表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームのモブ転生~恋の最前線でカメラを構える男~  作者: 綿木絹
最終章 モブはこうしてモブとなった

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
74/90

第74話 思い違いの発見

 イベントがきっと始まる。


 綺羅星はオレと月詠を引き連れて、エントランスへと向かった。

 人だかりができていたのは、エントランスの掲示板だった。


「成程。これが今回のイベントか……」


 すでに、宵坂以外のメインキャラクターたちが揃っていた。


 恒例のメンバーを紹介しよう。

 第一王子という設定の東雲暁

 騎士団の団長の息子という設定の真昼剛

 宮廷魔術師の家柄という設定のの夕星律

 帝国を動かす宰相の息子という設定の暮小路慧。


 そして、


 一つ年下の異国の王子という設定の常闇朔。

 六人目のキャラまでもが、腕を組んで並んでいる。


「普通にいる……な」

「ちょっと何ぃ? 後輩いじめですかー?」


 マゼンダの瞳が立ち塞がる中、オレは視線を流した。

 どのイベントか、オレも一応掲示板の確認してみる。


「あー……時期的にそうか」


 掲示板には、張り紙が出されていた。

 生徒たちの間から、不安げなざわめきが広がっている。

 生徒たちの声があちこちから聞こえる。


「体育祭の中止は……まあ、分かるけど」

「あの町の様子だとねぇ」


 生徒Aと生徒Bの会話だ。

 掲示板の内容は二つ。

 一つは予定されていた体育祭が中止になったこと。


 そしてもう一つが、生徒たちにとっては首を傾げる内容らしい。

 ひとだかりの理由はどうやら、こっちのお知らせによるものだった。


「でも、月見は今年もあるんだ……。でも月見会って、正気か?」

「月は、落ちたはずじゃ……」


 恒例行事のお月見会が、今年も開催される。


「なーんにもないところを見るってことかな……それとも」

「おいおい、マジかよ。朔の国にガンつけに」


 ちゃんと今年も、十五夜の月見会が開催される。


「ほう……。ガンならいくらでもつけるがいい」

「朔くん、相手にしちゃ駄目だよ」


 約一年前の十二月。クリスマスの後に空から月が落ちた。


 国の一部が焼け野原になったあの大厄災だ。

 その恐怖を思い出したような声が、あちこちから聞こえてくる。


 だが、オレだけ。

 勿論、オレだけ。


 ——全く別のことを考えていた。


(うっわ……体育祭ってあったな……てか、思いだしたくもない。オレが盛大に勘違いしてたやつ……)


 今も、掲示板の前で勢揃いしているし。

 体育祭の時もそうだったし。


 イベントスチルの枚数と、好感度の上がり方とを混同していたし。


 月詠が誰の応援にも行かず……何も起きず。恒例の月見会のイベントもなくな……


「いや、今年もってなんだよ!」

「うるさっ……。突然叫ばないでよ」


 ふと、気づいた。


「去年の美しい月はもう……」

「まさか、アレが最後の月見だったとはな」


 去年の話をしている生徒もいる。

 月詠やキラ、暁も剛も、誰も彼も。


 これって?


 オレ、一年目のお月見会の記憶——なくない?


 十五夜の月見会なのだ。

 そして、ヒロインの名前は月詠なのだ。

 絶対に、絶対に、大事なイベントなのだ。


 そして、


 そういえばと、オレは振り返った。


 誰の個別イベントも発生しなかった、あの体育祭の次って——


(学苑祭だ。アレ、やっぱり、おかしかった。絶対に変だったって。あそこのイベントスチル、全員がガチ恋距離だった。ってか……めちゃくちゃ急接近してたじゃんっ!)


 肝試しはせいぜい、俺の、僕のカッコよいところ的な写真だった。

 そんな肝試しの後の体育祭は、イベントスチルはなかった。


 だが、学苑祭の時はどうだ。


 例えば——夕星イベント。


 魔法の星屑が舞い散る舞台の上。

 黒衣の魔術師が白雪のドレスの姫君を強引に抱き寄せた、王道の一枚。


『月詠。守るのは僕だよ。……忘れないで』

『……はい』


 あの時の月詠は、まんざらでもない顔、頬を染めた顔。

 ちゃんと、オレは見ていたし、写真という証拠もある。


 つまり、間を繋ぐイベントがスキップされている。


 当てはまるのは、月見会イベントくらいだ。

 そこで、一気に好感度が上がった可能性が高い。


(時間スキップ……したのか? それ、おかしくない? オレ、おかしなことしてないしっ!)


