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第13話「帰れない」

「……少な」


 地下のライブハウス。


 照明が暗い。


「ほんとにここ?」


「デビュー前だって」


 前の方には、

 何人か人がいる。


 でも、

 空いている場所の方が多かった。


 まゆは入口近くで立ち止まる。


 逃げようと思えば、

 すぐ出られる位置。


 照明が落ちる。


 ざわつきが止まった。


 音。


 最初に見えたのは、

 淡いピンク。


 中央。


 半分眠そうな目。


 その左。


 銀。


 赤い目。


 黒いレザーカラー。


 短い鎖。


 右。


 紫。


 三つ編みの先で、

 鈴が揺れている。


「……」


 隣で、

 友達が小さく姿勢を直した。


 三人とも、

 揃っていない。


 中央だけが少し笑っている。


 銀髪は、

 最初から機嫌が悪そうだった。


 紫だけは、

 客席を見ている。


 曲が始まる。


 重低音。


 照明。


 暗いまま。


 前の方の誰かが、

 スマホを落とした。


 小さな音。


 でも、

 誰も振り向かない。


 中央のピンク髪が、

 何かを話しかける。


 銀髪が顔をしかめる。


 少し笑いが漏れた。


 紫だけは笑わない。


「……変」


 誰が言ったのか分からない。


 曲が終わる。


 拍手。


 でも、

 ざわつきは戻らない。


 まゆは、

 スマホを取り出す。


 通知が溜まっていた。


 画面を閉じる。


 次の曲が始まる。


 ステージの上。


 左。


 銀。


 中央。


 淡いピンク。


 右。


 紫。


 同じ並び。


 同じ照明。


 なのに、

 少し違って見える。


 隣で、

 友達が小さく息を吐いた。


「……なんか眠い」


 まゆはステージを見る。


 銀髪が、

 一瞬だけ客席を睨んだ。


 紫の視線が、

 その横を通る。


 その先。


 後ろの壁際。


 知らない金髪が立っていた。


 暗くて、

 顔はよく見えない。


 でも。


 目だけが合った気がした。


「……え」


 瞬きをする。


 次には、

 もういなかった。


 中央だけが、

 また少し笑っている。


 曲が続く。


 地下は暗いままだった。

御覧頂きありがとうございました。

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