 暮小路慧が眼鏡を押し上げ、奥の目を細め、冷静に二度、否定した。


「守部弥彦の素性は、身体検査は入学前に完了しています」

「でも……今の。朔くんも否定してないし」

「綺羅星さん。そもそも守部家は末端ではありますが、貴族です。 そして彼は『月が落ちる』前からいましたよ。——綺羅星家のキラさん」


 頬を膨らませて、ぷいと目を逸らす綺羅星家長女。


 キィン……


 やっぱり、何かが反応してる。


 オレ自身の家系が担う「公式記録係」守部家。

 疑念と混乱が交錯する校庭で、オレは内心で首を傾げた。


(もしかして、守部にペナルティスイッチがある……? 流石にそれは息を吸うなと言ってるのと同じ。 そもそも、オレだって守部弥彦の名前を……)


 キィン……

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