 イベントが「ある・なし」ではない、ということ。

 特定のネタバレを踏む、あるいは踏まないことが条件かもしれない。


 そもそも、時間スキップの条件が分からない。


 だが、一つだけ。


 オレに思い当たることがある。


「月がないのに月見って、何を見るんだ」

「け。そんなものは決まっている。ワシは月詠を見守り続けるだけじゃ」


 周囲は未だに「月が落ちた」話で深刻に騒いでいる。


 それが丁度よかった。

 思い当たる現象を、オレは検証のために、ぽつりと口にした。


「ネタバレ……。 例えばここで、月は落ちたんじゃない」


 オレの認識ならここで痛み……


 だが……来ない。


 まだ、足りないだけかもしれない。


「望月と朔の月は同じ月で、月が異界とこちらを結ぶ通路になって」


 また、ぬるりと、言葉が出た。


 それでも、あの痛みはやってこない。


「つまり月が落ちたように見えただけ。実際の月はもう直ぐ現れる、とか」


 眩暈もしない、気絶しそうにもならない。


 ——マジ?


「異界が再び離れるから、朔の国の人間があっちに戻る時期が来た。だから、空に月が現れる。とかも言っちゃっていいってこと?!う……いや、来ない。ちょっと覚悟したけど、やっぱ来ないっ」


 時間スキップは、記憶の喪失、意識の喪失は来なかった。


 代わりに来たのは、静寂だった。


 エントランスのざわめきがピタリと止まる。

 周囲の生徒たちはおろか、東雲や暮小路たちメインキャラ全員


 ここにいる全員が、一斉にオレの方を振り向いた。


「お前、今、なんつった?」

「……今、何と言った?」

「守部……くん……?」


 真昼が目を見開く。

 夕星も神妙な面持ちになる。

 王族の東雲や宰相の息子の暮小路は、かつてないほど真剣で険しい顔になった。


 オレに詰め寄って、口を開く。


「異界の道……?」

「伝承だと、ここからがゲームの始まり……と」


 彼らは神妙な顔でオレを睨む。

 勝手に深刻な政治的・魔術的考察に入り始める。


 だが、それはオレも同じ。

 ネタバレはスキップの条件ではなかったのだ。


 オレも暫く思案顔で、ある種の感動を抱いていた。


 そして、寧ろ清々しい気分で、開き直った。


「ここからが始まりとか……さ。 そんなわけないだろ」

「は? 守部、お前」

「何を深刻ぶってんだよ。ゲームは一年以上前始まってる。っていうか、ゲームはもう終盤だ。な、綺羅星。前に話した時、お前もゲームって言ったよな」


 ゲームの登場キャラにネタバレが許される。


 普通に考えて、この行為は許されてはならない。

 とは言え、彼女には話をしたことがあった。

 うまく行けば、協力関係になるからだ。


 そして、衆目が一気にキラへと集まった。


「げ、ゲームって言ったのは、アンタでしょ!?」


 キラがギョッとして目を見開く。


「 あたしは合わせただけ。実際、この状況は完全に椅子取りゲームだし」

「そう! 乙女ゲーム!」

「は……い?」


 隣で聞いていた月詠が、きょとんと首を傾げた。


「お、乙女ゲーム……て、えっと、何……かな」


 オレは眼を剥いた。

 ゲームキャラ相手に、本気で驚いた。


「何って……月詠は主人公、ヒロインだろ? まさか……自分が何のゲームやってるかも……理解してなかったのか」

「え……? う……うん」


 今までであれば、こんな流れは来ないと思っていた。

 そもそも、何か行動しようとしたら綺羅星が邪魔に入った。

 アドバイザーとしてのシステムがそうさせていた。


 だが、今の彼女は何やら固まっていた。


 オレは鷹揚に右腕を掲げた。


 そして


 ずらりと並んだハイスペックな男たちを一人ひとり指差した。


「東雲暁……真昼剛……夕星律……暮小路慧……常闇朔……あと一人はいないみたいだけど、まぁいいや。いいか、竹取月詠。これはお前というヒロインを巡って、男たちがアピールしまくるゲームなんだよ」


 モブであるオレが、主人公に教える。

 オレは感動に酔いしれた。


 場の時間が少し、止まった。


「い……や。ちょっと待て」


 ハイスペックな男たちは呆然とし、綺羅星がジト目でオレを見る。


「やっぱ椅子取りゲームじゃん。あたし、間違ってないじゃん」


 マゼンダの瞳が光を取り戻す。


「アドバイザー綺羅星。お前も何を言ってんだよ。それを乙女ゲームって言うんだっ」


 すれ違いそうで、実はすれ違っていなかった。


 そんな始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