第12話「ライブ」
小部屋。
誰も喋っていない。
ヴァルだけが机に突っ伏している。
リクが、その横を見る。
「まだ怒ってるの?」
「うるせぇ」
即答。
ユエはソファに座ったまま、スマホを見ている。
ミナトだけが静かだった。
そのとき。
扉が開く。
フィラが入ってくる。
「決まったよ」
沈黙。
ヴァルが顔だけ上げる。
「……は?」
フィラは気にせず続けた。
「ライブ」
リクが少しだけ目を丸くする。
「ライブ?」
フィラが頷く。
「小さい箱だけどね」
「地下」
ヴァルが机に顔を戻す。
「無理だろ」
フィラは否定しない。
「そうかもね」
軽い。
ヴァルが顔をしかめる。
「否定しろよ」
リクは少し嬉しそうだった。
「お客さん来るのかな」
「来るよ」
フィラが短く返す。
ヴァルがぼそっと言う。
「物好きが」
リクは少し笑った。
「でも、ライブかぁ」
実感がないみたいに呟く。
ユエはまだ顔を上げない。
フィラが資料を机に置く。
「帰る前に、一個だけ」
ヴァルが顔をしかめる。
「……まだあんのかよ」
「衣装」
短い。
リクが資料を覗き込む。
「わ、黒だ」
少しだけ間。
「暑そう」
ヴァルが小さく呟く。
「今そこか?」
ミナトだけが資料を見ている。
そのとき。
リクの手が止まる。
「……これ」
少しだけ間。
「首輪ついてる」
沈黙。
ヴァルがゆっくり顔を上げる。
「……なんで首輪なんだよ」
フィラは資料から目を離さない。
「必要だから」
短い。
ヴァルが眉を寄せる。
「何に」
少しだけ間。
「抑えるため」
空気が静かになる。
リクが資料を見る。
「抑える?」
フィラはそれ以上説明しない。
ヴァルだけが嫌そうに顔をしかめる。
「……ふざけんな」
小部屋が静かになる。
リクが、また資料を見る。
「あ」
小さな声。
「ユエ、鈴ついてる」
ユエが初めて視線を向ける。
資料のラフ。
黒い衣装。
両耳に、小さな鈴のピアス。
そして、三つ編みの先に一つだけ鈴がついている。
リクが普通に言う。
「ちゃんとついてるね」
ユエは少しだけそれを見る。
何も言わない。
ヴァルが机に突っ伏したまま言う。
「お前のそれ、うるさそう」
「鳴らないから」
ユエが返す。
短い。
リクが首を傾ける。
「鳴るじゃん」
少しだけ間。
ユエは、資料を見たまま言う。
「鳴る時だけ」
沈黙。
ヴァルが顔をしかめる。
「怖ぇんだよ、お前ら」
リクだけが少し笑った。
「でも、似合ってるよ」
誰に向けた言葉か、少し分からなかった。
フィラが資料を閉じる。
「集合、土曜の十八時」
沈黙。
「そこから本番」
ヴァルが真顔になる。
「早すぎだろ」
誰も否定しない。
ユエはスマホを閉じる。
リクだけが、小さく笑った。
「ライブかぁ」
ミナトは何も言わない。
そのとき。
ヴァルのスマホが震える。
沈黙。
画面には、知らない番号。
でも、
誰からか分かる。
ヴァルが真顔のまま電源を落とす。
「……帰る」
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